王城と王と王妃
【主要人物紹介】
ラウ
剣神シンから二度目の転生をして
魔法使いを目指す少年。
元々は尾崎進一郎という社畜。
ナタリー
ラウの幼馴染の少女。
ラウと共に魔法学校に入学するために上京。
ビスタ
ナタリーの友達。お金持ちらしい。
ラウにとっては何度も来た見知った城だったが
シンの頃より綺麗になっていた。
ナタリーは感動している。
二人はセバスチャンの先導で案内される。
後ろに衛士が6人、付いてきている。
謁見の間に着くと入口でビスタと別れ
中でしばらく待つように言われた。
衛士4人と中に入る。
中は立派な部屋で正面に玉座と
その左右に少し小さい椅子がある。
正面上方には国旗が飾られ
左右の壁には騎士団の
タペストリーが規則正しく並んでいた。
その下には壁沿いに椅子が並べてある。
衛士に壁際の椅子に案内されると
二人は座った。
衛士たちは玉座を守るように
立っている。
ナタリーがささやいた。
「すごいね、立派なお城だね。」
「そうだね」
ナタリーは終始圧倒されている。
田舎の娘が町に来て数日で
ここに案内されたのだ。
それも当然だった。
「ってことはビスタってお姫様かな?」
「そうかもしれないね」
ラウは考えを巡らす。
それではビスタは
パレム王のお嬢様なのだろうか。
シンが知っているパレム王には
王妃がいなかった。
とても人格者で魔王大戦のときにも
王都の治安は守られていた。
パレム王は、王子の時から騎士団長を務め
自ら剣を取って戦っていたため
非常に指揮力が高かった。
シン達が主力を引き受けていたのも
一助になってはいただろう。
シンはパレム王を尊敬していた。
パレム王に会えるのだろうか。
お元気にされているのだろうか。
「ラウ、誰か来たよ!」
ナタリーの言葉で我に返る。
トランペットを持った二人に先導されて
美しい女性と少女が入ってきた。
ラウは目を疑った。
ビスタと手をつないで歩いている女性。
それはシンの妹、ティアだった。
考えてみればシンを養子にしてくれた
恩人である辺境伯オクタヴィア公は
シンの功績で公爵になったと
ソフィアは言っていた。
その娘のティアは身分としては
王妃にふさわしいだろう。
シンとティアはちょうど10歳離れていた。
妹と言っても血は繋がっていない。
オクタヴィア公がシンを養子にしてから
生まれた子供だった。
だがシンは「チャメ」といって
とてもかわいがっていた。
シンとの間にはティアの二つ上に
セルマという跡継ぎがいた。
義父はシンを跡継ぎにしようとしたが
養子である事を理由に断った。
様々な事情も無く単純に、セルマとティアを
可愛がりたかったのもある。
お互いに変な気を使いたくなかったのだ。
二人もシンを実の兄の様に慕ってくれていた。
ティアには色々な遊びを教えたし
セルマには剣の稽古もつけていた。
ティアの幸せそうな姿に、
ラウの目から涙が溢れた。
それに一役買えた、
義両親に少しは恩返しができた
と思うと誇らしくもあった。
二人が玉座を挟んで着座すると
トランペット隊がファンファーレを奏でる。
短いファンファーレの後、
王が入ってきた。
ラウとティアは跪き、王を待った。
パレム王ではなかった。
勇者ユーフィリアス、その人だった。
ティアに会えたのも驚いたが
ラウはユーフィリアスの顔をみて仰天した。
あのユー坊が王になっている。
もちろん魔王討伐の勇者である、
国を譲られても不思議はなかった。
ラウは感無量だった。
さまざまな思い出、感情で胸が溢れる。
「その方らがビスタを救ってくれたのか?」
ユーフィリアスが話し始める。
と共に、感動していたラウの心に
怒りが込み上げてきた。
「はい、国王」
なんとか返す。
「我が娘を救ってくれたこと、礼を申す。
かなり強い相手だったと聞いている。」
なにが礼だよ。
お前がちゃんと護れ。
ビスタは気を使ってくれたのか
相手はドラゴンだとは伝えずに
ただ強敵だったと言ったのだろう。
「その行動に褒美を与える。
セバスチャン。」
セバスチャンから二人に
小切手が渡された。
一般市民の家族が五年は暮らせる金額だ。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
ナタリーはあまりの金額に
声が震えている。
ラウは安心した。
これでナタリーの金銭面の心配は
しなくていいだろう。
「それから」
ユーフィリアスは続ける。
「本日はお礼の宴を用意した。
ゆっくりとくつろぐがよい。」
「あ、ありがとうございます!」
「では、後ほど、宴の席で。」
ユーフィリアスが下がろうとしたので
ラウは呼び止めた。
「僭越ながら王様。
少しお話をよろしいでしょうか」
「うむ。いいだろう。」
「ここでは。
お人払いをお願いします」
「ここでは話せぬか。
それでは余の部屋でよいか?」
子供とはいえ誰か分からないのに
部屋に呼んでしまうのか?
