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ドラゴン

初めてドラゴンと対峙したラウ。


火を吐くドラゴンは首を振った。

ラウの動きの速さをみたためか

広範囲を狙っている。


進一郎の知識でのドラゴンは

球状の火球を吐くタイプと

長く火炎放射器のように

炎を吐くタイプがいる。


このドラゴンは後者だった。

やっかいだ。


火球は避ければ攻撃できる。

対して火炎は首を向けるだけで

ずっと攻撃できる。


身体ごと動くラウと、

首を振るだけのドラゴンでは

速さ勝負は相手に分があった。


仕方なくラウはブレスを回避するために

後ろに下がって距離を取った。


少女達に言う。


「ナタリー!ビスタをつれて逃げろ!」


ナタリーに聞こえたかは分からないが

伝わっていることを祈る。


それにしてもドラゴンの動きに違和感がある。

こんなに大きな身体で、

なぜ閃に対応する速さを出せるのか。


[我を使え]


デュランダルが語り掛けてくる。

この期に及んで細かいことは言ってられない。

最高の相棒を使うしかない。


〔魔法で戦えと?〕


[馬鹿をいうな。使えるのか?]


〔少しだけ、な〕


父の剣を鞘に納め杖を抜く。


デュランダルは抜いている間に

すでに光と共に剣に変わっていた。

見知った愛剣だ。


ブレスを吐いたドラゴンは、

余裕を見せているのかラウを見下ろす。

心なしか笑っているように見える。


瞬歩(しゅんぽ)

ラウは間合いを詰める。


(せん)

切りつけるとドラゴンは再び手で弾こうとした。


さすがにドラコンの鱗は固い。

しかしそこはデュランダル、

愛剣はしっかりドラゴンに傷をつけた。

手の甲に傷をつけている。


〔あの速さはどういうことだ?

 閃でさえガードされる〕


[魔力でバフがかかっている

お主も同じことをしていたはずだが]


余計に分からない。


〔どういうことだ?〕


また聞き返してしまう。


[筋力だけでその速さと強さをだせると

本気で思っているのか?]


たしかにそうだ。

ラウは少年の身体で出せる力に

違和感があった。


思い返せば、大人のシンでも

筋肉と骨格だけで出せる速さと強さは

確かに遥かに超えていた。


そういえば女神も言っていた。

魔法の才能はあったはず、と。

無意識に使っていたという事か。


〔ようやく理解できた〕


[それは良かった]


〔倒すぞ〕


[その必要はないと思うが]


最後の言葉はまた理解出来なかったが

悠々と話している場合ではない。


ドラゴンの爪がとてつもない速さで襲い掛かる。

ラウは攻撃を躱す。

ドラゴンの爪が空を切った。


百花(ひゃっか)

ラウは素早い連続攻撃を繰り出す。

威力は低いが手数に特化した技だ。


ドラゴンは固い手の甲でガードをする。

イメージと違う音がした。

金属音の様な少し甲高い音だ。


先ほどまでの動きと違い疲れてきたのか

数発は身体に届き、固い鱗に傷をつけた。


「アイス!」


ドラゴンの背中に氷の塊が命中した。

しかし効いているようには見えない。

鱗に少し痕が程度だろう。


ラウは驚き、魔法が飛んできた先を見た。

ナタリーが杖を構えている。

健気にも戦力になろうとしている。


幸いドラゴンは意に介していない。

さすがの強者、脅威がどちらか分かるのだろう。

だがラウは肝を冷やした。


「逃げろと言っただろ!」


ナタリーに言う。


「嫌!私も戦う!」


その会話の間でさえ、

ドラゴンの攻撃は何度もラウを襲う。

ラウは目が慣れてきたのか

先ほどまでよりは避けやすい。


しかしそれはラウだけの話で、

このレベルの戦いでは

ナタリーは戦力にならない。

正直、むしろ足手まといだ。


ナタリーにしても、

自分の攻撃が通用するとは思っていない。

必死でただ何とかしよう、としているだけだ。


ラウは自責の念にかられた。

逃がすためとはいえ、自分が戦う事で

ナタリーを巻き込んでしまった。


ナタリーがラウを置いて逃げられない事に

気付けなかった。


しかしその想いは

次の瞬間には戦闘意欲になっていた。


≪絶対に勝つ≫


不思議な事にラウの覚悟とは裏腹に

ドラゴンの攻撃からは

明確な殺意は消えている。



(せん)

