最終話
パトレシア視点
敵国を打ち倒して王国に平和が戻ると、皆んなが私のために盛大な祝勝会を開いてくれた。大広場にはたくさんの料理が並び、貴族も平民も関係なく楽しそうに笑っている。
「パトレシアお姉様!」
豪華な料理を頂いて皆んなとお喋りをしていると、人々の間をすり抜けて、ウィリアムがひょっこりと顔を出した。
「あら、ウィリアム! 私たちがいない間、王国を守ってくれてありがとね」
「当然の事です! パトレシアお姉様も、ご無事で何よりです!」
ウィリアムは少し誇らしげに声を張って答えた。
「お姉様、僕はこの戦いで多くのことを学びました。守るべきものがあるからこそ、人は強くなれるのですね!」
そう語るウィリアムの瞳には、強い決意が宿っていた。すっかり頼もしい青年になっていた。
「立派になったわね……」
成長を密かに喜んでいると、近衛兵のララとルークが私の前に膝をついて頭を下げた。
「貴方たちも大変だったでしょ? 聞いた話だけど殺し屋が紛れ込んでいたそうね」
「そうですね……かなり苦戦をしましたが……」
「僕とララがいたので問題ありません!」
不安そうなララとは対照的にルークは自信満々に胸を張って答えた。本当に優秀な近衛兵だわ。
「パトレシア様、お怪我はされませんでしたか?」
皆んなに労いの言葉をかけていると、薬屋で働くリリアが私の元に駆け寄って来た。
「大丈夫よ。貴方たちには本当に感謝しているわ」
森の奥で子供達が染色に使える薬草を見つけてくれたから色ごとに兵士を分ける作戦を思いついた。もし別の戦略を使っていたら負けていたかもしれない……
「これからもよろしくね」
「はい!」
リリアは元気よく答えると、ララの方に駆け寄って耳元で何かを囁いた。
「ところで……ルークさんには無事にマフラーを渡せましたか?」
「はい、喜んでくれました!」
「よかったですね! ちなみに赤いマフラーは好きな人に送るものなんですよ」
「えっ、すっ、好きな人に?」
ララの頬が赤く染まり、チラッとルークの方を見る。会話は聞こえなかったけど、恋愛関係の話しかな?
「パトレシア、そろそろ時間だから舞台の方に上がってくれないか?」
「はい、今から行きます!」
マルクスに呼ばれて舞台に立つと、国民から一斉に拍手が贈られた。
「パトレシア様! 素晴らしい戦いでした!」
「貴方こそが戦姫です!」
戦場に立って兵士を先導した話は、いつの間にか国中に広まり、多くの人の心を感動させたらしい。
「ありがとうございます。皆さんの協力には本当に感謝しています!」
私は一度言葉を区切って会場を見渡すと、噛み締めるように続きを語った。
「アルバード王国はここからさらに発展し、さらなる繁栄をします。どうか皆さん、これからも私に力を貸して下さい!」
大広間は熱狂に包まれて拍手喝采が湧き起こる。この演説はまるで予言の様に的中して、アルバード王国は繁栄に次ぐ繁栄を極めた。
ある年、周辺の国と連合を提案し、平和条約を結んだ。これにより戦争は激減した。
またある年は、不作で作物が取れない国に食料を送り助け合う制度を提案して、飢餓で苦しむ人をなくした。
国同士の紛争が無くなったことで、年に一度、国を挙げた大規模なお祭りが行われる様になり、周辺国の絆は強固なものとなった。
後に人々から黄金の時代と呼ばれ、平和と発展を極めた。年に一度のお祭りは歴史上に名を残すほど壮大で、新しい文化と技術がここで生まれた。
しかし、そんな輝かしい時代も一つの幕を閉じようとしていた……
パトレシア視点
「パトレシア……確かもうすぐお祭りが始まるよね?」
「そうね……また今年も始まるわね」
私はベットで眠っているマルクスの手を握って答えた。時の流れは本当にあっという間で、あれから何年もの月日が流れた。
バトラ将軍とティレンド副将軍は現役を引退して、指導者として若い兵士の教育をしている。
ララとルークは今でも私の近衛兵として忠誠を誓ってくれている。
ウィリアムはすっかりおじさんになったけど、王国のために毎日仕事をこなしている。
「君はいつまで経っても綺麗なままだね」
マルクスの声は掠れていて、昔のようなハリがない。頬も痩せて腕も小枝のように細い。でも、その顔には若い頃の面影があった。
「そんな事ないわ、最近またシワが増えちゃったわ」
気持ち的には若い頃と変わらず元気なままだけど、鏡を見るたびに歳を取ったのを認めざるをえなかった。
「君と過ごせて本当に幸せだったよ……あの日……君が作った薬がなかったら、とっくの昔に死んでいたと思う……会いに来てくれてありがとう……」
あの日……まだ私が森の奥の村で第二の人生を楽しんでいた頃は、こんな事になるなんて思いもしなかった。
たまたま私が調合したお薬がマルクスの元に届いて、お礼がしたいからと言われ王宮に招かれた。そして再開した時は、とてもショックを受けた。
私が死んだ事でマルクスは心を病んで弱っていた。それなのに私は第二の人生を楽しんでいた。あの日感じた罪悪感は今でもよく覚えている。
「ねぇ……パトレシア……君は一体何者なんだい?」
マルクスは朦朧とした目で私を見つめる。今なら本当に信じてくれるかしら?
「えっと……もう気づいてるんでしょ? そうよ、私はクレア妃の生まれ変わりよ。あなたの事が心配だったから、会いに来たの」
私は一度、話しを区切ると、真面目な表情で続きを語った。
「みんな私の事を小娘扱いしたけど、実はお姫様だったのよ」
マルクスはこっくりと頷くと、私の手を握りしめた。
「うん……今ならそれが本当だって分かるよ……ありがとうクレア……」
マルクスの瞳から涙が溢れて頬を濡らす。私の第二の人生の目的は、マルクスの側にいて彼を支える事。でも、その使命は終わりを迎えようとしていた。
「少し疲れたから……また寝ていても大丈夫かな?」
「もちろんよ……ゆっくり休んでね。マルクス……」
マルクスの瞳から光が消えてそっと手の力が抜けていく。その寝顔は、とても満足そうな……穏やかな表情をしていた。
─完─
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