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34話

グレイオス視点


「報告します。第一部隊、第二部隊が完全に敗北して、アルバード軍が我が国に攻め込んできます!」


「報告します。兵士たちがアルバード軍に寝返ったとの事です!」


「報告します! 殺し屋のタヌキとキツネがアルバード軍に捕まったとの事です!」


 立て続けに部下たちが押し寄せてきて悲惨な報告を告げる。クソ、どいつもこいつも役立たずな無能どもが!


「お前ら! 一体何をしてるんだ! こちらの戦力は倍あるんだぞ! なぜ勝てない!」


「それは、アルバード軍の戦略が見事だからと言えるでしょう」


 怯えた声で部下たちが報告をする中、1人の騎士が落ち着いた声で答えた。


「ラグナル将軍、今、何と言った?」


 黒い鎧を着て、赤いマントをかけたラグナル将軍が、低い声で淡々と語る。


「アルバード軍の戦略が見事だったと言いました。実際の話によると奴らは色付きの鉢巻をして連携をしていたそうです」


「なっ何だって? くそ、小癪な手を使いやがって、なんとかしてこい!」


「分かりました」


 ラグナル将軍は胸に手を当てて一礼をすると、マントを翻して王室を出て行った。




* * *


パトレシア視点


「見てください! ウェルタニア王国はすぐそこです。私たちの勝利は目の前です。どうか最後まで私に力を貸してください!」


 兵士たちは頼もしい声で「もちろんです!」「最後までついていきます!」などと返事をした。新鮮な朝日が地平線に広がり、眩しい太陽が私たちを照らす。


「パトレシア様、あれをご覧ください!」


 バトラ将軍が少し慌てた様子で私の元に駆け寄ってきた。何かトラブルかしら?


「軍隊が我々の方に迫ってきてます。すぐにこちらも準備をしましょう!」


「分かりました。皆さん、昨日と同じように鉢巻を巻いて下さい!」


 様々な場所で休憩をしていた兵士たちが一斉に鉢巻を巻く。そして入り乱れていた色彩が各色事に整列を始め、いつでも出撃できる体制が完成した。


「全員構えて!」


 ウェルタニアの兵士は相変わらず黒一色の禍々しい鎧を着ている。その中に赤いマントを羽織った一際目立つ兵士が先頭に立っていた。


「あれが将軍かしら?」


「多分そうだろうね。明らかに雰囲気が違う」


 マルクスの側に寄ると、こわばった声で答えてくれた。確かに他の兵士とは風格が違う。


「アルバード王国の王妃パトレシア殿とお見受けする。私の名前はラグナル。ウェルタ二ア軍の将軍を国王陛下より任されている。そちらの将軍と一騎打ちを申し込む!」


 堂々とした騎士の誇りを感じる声でラグナル将軍が決闘を申し込む。当然こちらの返事は……


「いいだろう。受けて立つ!」


 バトラ将軍は兵士たちに待機を命じると、一歩一歩、踏みしめるように歩きながら前に出た。大将同士の一騎打ちに異様な興奮と歓声が湧き起こる。


「バトラ将軍! 我々の誇りを胸に必ず勝利を!」


「ラグナル将軍! 貴方の力で打ち破って下さい!」


 将軍同士の戦いはその後の戦いに大きく影響を及ぼす。ここで負けたら一気に流れが持っていかれる……なんとしてでも勝ってもらわないと!


「では、参ります」


 ラグナルはゆっくりとした動作で剣を横に置くと、正座をして深く頭を下げた。


 その動作には敬意と決意が込められており、敵であるにも関わらず、感服せずにはいられなかった。 


「騎士道のある奴だな」


 バトラ将軍も剣を地面に置くと、正座をして一礼した。戦いは避けられないけど、確かにそこには相手を認め尊重する崇高な精神が感じられた。


「いくぞ!」


 短い掛け声と共に先に動き出したのはバトラ将軍だった。鋭い連続攻撃を仕掛けるが、ラグナルも機敏に避けながら隙を見て反撃をする。


「やるじゃねーか!」


「それは、こちらのセリフです」


 時間が経つにつれ2人の剣捌きは勢いを増していく。その動きは舞踏のように無駄がなくて美しく、周りで見ていた兵士たちも固唾を飲んで見守っていた。


「そこだ!」


 相打ち覚悟で放ったバトラ将軍の一撃が、ラグナルの胴を貫いた。


「お見事です……」


 ラグナルは崩れ落ちるように両膝を地面につけた。その拍子に兜も外れて、息も呑むような美貌が現れた。


 一つに結んだ長い黒髪が整った顔立ちとよく似合い、キリッとした鋭い瞳には強い意思が宿っていた。


「すまないが剣を一つ貸してもらえないか?」

 

 ラグナルは味方の兵士から剣を受け取ると、自分の腹に目を落とした。えっ、まさか?


 バトラ将軍もその意図を理解すると、もう一度剣を強く握りしめてゆっくりと歩み寄った。


「任せてもよろしいか?」


「あぁ、もちろんだ。あんたは立派な騎士だ。敵じゃなければ最高の戦友になれたのにな……」


「致し方のない事です。これが戦うものの定めです」


 ラグナルは薄く息を吐くと、自らの腹に剣を突きつけた。思わず目を閉じたい衝動にかられたが、彼の勇敢な最後を見届けるために体に力を入れて見つめ続けた。


「ですが……もし私の事を戦友だと思ってくれるのなら、一つだけ頼みを聞いてもらえますか?」


「なんだ? 言ってみろ?」


「どうかグレイオス陛下を止めて下さい。最初は国の平和と平等を掲げて世界を統一するはずだった、それなのに……いつの間にか名誉と地位のために領地を奪うようになってしまった……どうかグレイオス陛下を……」


「分かった。後の事は任せろ。あんたの事は忘れないぜ、勇敢な戦士ラグナル……」


 バトラ将軍の掲げた剣が太陽の光に照らされてキラリと光る。真っ直ぐ振り下ろした剣は、スパンっと音を立ててラグナルの首を切り落とした。


「立派な方でしたね……」


 私は胸の前で腕を組むと、涙が溢れ出そうなのを必死に堪えた。


「パトレシア、無理はしなくていい。少し休んだらどうだ?」


 そっとマルクスが私の肩に腕を回して抱き寄せる。そこで初めて自分の体が震えているのに気がついた。


「大丈夫よ。まだ戦いは終わってないわ」


 敵兵からは嘆きと悲しみの声が広がる。当然よね。自分たちを導く将軍がやられたのだから……でも、そんな彼らにバトラ将軍が強い口調で叫んだ。


「お前ら将軍がやられたんだぞ! 嘆いていないで今度はお前達がかかってこい! ラグナルの死を無駄にするのか⁉︎」


 その言葉に敵兵たちは一瞬怯んだが、すぐに武器を取って立ち上がり、魂が震えそうな雄叫びを上げた。


「そうだ、かかってこい! 俺たちが相手してやる!」


 将軍がやられ連携の取れない軍隊ではとても相手にならない。戦いは私たちの圧勝で幕を閉じたが、この一戦は決して忘れられないものとなった。

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