脚を狙って切りつけると、今度は成功した。


やはり重たい身体では

速く動けても、速く移動は出来ないらしい。

ラウの攻撃は初めて肉まで届いた。


『いたいっ!』

ドラゴンが叫んだ。


(ドラゴンが叫ぶ?)

ラウは今まで魔物が言語を話すのを

聞いたことがなかった。


『もしかして話せるのか?』

『え?通じてるの?』


ドラゴンの動きが止まる。

と同時に敵意も消えた。

同時にラウも警戒しながらも動きを止める。


お互いに先ほどまでの緊迫感が嘘のように

緊張を緩める。


「アイス!」


ナタリーの魔法がドラゴンの背中に命中した。


『冷たっ!』


やはりドラゴンが話している。


「ナタリー!攻撃をやめて!」


緊張が解けてラウは本来の口調に戻る。

ドラゴンに向かって話しかけた。


『会話をしてもいい?』

『うん。僕も初めて人間と話すけど。』


『どうして攻撃してくるの?』

『だって僕を倒そうとしてるでしょ?』


『それはあの人が召喚したから』

『あの人ってあの嫌な魔法使い?』


もう粉々にしてしまった魔法使いの事だ。


『処分しちゃったけど怒ってない?』

『全然!あいつ僕も嫌いだもん。』


『じゃあなんで一緒にいたの?』

『分からない。

 卵から(かえ)ったらあいつがいたんだ。』


卵の時に何らかの方法で盗まれたのだろう。

ドラゴンが言う。


『それであの魔法具で拘束されちゃって。

 僕はあいつを攻撃出来ないんだ。』


都合のいい時に召喚して戦わせる訳か。

しかも召喚した自分の事は攻撃できない。

ずいぶん便利な魔道具もあるものだ。


『それにしても君強いね~。

 人間に傷つけられると思ってなかったよ。』

『こっちもびっくりしたよ。

 大きいのに速いから。』


そこまで話すと、何事かと

ナタリーとビスタが近付いてきた。

驚きの表情を浮かべている。


「ラウ?なにしてるの?」

「ん?僕たちの話分からない?」


「まったく。ただキンキン言ってるだけ。」

「今ドラゴンと話してる」


こういう時にも

ビスタの育ちの良さが出る。

人の会話に割り込んだりしない。


「そうだろうな、とは分かるよ。

 何を言ってるか分からないだけ。」

「ちょっとまってて」


ナタリーに告げるとドラゴンに話しかける。


『それでもう戦いは終わりでいいかな?』

『うん。君がもうかかってこないなら。

 もともと僕には身を守る以外の

 戦う理由がないし。』


ラウは、ナタリーとビスタに向かって言った。


「もう襲ってこないって」

「どうして?さっきまであんなに怖かったのに。」

「なぜですか?」


「あの悪い魔法使いに呼ばれただけだってさ。

 身を守ってただけだって」

「話をしたからもう大丈夫なの?」

「どういう話をしたのかしら。」


確かにラウ自身も話せるだけで

こんなに簡単に解決するのは不思議だった。

このドラゴンがとてもいい奴なのだろうか。

そもそもどうしてドラゴンと話せるのかも

理解できていなかった。


「僕にも良く分からないから説明は出来ないな。

 とにかくもう大丈夫だよ」


二人の少女は納得いかないようだったが

それはラウも同じ事だ。


ラウは剣士の習慣で武器を確認した。

デュランダルはいつの間にか杖に戻っている。

さすがの早業だ。

杖を腰にさし、父の剣を確認する。

異常がないことを確認し鞘に納める。

耳鳴りのような金属音と共に剣は鞘に納まった。


こうして初のドラゴンとの対決は

中途半端な形で終わってしまった。

ドラゴンスレイヤーの称号は

持ち越しのようだ。


「王都に帰ろう」

誰ともなく言うと大事なことに気付く。

ここがどこで王都はどちらか分からない。


