2話
パトレシア視点
「おはようパトレシアちゃん、この前の薬、凄く良かったよ。また頼むよ」
「パトレシアちゃん、いつもの薬をもらえるかな?」
「傷薬と胃薬ってまだ残ってますか?」
先日、失礼な男性商人が大量に薬を買った噂は瞬く間に広がり、今日は朝から行列が出来ていた。薬は飛ぶように売れていく。
何とか全ての人の対応が終わり一息ついていると、鎧を身に纏った兵士が部下を引き連れて私の店にやって来た。あの紋章はまさか……
「この薬を作ったのは貴方ですか?」
「えっと……はいそうですけど」
鎧には鷹をイメージしたアルバード王国の紋章が刻まれている。つまり彼らは王都の兵士たちね。
兵士が見せてくれた薬は、先日、失礼な男性商人に売った新しいお薬だ。もしかして何か問題があったのかしら? だから私を探しにこんな小さな村まで来たの?
「初めまして、アルバード王国、副将軍のティレンドと申します。マルクス王子が貴方に直接感謝の言葉を伝えたいとの事です。どうか王宮までお越し下さい」
ティレンドと名乗った副将軍は胸に手を当てて軽く頭を下げた。貴族のような優雅なたたずまいに、言葉遣いも丁寧で知性を感じさせる。周りにいた村の少女たちはポォーっとした表情でティレンド副将軍を見つめていた。
「マルクス王子からの感謝の言葉? わっ……分かりました。すぐに行ける支度をするので……少々お待ち下さい」
王子からのお願いと言われたら断るわけにはいかない。私は村長さんに事情を伝えると、薬が入ったカバンとお守り代わりの剣を取りに戻った。
またマルクスに会えると思うと嬉しさが込み上げてくる。でも私がクレア王妃の生まれ変わりなんて分かるはずが無い。私たちは赤の他人……今日初めて会う事になる。そう思うと悲しさが込み上げてくる。
「お待たせしました」
村の外に向かうと、豪華な馬車が待機していた。立派な2頭の馬に思わず見惚れてしまう。
「では、行きましょうか」
シートはフカフカで乗り心地も最高。リズミカルな馬車の揺れが心地よくてウトウトし始めていると、外から物騒な声が聞こえてきた。
「止まれ、止まれ、止まれ!」
突然馬車が止まって2頭の馬が悲鳴を上げる。慌てて外を覗いてみると、武器を持った盗賊に包囲されていた。えっ嘘でしょ⁉︎
「おい、金と馬車を置いていけ!」
盗賊のリーダーらしき男が剣を向けて指示を出す。
「えっと……どうしますか?」
「ここは、言われ通りにしましょう。パトレシア様に何かあったら一大事ですから」
ティレンド副将軍は部下に命令をして荷物を運び出した。
「おっ、そこの嬢ちゃん、なかなかの美人じゃないか、せっかくだから遊ばないか?」
荷物運びを手伝っていると、盗賊のリーダーと目が合ってしまった。男はニヤニヤと笑みを浮かべて私を舐め回すように見る。あまりの嫌悪感に冷たい汗が背筋をつたる。なんなのこの人たち?
「結構です。私はアルバード王国に用事があるんです。貴方たちと遊んでいる暇はありません!」
私は冷たい目で男を見下すと、はっきりとした口調で言い返した。
「なっ⁉︎ お前、誰に向かって口をきいてるか分かってるのか?」
男は信じられん! と言いたげな表情でポカーンと口を開ける。隣で見ていたティレンド副将軍も驚いた表情で私を見る。
「えぇ、分かってますよ、礼儀の知らない無礼な男の誘いを断っただけです。何か問題でも?」
「お前……俺を怒らせるとどうなるか分かってるのか?」
「知りませんし、興味もありません。早く道を開けてもらえませんか?」
男は怒りで顔を真っ赤に染めると、私に剣を向けた。
「気が変わった。お前を殺す。今ここでな! お前ら、あの女を殺せ!」
リーダーの命令によって下っ端たちが一斉に剣を抜く。
「パトレシア様、これ以上相手を刺激しないで下さい。危険です!」
ティレンド副将軍は青ざめた表情で止めようとする。でも私は首を振って優しく微笑んだ。
「心配いりません。ここは私に任せて下さい」
下っ端が私に剣を向けて一直線に突っ込んで来た。単純な攻撃ね……
私は流れるような動作で剣を抜いて攻撃を受け止めた。金属どうしがぶつかって甲高い音が辺りに響く。
「なんだこいつ? 女のくせにやるじゃねぇーか?」
男は力任せに押し倒そうとする。流石に力で勝つのは無理ね……私は男が体重をかけた瞬間に力を抜いて攻撃を受け流した。
「おっと!!」
バランスを崩した盗賊の下っ端は大きくよろめく。その隙に私は剣を逆手に構えると、持ち手部分を男のみぞおちに突き刺した。男は鈍いうめき声をあげて倒れる。
「おいおい、女一人に何手間取ってるんだ! さっさと片付けろ!」
リーダーが下っ端を連れて一斉に襲ってきたが、私は全ての剣筋を見切って返り討ちにした。村の門番の方の稽古と比べたら準備運動にもならないわね。
「なっ、なんだこの女⁉︎ 強すぎだろ!」
「クソ、覚えていろよ!」
盗賊のリーダーは下っ端を起こすと、森の奥に逃げていった。
「あっ、この時期の森は危険ですよ」
前回、無礼な商人の男も近道をしようと森に入って大怪我をしてしまった。すぐに警告をしたけど、残念ながら私の声は届かなかった。その代わりに彼らの悲鳴が聞こえてきた。
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