さすが勇者だ。
「はい、お願いします」
「では付いてくるがよい。」
言うと短いファンファーレの後
ラウを促して部屋へと向かう。
ラウは小声で
「少しまってて」
とナタリーに言うと、ナタリーは頷く。
ビスタが
「ちょうどいいですわ。
私とお茶でも飲みながら
おいしいお菓子でお話しましょう!」
とナタリーを誘ってくれた。
王室に入ると本当に人払いし
二人きりになってくれた。
まぁ騎士団長よりも王の方が強いだろうし
この件は信頼の証と受け取る。
が、色々言いたいことがある。
「おい、ユー坊!」
弟子を前にラウの口調はシンになっていた。
「!!
なにを?!」
弟子は驚いている。
「俺が分からないのか?」
殺気を向ける。
殺意のない殺気だ。
だが師匠と弟子には名刺以上の効果があった。
「師匠?!」
「そうだ。俺だ。シンだ」
「師匠!!!!!
生きてたのですね!!!」
熱い抱擁を受ける。
少年の身体には激しすぎる衝撃だ。
ラウはとりあえず身を任せた。
生きていたというか生まれ変わったのだが。
しばらく経って
ようやく解放されたラウは話し始めた。
「まず!
パレム王はどうした」
「パレム王はご健在です。
魔王討伐の後、跡継ぎがいなかった王は
私に王を譲位され、
今は城下町でご隠居生活をしています。
本人は楽しんでおられますよ。」
良かった。
時間が空いたら会いに行こう。
「次に!
お前が王ならなぜこんなに治安が悪い!
ビスタとナタリーは街中で襲われた!」
「面目ない。
しかしそれについては今調査しています。
どうやら私が王になったことに嫉妬した
複数の上級貴族が少なからず居て
ならず者を抱えているようです。」
「権力争いか。
しかしそのために市民に危険が及ぶなど
言語道断。
お前たちは勝手にやればいいが
街の警備体制はもう少し厳しくしろ!」
「そうですね、
私もそう思っていた所です。
騎士や衛士を増やして街を巡回させます。」
これは今はそれしかないだろう。
とりあえず巡回が増えれば賊も
自由に振舞えなくなるだろう。
ラウの怒りは収まってきた。
事情を聴くと仕方ない部分もある。
あらためて落ち着いて話す。
「それからこれから話すことはただの質問だ。
お前は俺が死んだ時より強いか?」
「おそらく。
敵がいないので実感できませんが
修行は続けています。」
それなら遺言は守られてるという事だ。
「そしてなぜティアが王妃なのだ?」
「あ、ティアを呼んできますか?」
ラウは頷く。
「だがその前にお前から聞きたい」
「師匠が力尽きた後、
我々は師匠の亡き骸を
オクト公爵邸に運びました。
公爵家は悲しみに包まれ
三ヵ月も喪に服していました。
私は王都に報告を済ませると
オクト邸に通いました。
最初は悲しみに暮れる師匠のご家族を
慰めるためでしたが、
だんだんティアに会うためになっていきました。」
ティアは美しい。
彼女を超える美貌はエルフだけだろうと
評判の美人だった。
ユーフィリアスが惚れるのも
無理はないだろう。
「そのうち恋仲になり、婚約した私達は
ティアに子供が出来たのを機に
結婚しました。
その後、子どもが出来た事で
跡継ぎが生まれるのを期待されて
パレム王に譲位され
ビスタが王女として生まれました。」
展開が速いのだけが気になるが
勇者であり弟子である男なら
義兄としては諸手を上げて喜ぶべき
納得の相手だった。
正直これ以上の相手はいない。
「師匠がよろしければ
ティアを呼びますね。」
王室の外に待機していた衛士に
指示をすると
ティアを待ってる間に話をした。
生まれ変わった経緯や
ラウとして育った事も話した。
「ソフィアと会った。
あいつはお前が王だと言ってなかった」
「知っていると思ったのか
驚かせようと思ったのでは?」
そうかもしれない。
どちらかというと後者だろう。
言おうと思えば
