クラス分けと王女と最高の魔法使い
【主要人物紹介】
ラウ
剣神シンから転生した少年。
ナタリー
ラウと共に上京した幼馴染。
ビスタ
ナタリーの友達でシンの義理の姪。
試験の結果には
ある程度の自信はある。
だが万が一・・・
ラウの胸に不安がよぎる。
改めて考えると最後の問題は
間違っていたかもしれない。
魔法の実技も的は燃やさない方が
良かったかもしれない。
人が判断するのだから何が良いか分からない。
正直ドラゴンと対峙した方が
不安はなかった。
やることが決まっているからだ。
ラウは覚悟を決めて
クラス分け表に目をやった。
名前を探す。
元剣神の目ではすぐ見付けてしまう。
ラウはあえてゆっくり
ひとつひとつの名前を確認していった。
「あったよ!ラウ!やったね!!」
成績順に並んでいる表の
一番最初はナタリーだった。
見事主席合格、新入生代表だ。
ラウは3番目だった。
上手くいったと言っていい。
先ほど話しかけてきた二人は
オルフェが7番、アストンは9番だった。
そして見知った名前が10番目にある。
ビスタだ。
「ビスタもいるね!
一年間、楽しそう!!」
ナタリー嬉しそうにはしゃいでいた。
クラス分けは成績順なのでこの面々は1組だ。
ラウはひと安心し、胸を撫で下ろした。
クラス発表が終わり
各々のクラスで分かれて座る。
いつの間にか合流したビスタの姿を見て
ラウとナタリーは話しかけた。
「さっきまでどこにいたの?」
「試験はどうだった?」
「試験?
この時間からって言われたんだけど
今から試験なのかな?」
そんな訳はない。
もうすでにクラス発表まで終わっている。
思い返せば、この学校は
貴族には少し加点がある。
しかもビスタはただの貴族ではない。
れっきとした王族だ。
加点というより扱い自体が別格だろう。
ナタリーに囁くと
すぐに理解したようだ。
席に座るとビスタは当然の様に
一番前に座っている。
その隣にナタリー、ラウと続いた。
皆が着席すると
先ほど案内していた先生が出てきた。
「はい、それでは先生方の紹介をします。
まず今話しているわたくしは
副校長のスカーレットです。
7年生の1組をみています。
教科は魔法精神学です。
皆様を歓迎します!」
拍手が起こる。
7年1組という事は、
最上級生の成績最上位クラスの担任だという事だ。
相当優秀なのだろう。
中年くらいの中肉中背で銀色の髪を
つむじあたりで丸く束ねていた。
厳格そうだが優しそうな目をしている。
彼女から魔法精神学を習うのだろうか。
「次に1年生の1組から担任を紹介します。
1組 ニフィー先生。
2組 ブライアン先生。
3組 モンストル先生。
4組 クロス先生。
5組 アラモンド先生です。」
それぞれの紹介で拍手がおこり
テーブル前の先生方が
呼ばれた順にお辞儀をした。
スカーレット先生が着座すると
紹介された1年生の担任が
それぞれ自己紹介を始めた。
「1組担当のニフィーです。
教科は基本魔法学です。
皆様、実りある一年にしましょう!」
とても色白で丸い眼鏡をかけている。
副校長より少し年下だろうか。
灰色の髪を片側にたらして結んでいる。
この先生がラウ達の担任だ。
ラウはしっかりした先生である事を期待する。
「2組のブライアンだ。
ニフィーの弟でもある。
体操学を担当している。
魔法使いにも体力は必要だ。
体力の無いものはどんどん鍛えるぞ!」
たてがみの様に見える髪は
黒というより深い青に近い。
目は爛々と輝き、体育会系の体つきだ。
「3組のモンストルだ!
他の先生方と違って私は平民、
それも田舎の村の出身だ。
平民の諸君!
努力次第で貴族も抜けるぞ!
