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7話

パトレシア視点


「皆様、本日は集まっていただき、ありがとうございます」


 私は会釈をすると、会場を見渡した。なんとなく見覚えのある貴族や令嬢もいたが、その中に一人の少年が混じっていた。


(あら? あそこにいるのって……)


 キリッとした鋭い瞳が短く切り揃えた黒い髪型とよく似合っている。間違いない。あの少年はウィリアム第二王子だ! 少し見ないうちに大きくなったわね……


 ふと目が合ったから軽く笑みを浮かべると、なぜか怖い顔をして睨まれた。そして貴族たちを押しのけて私を見上げて……


「待て! こんなの認めない! どこの馬の骨かもわからない田舎娘に王妃が務まるわけないだろ!」


 信じられない事に、声を荒げて私が王妃になる事を否定してきた。流石にこれはショックだ。昔は可愛くて「お姉様、クレアお姉様!」っとか言って甘えて来たのに……


「知ってる? この女は兄様の体調が悪いのをいいことに、看病と言って近寄って距離を縮めようとしたズル賢い女なんだよ!」


 ウィリアムは敵意に満ちた目で私を睨みつける。まぁ確かにそうよね……


「おい、ウィリアム、お前は下がって……」


「マルクス様、ここは私にお任せください」


 私はマルクスを制すると、背筋を伸ばして堂々と語った。


「ウィリアム様、先ほど『お兄様の体調が悪いのをいいことに、看病と言って近寄った』と仰られましたが、これはマルクス様から『もうしばらく滞在してほしい』とお願いされたから側にいたのです。仲良くなりたくて近寄った訳ではありません」


「じゃぁ、どうして兄様の体調が良くなったらすぐに帰らなかったんだ? なぜ街に出かけたんだ? お前の仕事は看病だけだろ?」


 ウィリアムは畳み掛けるように質問を浴びせるが、私は迷わずに即答で答えた。


「それは、マルクス様がお礼がしたいと仰られたので街に出かけたのです。王子からのお誘いを断るのは失礼ですよね?」


 ウィリアムは握り拳を固めると、顔を歪ませて歯軋りをする。


「くそ、言い逃ればかりしやがって! じゃあ王妃になったとしてお前は何をするんだ? 国民のために何ができるんだ?」


 今度は悔しそうな表情で質問してきた。でも、その質問が来るのは想定内。すでに下準備はできている……


「皆さん、突然ですが……ここ最近、王宮の朝食の味が変わったと思いませんか? それに体調も改善されたんじゃないですか?」


 急な質問に会場にいた者たちがポカーンと首を傾げる。でもボソボソと、「言われてみれば確かに……」「あの朝食に出てくるスープの事か? 確かに美味しいな」「ここ最近体が軽いんだよな……」などと口にする。


「実は……そのスープは私の手作りなんです。体に良い薬草や食欲をそそる香辛料を加えて作りました」


「なんだよ? それがどうしたって言うんだよ! 国民には関係ないだろ!」


 ウィリアムは苛立った様子で私を睨む。


「そんな事はありません! 私は薬に関する知識を使い、誰でも安心して暮らせる国づくりします!」


 私は一呼吸おくと、会場を見渡して宣言した。


「もし上手くいかなかったら……王妃の座を降ります。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「……………‼︎」


 さっきまで威勢の良かったウィリアムだったが、一歩後ずさると認めざをえない表情で俯いた。貴族たちも驚いた様子でざわつく。


「本当にクレアにそっくりだな……」


 隣にいたマルクスのぼそっとした独り言が聞こえてくる。そういえば、以前の私も『国民の役に立たない王妃は必要ありません』と言っていたわね……


「ウィリアム、もう下がれ、彼女には王妃としての資質がある。僕はパトレシアと結婚する!」


 マルクスは私の手を握ると力強く宣言をした。不満を言っていた貴族たちも食い入る様に私たちを見つめて頷く。そして惜しみない拍手が送られた。




* * *


「パトレシア殿、そなたがいなかったら息子のマルクスはどうなっていたのやら……本当にありがとう」


 白髪の混じった国王陛下が私の元に来ると深く頭を下げた。これには周りで見ていた貴族や令嬢たちもざわつく。


「陛下頭を上げてください。私はただ、当然の事をしたまでです」


「本当にそなたには感謝している。これからのアルバード王国は二人に任せる。老いては子に従えというからのぉ……」


 国王陛下が手を差し出したので握手を交わすと、会場からまた拍手が送られた。その中にはお世話になった村長の奥さんもいた。


「えっ、どっ、どうしてここに?」


「パトレシアが結婚するって聞いたから急いできたのよ。おめでとう、貴方ならきっと素晴らしい王妃になるわ。村長の妻の私が断言するわ」


 村長の奥さんは顔をシワクチャにして微笑む。その瞬間、これまでの事が走馬灯の様に蘇って、熱い感情が込み上げてきた。


「…………どこの誰かも分からない私を受け入れて、今日まで育てていただき、本当にありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」


 私は村長の奥さんに抱きつくと、声を詰まらせながら感謝の言葉を述べた。


 その後も貴族や令嬢たちが次々と祝福の言葉をかけに来てくれた。


(気持ちは嬉しいけど……やっぱり、貴族のパーティーは疲れるわね……」


 私は頃合いを見て会場を抜け出すと、中庭にあるテラスに避難した。会場とは違って静かで落ち着く。それに夜風が気持ちいい。


「そうやって抜け出すのはクレアお姉様と同じだね」


 軽く体を伸ばして、くつろいでいると、第二王子のウィリアムが隣にやってきた。


「ウィリアム様⁉︎ どうしてこんな所にいるのですか?」


「少し君と二人で話がしたくてね」


 ウィリアムはテラス席に腰を下ろすと、ぺこりと頭を下げた。


「その……さっきはごめん、言い過ぎた」


 正直さっきみたいにまた批判してくると思ったから少し意外だった。ふふっ、やっぱり素直で可愛い子ね。


「だからその……これを受け取ってほしい」


 ウィリアムはワインとグラスを取り出すと、ゆっくりと注いだ。


「その……仲直りの印という事で……」


「そうね、これで仲直りね」


 私は軽くグラスをゆすって香りを楽しむと、一口いただいた。ブドウの芳醇な香りがとてもよく、濃厚で深い味わいが広がる。それになんだか視界が揺らぐ。


「あれ? なんだか眠く……」


 異変に気づいた時はもう遅かった。体を支えようとしても力が入らない。私はそのまま倒れると、意識を無くした。

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