『ねぇ君。』

急にドラゴンが話しかけてきた。


『なぁに?』

『ちょっとまって。』


言うとドラゴンは姿を変え、

人間の様な姿になった。

人間の青年くらいの年の頃に見える。

頭の左右に小さな角が生えてる事を覗けば。


「これでよし、と。」

姿を変えた影響か、

今度は少女二人にも分かる言葉で話し始めた。


急に姿を変えて人間、の様、になり

言葉を話したドラゴンにラウは驚いた。

ナタリーとビスタはさらに驚いている。

目を見開いたまま彫刻の様に固まっている。

ドラゴンは気にもしていない様子で話し始める。


「君、僕と契約しない?」

「契約?」


「”魂の契約”っていうらしいんだけど

 僕のご主人様になるってこと。」

「ご主人様?どういうこと?」


「ちょうど君があの嫌な男倒してくれたし

 あいつが持ってた魔道具も壊してくれたし。」

「それで?」


「本当は負けた相手にするものらしいんだけど

 あのままやってたら多分僕負けてたし。」

「そうかな?いい勝負だったけど」


実際そう思う。

相当際どかった。


それより聞きたいのはそこではない。

こちらにメリットがあるのは分かる。

かなり胸も躍る申し出だ。

しかしドラゴン側のメリットが分からなかった。

ラウは直接聞いてみることにした。


「そちらのメリットは?」

「うーん。なんかかっこいいから。」


「本当にどういうこと?」

「だから、かっこいいから。

 よくみると君の魂すごく綺麗だし。

 人間の世界も見てみたいし。

 それに君たち帰り道分からないんでしょ?

 僕なら連れて行ってあげられると思うよ。」


よくよく考えると、

こんな怪物が自然界に自由にいる状態は

かなり恐ろしい。

目の届くところに置いておくのも

悪くない気がする。

なにより憧れのドラゴンからの

願ってもいない申し出だ。


「わかった!どうすればいいの?」

「君は何もしなくていいよ。

 あ、僕はセキト。君の名前は?」


「ラウ。ラウディースだよ」

「分かった。ラウディースだね。

 じゃあ契約するよ。」


ドラゴンはそう言うと

呪文のようなものを唱え始めた。


《我赤竜セキトはこの人間ラウディースに

 忠誠を誓い魂を共にすることを

 女神エリュシオンの名のもとに誓う》


唱え終わるとラウの胸に赤い光が入ってくる。

ラウの中に入るとラウの身体は一瞬赤く光り

そして光は消えた。


「これで契約終了だよ。

 僕を呼びたい時は念じるだけでいい。

 まぁ僕は君についていくけど。」


というと再びドラゴンの姿になった。


『乗って。王都に連れていくよ』


ラウはあまりの出来事に少女二人の事を

気遣う余裕がなかった。

二人を見ると、まだ石化は解除されていない。


「二人とも!しっかりして!

 セキト、ドラゴンが乗せてくれるって!」


何が起こっているのか整理がつかない二人を

セキトの背中に乗せると、ラウも乗り込む。


赤竜セキトは三人が乗ったのを確認すると

暮れかかった空へと飛び立った。


今回はドラゴンとの出会いです。

内容を詰め込みすぎた感がありますが

楽しんで頂けたら幸いです。


次回も盛り沢山でお送りいたします。

ご期待ください。


いいね、ブックマーク、コメント頂けたら嬉しいです。

励みになります。


基本的には土日を除く月~金の昼に更新します。

次回もよろしくお願いします。

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セキトさん従魔契約しちゃったのかな?
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