義父の話の時に言えたはずだ。
「イリスは元気なのか?」
「はい、師匠の遺言通り、彼女も・・・」
コンコン。
ノックの音がする。
ユー坊が促すとティアが入ってきた。
先ほどと違い、王が少年に
敬意を持って接しているのに
驚いているようだったが、
すぐに気を取り直したようだった。
「ティア、ラウと名乗ったこの少年
誰だと思う?」
王が少しふざけて言った。
ラウも乗る事にする。
王妃は不思議そうな顔で聞き返す。
「ラウさんでは?」
「もちろんそうだ。
しかしそうとも言えるし
そうでないとも言える。」
「どういうことですか?」
「落ち着いて聞いてほしい。
心の準備はいいか?」
「分かりました。」
深呼吸した後、ティアは応える。
「どうぞ。」
ラウが口を挟む。
「チャメ!」
ティアをそう呼ぶのはシンだけだった。
茶目っ気たっぷりのティアの少女時代には
ぴったりのあだ名だと思い気に入っていた。
ティアの動きが止まる。
王と少年を交互に見る。
王がふざけているのか確認しているのだろう。
しばらく沈黙が続く。
「お前の笑顔は太陽だな、チャメ」
ラウはとどめを刺す。
これも遊びの最後に
いつも言っていたセリフだった。
「本当に・・・?
お兄様?」
「ああ、俺だ、チャメ」
「お・・・お兄様!
ああ・・・・・」
そのあとは嗚咽しか聞こえなかった。
しばらくしてティアは落ち着くと話始めた。
「お兄様が亡くなったと聞いて
私達はすごく落ち込みました。
父も母もセルマ兄さまも
しばらく食事も喉を通りませんでした。
それでもお兄様は世界を救ったのだと
なんとか納得するしかありませんでした。
こうやってもう一度話す機会に恵まれて
本当に嬉しいです。
お兄様、我々を、そして世界を
救ってくれてありがとうございました。」
一気に言うとさらに続けた。
「それから、今回は娘まで助けて頂いて
感謝のしようがありません。
本当にありがとうございます。」
最後の一言は立ってお辞儀をしながら言った。
そして、太陽の微笑みを浮かべる。
「お前の笑顔は太陽だな!
それから言えなかったことだが
結婚おめでとう!出産おめでとう!」
ティアは駆け寄るとラウを抱擁していた。
ラウも涙を流していた。
本当に嬉しかった。
偶然ながら義理の姪っ子を
助けたわけだ。
しかもそれが弟子の子だったとは。
こんな巡りあわせをしてくれた
女神に心から感謝した。
とりあえずラウの正体は
伏せておくことにして、
三人で食堂に向かうと
ナタリーとビスタはすでに着席して
楽しそうに話の花を咲かせていた。
改めてビスタを見ると
身びいきか、姪っ子は
さっきより愛らしく見えた。
ラウと王と王妃が着座すると
料理が運ばれてきた。
「ラウ殿、ナタリー殿。
心ばかりのお礼だが
どうぞ召し上がってくれ。」
王に戻ったユーフィリアスの声と共に
食事が始まった。
それからは楽しく談笑しながら
食事を楽しんだ。
食事も終わり、食後のデザートが運ばれてくる。
デザートも美味しく頂いたころ
王が話し始めた。
「してラウ殿達はなぜ王都に?」
「ユーシリアに入学します」
ラウの口調も戻っている。
「ほう、それは楽しみだ。
娘のビスタも今年から入学だ。
仲良くしてやってくれ。」
ウインクしながら言う。
分かったよ、しっかり見ておくよ。
ラウは小さく頷きながら王に言った。
「僕も明日の入学試験が楽しみです」
「わたしも!」
「わたくしも!」
ナタリーとビスタが同時に言った。
王と王妃が微笑んでいた。
今回は王と王妃と再会を果たしました。
次回はようやく入学試験です。
ラウの学園生活が始まります。
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励みになります。
基本的には土日を除く月~金の昼に更新します。
次回もよろしくお願いします。