表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/39

36話

「パトレシア、君はもう十分戦った。すぐに医療班の元に向かって手当てを……」


「大丈夫です。最後まで見届けさせてください」


 本当は今すぐ休みたい。身体中がボロボロで動くたびに激痛が走る。でも、王妃としてこの戦いを見届けないといけない! そんな思いが伝わったのか、渋々承諾してくれた。


「分かった。じゃあ、僕の側から絶対に離れないでね」


「うん、ありがとう」


 私はマルクスに支えられながら大広間を進み、扉に手を当てた。皆んなに見守られながら力をこめて開くと、年老いた白髪のおじさんが怯えていた。ついに追い詰めたわよ!


「グレイオス陛下、もう諦めて下さい!」


「何を言っておる、ここまで来て諦めるか! 衛兵たちこいつらを捕まえろ!」


 後ろの扉がしまって隠れていた兵士が一斉に現れる。廊下や大広間に1人も兵士がいなかったのは、ここで待ち伏せしていたからなのね。


「まずい、パトレシア! 扉を閉められてしまった」

 

 マルクスが必死に叫ぶ。まさか誘き寄せられたの?


「残念だったなパトレシア、お前たちはここで終わりだ!」


 グレイオス陛下は頬を歪ませて悪魔のような笑い声をあげた。


「さぁ、やれ!」


 ジリジリと敵兵に追い詰められる。犠牲が出るのを覚悟して反撃に出ようとすると……


「グレイオス、もう諦めろ」


 後ろの扉が勢いよく開いて、1人の男が入ってきた。えっ、どうして彼が?


「ちょっとアモン、どうして生きているのよ?」


 扉の向こうから現れたのは、なんとアモンだった。


「勝手に殺すなよ姫様……まぁ、瀕死状態なのは変わらねぇけどな」


 アモンは虚ろな目でニヤリと笑みを浮かべる。


「なぁ、姫様、悪いけど剣を貸してくれないか? さっきの戦いでガタがきてるんだよ」


「それは私も同じよ。携帯用のナイフならあるけど……それでいいの?」


「あぁ、構わねぇ」


 アモンはナイフを受け取ると、敵陣に向かって突進した。


「おい、何をしてるんだ!」


「もう俺たちの負けだ。悪あがきはやめろ」


「なんだと? クソ、あの男を殺せ!」


 グレイオス陛下の命令を受けて、兵士たちがアモンを取り押さえようと囲い込む。数本の剣が彼の背中に突き刺さり、大量の血が吹き出す。それでもアモンは止まらなかった。


「お前らは、何をモタモタしてるんだ! 早く仕留めろ!」


 歯軋りをしながらグレイオス陛下は喚き散らす。顔を真っ赤にして怒鳴る姿は、子供みたいに幼稚で滑稽に見えた。


「あんたはいつも命令ばっかりだな。自分の身くらい自分で守ったらどうだ? もう少し姫様を見習え」


「なっ、なんだと?」


 アモンは兵士の間をすり抜けて、グレイオス陛下と対峙した。


「くそ、使えない奴らだな! もうよい!」


 グレイオス陛下は剣を抜いて反撃に出た。普段のアモンなら避けられるはずだけど、手負いのせいか動きが鈍っていた。鋭い突きがアモンの胸に突き刺さる。


「お前は地獄に落ちろ!」


「それはお前も同じだろ!」


 アモンは胸に刺さった剣を抜こうともせず、むしろ前進して窓の方に向かって突進する。


「おい、待て、まさか……やめろ!!!!!」


 バリンっとガラスが割れる音が響き、アモンとグレイオス陛下が外に落下していく。悲痛な叫び声が耳に届き、少し遅れて地面に衝突する音が聞こえてきた。




* * *


「陛下……」


「グレイオス様……」


「あぁ……なんてことだ……」


 主人を失った近衛兵たちは力無く項垂れて床に膝を着く。


「今だ、全員捉えるんだ!」


 敵が怯んだ隙を見逃さず、マルクスはすぐに命令を出して敵兵を捉えていく。


「私たち……勝ったの?」


「あぁ、僕たちの勝利だ!」


 その言葉を聞いた瞬間、感極まった思いが爆発して、私はマルクスに抱きついた。


「もうこれで、パトレシアを狙う輩はいないからね」


 マルクスはギュッと私を抱きしめて長い髪を優しく撫でる。抱擁の中、2人の瞳から涙が溢れて頬を濡らす。その涙は安堵と喜びの混じったものだった。


「無事に勝利出来て本当によかったわ」


「全部君のおかげだよ。本当にパトレシアには助けられてばっかりだね」


「ふふっ、私1人の力じゃないわ。皆んなのおかげよ」


 私はそっと割れた窓ガラスの方に向かって外を見渡した。お城の周辺を警戒していた部隊が私に気づいて歓声を上げる。


「終わったのね……」


「うん、これで終わりだよ」


 私たちはもう一度抱きしめ合うと、戦いの終わりと勝利の喜びを分かち合った。雲の隙間から差し込む太陽の光が私たちを照らす。それは祝福されているみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