5話
数年前 マルクス視点
「マルクス様、そろそろ時間です。準備をお願いします」
自室のベットで軽く仮眠をしていると、男性執事がやってきた。もうそんな時間か……面倒だなぁ……
仕方なく僕は起き上がると今夜のパーティーのために着替えを済ませてダンスホールに向かった。
相変わらず会場には無駄に着飾った令嬢が色目で見てきたり、貴族同士が自慢話を繰り広げている。早く帰りたい……
僕は適当に挨拶を済ませると、中庭にあるテラス席に向かった。あそこなら誰もいないはず。そう思ったのだが、先約がいた。
「マルクス王子ですか? どうしてこんなところに?」
これが彼女……クレアとの最初の出会いだった。
「どうにもパーティーが僕には合わなくてね。それで避難してきたんだよ。君は?」
「私もです。堅苦しい集まりがどうしても苦手で……」
この日をきっかけに僕たちはパーティーが開催されると、二人で抜け出してテラス席で時間を潰すのが日課となっていた。
初めは何気ない雑談相手としか思わなかったが、何度か話しているうちに彼女の賢さに驚かされた。
何日も議論していた国内の問題を彼女はさらっと解決してしまった。彼女と話していると時間があっという間に過ぎていく。あの面倒だったパーティーもクレアと会えると思うと待ち遠しく感じる。
そんなある日、僕は食事に行くのを口実にデートに誘ってみた。
「実はおすすめの店があるんだ。そこのピザがとても評判でね、よければ一緒にどうかな?」
「いいですね。行きましょう!」
僕は顔には出さないように気をつけて、心の中でガッツポーズをした。
「それじゃあ明日、噴水広場で落ち合おう」
そして翌日、僕たちは誰にも見つからないように城を抜け出して食事という名のデートをした。
* * *
「ここのピザ、本当に美味しいですね!」
クレアはピザを頬張ると、にっこりと微笑んでほっぺたに手を当てた。
「気に入ってくれて嬉しいよ」
残念ながら初のデートに緊張し過ぎて味が分からなかったけど、クレアは気に入ってくれたようでよかった。その後も楽しい食事会は続き、気がつくと夕暮れになっていた。
「また行こうね、クレア」
「はい!」
僕は会計を済ませると、最初に待ち合わせをした噴水広場に向かった。ちょうど人気もなくて静かな雰囲気が漂っている。これはチャンスだ!
「クレア、これを受け取ってほしい」
僕はポケットから小さな包みを取り出し、クレアに手渡した。
「えっ、私にですか? ありがとうございます!」
クレアは大切そうに受け取ると、そっと箱を開けた。中から出てきたのは紫色の蝶のような形をした花の髪飾りだった。
「これはね……ハーデンベルギアという名の花なんだ。花言葉は奇跡的な再会。そして運命的な出会い……」
僕はクレアの背中に腕を回して抱きしめると、そっと唇にキスをした。クレアの頬が夕日のように赤く染まっていく……
「マルクス様……」
「クレア……僕と結婚してほしい」
クレアはこっくりと頷くと両手を広げて僕に抱きついてきた。長い髪が鼻にあたってくすぐったい。それになんだかいい匂いがする。
「ぜひ、よろしくお願いします」
僕は心の中で彼女を一生愛すると誓うと、クレアを強く抱きしめた。
* * *
現在 パトレシア視点
「奥様の事を本当に愛していたのですね」
クレアとの馴れ初め話しが終わり、私は涙が溢れそうになるのを必死に堪えてぽつりと呟いた。
「それはもう……愛していたなんて言葉では表現しきれない程にね」
マルクスの純粋な思いに、心臓がドキッと飛び跳ねる。私は本当にこの人から愛されていたのね……
「さてと、そろそろ行こうか、もう日が暮れてしまったからね」
マルクスは会計を済ませると、待ち合わせ場所の噴水広場に連れて行ってくれた。ちょうど人気もなくて静かな雰囲気が漂っている。まるで告白をされた時と同じね。
「パトレシア、これを受け取ってほしい」
マルクスはポケットから小さな包みを取り出して私に手渡した。これはまさか⁉︎ そっと箱を開けると中からハーデンベルギアの髪飾りが出てきた。
「さっきも話した通り、ハーデンベルギアの花言葉は奇跡的な再会と運命的な出会い。もし、パトレシアがいなかったら僕はとっくに死んでいたと思う。君との出会いはまさに運命的だよ」
マルクスは深く息をはくと、私の目を真っ直ぐ見つめた。
「パトレシア……僕と結婚してほしい」
「けっ……結婚⁉︎」
予想外の発言にいまいち理解が追いつかない……私、今告白されたの? 確かに以前は貴方の妻でしたけど……
「ほっ、本当に良いのですか? 私なんてただの村の娘ですよ? あまりにも身分が違いますし……」
「関係ない! 僕は君の事も愛している!」
マルクスはそっと私の背中に腕を回すと優しく抱き寄せた。
「マルクス様……」
私はこっくりと頷くと両手を広げて抱きついた。まさかもう一度マルクスと再会できて、告白までされるなんて思いもしなかった。
「ぜひ、よろしくお願いします!」
私は泣いてる姿がバレない様にマルクスの胸元に顔を埋めると、なんとか声を絞り出して答えた。
沈みかけた夕日が私たちを優しく見守る。これを奇跡的な再会と言わずになんと言うのだろう?
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