あ、忘れるところだった。
私は調理学を担当している。」
帽子がトレードマークなのか
この室内でも帽子をかぶっている。
ブライアンの様な体つきだ。
調理学とは栄養のある食事から
ポーション作成まで経口系を司る学科だ。
「4組のクロスです。
担当は基本魔道具学。
一緒にがんばりましょう。」
物静かそうな、なかなかの年の先生だ。
おじいさんに差し掛かってるかもしれない。
知識が豊富で頼りになりそうだ。
「5組のアラモンドです。
基本戦闘術を担当しています。
実戦で魔法を役立てる教科です。」
明らかに貴族の雰囲気を
醸し出していて所作も上品な
若い女性の先生だ。
それぞれの先生の紹介が終わると
皆一斉に拍手した。
「それでは校長先生のご挨拶です。
みなさん、拍手でお迎えしましょう!」
スカーレット副校長が言うと
袖の扉から校長が登場した。
ラウはもしかしたら、とは思っていた。
この学校は今年10周年を迎える。
つまり魔王大戦が終わってから
一年後に作られたという事だ。
大戦時、彼女はずっと憂いていた。
魔法を体系立てて教える機関が必要だ、と。
それまでは魔法使いも剣士も
個人レベルで弟子をとり後進を育てていた。
シンもユーフィリアスを弟子にしていた。
戦後彼女は校長になったのだ。
いや、彼女がここを作ったのだろう。
入ってきたのはイリス、
勇者PTの魔法使いだった。
大戦時もイリスの実力は群を抜いていた。
特に大軍相手の時、彼女に助けられたのは
一度や二度ではなかった。
「紹介されたイリス。
ここの校長。
みんなにはここで基礎からしっかり
学んでもらいたい。
がんばって。」
相変わらず愛想のない挨拶だった。
それでも今日一番の歓声と拍手だった。
皆がここでイリスに憧れイリスを目指す。
ラウは胸に溢れるものを抑えきれなかった。
そして目標をあらたにした。
『彼女を超える』
並大抵の事ではないのは良く分かっていた。
誰よりも分かっている。
だからこそそれが
『最高の魔法使い』
を目指すラウの人生の目標になったのだった。
校長の挨拶を終えると、一度解散になった。
教室に入らなければ、夕食まで
各々学園内を散策していいらしい。
ラウとナタリーはビスタと
三人で回り始めたが、そこに
アストンとオルフェがついてきた。
学園内は色々な施設があった。
雨の日でも実技が出来るよう
体育館の様な施設もある。
中庭の一角には噴水を囲うように
ベンチがあり花のアーチが彩っている。
見事な咲いた薔薇の香りがただよっている。
授業で使うのか温室のような施設もある。
さまざまな楽器が置かれている
音楽室のような部屋もあった。
施設は広く、とても数時間で
回りきれる大きさではなかった。
それでも5人は自己紹介をしたり
どの科目が楽しみか語り合ったりしている。
「ビスタ様!
お久しぶりです!」
優しい薔薇の香りにつつまれながら
中庭のベンチで一休みしていると
ビスタに話しかけてくる少年がいた。
ビスタと顔見知りなら貴族だろう。
ビスタの身分も知っている口ぶりだ。
「あら、ソル。
お久しぶりね。」
「皆様ソレイユと申します。
ソルと呼んで頂いて構いません。
以後、お見知りおきを。」
礼儀正しく自己紹介を終えると
しばらくビスタと話す。
人が良さそうで好感が持てた。
少年二人を従えていて、
少年たちはソルの話にいちいち頷いていた。
話によるとどうやらソルは
試験は2位だったようだ。
1位を狙っていたのか
時折ナタリーの方を見て
気にする素振りをみせた。
話をしたいのかもしれない。
急に腰巾着のひとりが言い出した。
「ソル様が本当は1位のはずなのに!」
「やめろ、ゲイル!
誰がそんな話をしている?!」
ゲイルと呼ばれたお供は
それでもナタリーを指差して続ける。
「こんな女が1位な訳がない!
ソル様は優秀なんだ!」
「下劣な平民がソル様より上な訳がない!」
「フィーゴまで!よすんだ!」
ビスタが無試験で1組であるように
貴族であれば加点があるのは噂通りだろう。
それでも無加点のナタリーに1位を取られたなら
実力では完全に劣っているはずだ。
もしかしたらラウよりも下かもしれない。
ナタリーが急に攻め立てられ混乱している。
ラウが口をひらこうとするのを制して
ビスタが言った。
「ソル。
あなたのお供はとてもお行儀が悪いのね。
わたくしのお友達にいきなり指をさして
喚きたてるなんて。
立ち去りなさい。」
「しかしビスタさま・・・」
ソルも混乱している。
ソルにナタリーを批判する
意図はなかったのだろう。
「聞こえませんでした?
早々に立ち去りなさい。」
ソルは片膝をついてビスタに礼をすると
肩を落として立ち去って行った。
フィーゴはまだナタリーに
歯を剥き出す仕草をみせたが
それを諫める元気もないようだった。
「すごいねービスタ。
あんなに偉そうな貴族に
命令しちゃうなんて!」
オルフェが冗談めかして言う。
「ええ。
彼は確かに公爵家の者ですが
昔から私に取り入ろうとするのです。」
アストンとオルフェはぎょっとした。
明らかに動揺している。
公爵といえば貴族階級では一番上だ。
「え・・・っと・・・
ビスタ・・・様の父君は・・・
どなた様ですか?」
「わたしの御父上の名前ですか?
ユーフィリアスです。」
「えええええええええ!」
アストンとオルフェは
顔を見合わせて驚くと
あわてて片膝をついて礼をした。
今回もお読みいただきありがとうございます。
これでシンの仲間全員と会う事が出来ました。
次回も楽しんで頂けたら幸いです。
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