33話
キツネ視点
「では、作戦を開始する」
殺し屋アモンの部下であるキツネは、相方のタヌキに目配せをした。このまま重傷者のふりをすればアルバード王国に潜入出来る。
「で、俺たちはどうすればいいんだ?」
「簡単な事さ、アルバード王国を混乱させて姫様にプレッシャーを与える。そして最後のトドメはボスが殺るそうだ」
「侵入して騒ぎを起こすのか?」
「そういう事さ。まさかこんな簡単に入り込めるとは思わなかったけどな」
怪我をした兵士達は簡易テントに招かれて手当てを受けていた。とりあえず一旦ここを抜け出して王室に向かうとしよう。第二王子のウィリアムを逆に捕虜にしてしまえばこちらが有利になる。
「行くぞ」
俺たちはテントから抜け出すと、城に向かった。幸いほとんどの兵士が周辺の警備や手当てに向かっているため警備が甘い。王宮まで向かうのは簡単だった。
「随分とザルだな」
「そうだな……」
タヌキは拍子抜けした表情で門を潜った。それにしても警備が少なすぎる。違和感すら感じる。これはまさか……
「やっぱり侵入者が来たよ」
「本当ね、しかも大物2人ね」
城の前に着くと若い近衛兵が待ち構えていた。片方は茶髪でまだ少年のように見える。そして隣には裏切り者のララが剣を構えて俺たちを睨んでいた。
* * *
ララ視点
「ララ、お前、ボスを裏切ったな!」
元同僚のタヌキと呼ばれている男が怒鳴り声をあげる。私は鋭い目で睨み返すと、キッパリと宣言した。
「もう私は殺し屋なんかじゃない! 今はパトレシア様を守る近衛兵よ!」
「そうか、だったらお前も殺す!」
タヌキが剣を抜いて渾身の一撃を振り下ろした。巨大な体から繰り出される一撃は、まともに受けると盾すら吹き飛ばされる。そんな強力な一撃だけど、すかさずルークが前に出て私を守るように受け止めてくれた。
「やるじゃねーか!」
「この程度で負けてたまるか!」
どうにか堪えているが、流石に体格差があって押されていく。耐えられるのも時間の問題ね……
「ルーク、伏せて!」
私はルークの背後からタヌキに向かって剣を薙ぎ払った。
「離れろタヌキ!」
一歩下がった位置で状況を観察していたキツネが指示を出す。タヌキは体格に見合わない素早い動きでバックステップして距離を開けた。
「逃がさない!」
私は追撃をするために大きく一歩を踏み出したが、
「くっ……!」
背中に激痛が走った。まだこの前の傷が治りきっていないようね……
「どうした? いつもの調子じゃないな? 矢を受けた傷が治ってないのか?」
「そっ、そんな事ないわ!」
「じゃあ、これを受け止められるか?」
タヌキはニヤリと笑みを浮かべながら私に剣を振りかざす。受け止める? いや、無理よ。逃げる? でもどっちに?
当然タヌキの一撃は待ってくれない。とにかく致命傷だけは避けようとすると、
「危ないララ!」
ルークに突き飛ばされて間一髪助かった。その代わりにルークの肩から鮮血が吹き出して服が赤く染まる。
「うぐっ……ぐっ!!」
顔を顰めてルークが傷口を抑える。額からは脂汗が吹き出して腕がだらんっと下がる。
「ルーク!」
「大丈夫……これくらい平気だよ……」
全く大丈夫じゃなさそうな顔で私に無理やり笑みを浮かべる。まずい……このままだと負ける!
「タヌキ、一気に終わらせるぞ」
「そうだな、出来れば痛ぶってやりたいが仕方ねぇ」
相手は殺し屋、そして私たちは手負いの近衛兵。誰が見ても勝利は明確だと思えたが……
「やめろ!!!!!」
「俺たちも加勢するぜ!」
何処からともなく現れた兵士たちが私たちを守るように立ちはだかった。この人たちは? アルバード王国の兵士? いや、違う。この黒一色の鎧は……
「おい、これは一体どういうつもりだ!」
タヌキが忌々しそうに叫ぶ。私たちの前に現れたのは、敵国の兵士たちだった。
* * *
「どうしてあなた達が私を助けてくれるの?」
「俺たちはパトレシア様に救われました。今度は恩返しをする番です!」
「パトレシア様の慈悲をお前達殺し屋に台無しにされてたまるか!」
騒ぎを聞きつけた敵国の兵士たちが続々と集まってきてキツネとタヌキを包囲する。さらに、間をかき分けて、第二王子のウィリアム様もお見えになった。
「君たちがパトレシアお姉様を狙っている殺し屋だな? 覚悟は出来ているよね?」
その声は堂々としていて、威厳のあるものだった。キツネとタヌキも顔を見合わせて小頷く。
「はぁ……俺たちの負けだ」
タヌキは剣をしまうと、両手をあげて降参のポーズをとる。
「腕を縛るから手を前に出して!」
ウィリアムの命令にキツネとタヌキは素直に従う。でも、この2人が簡単に捕まるはずがない! 急に頭の中で警告音が鳴り響く。
「ウィリアム様、お待ち下さい!」
キツネとタヌキの口角がわずかに上がり、警告が確信に変わった。すぐに助けに入ろうとしたが、
「甘いな小僧!」
タヌキが大木のように太い腕でウィリアム様を羽交い絞めにした。やっぱり罠だったのね!
「おい、お前ら動くな! 第二王子がどうなってもいいのか! 今すぐ剣を置いて……」
「今だやれ!」
タヌキの話を遮るようにウィリアム様が叫ぶ。すると、以前マフラー作りでお世話になった、薬屋で働く子供達が現れた。
「くらえ!!」
「行け!!」
子供達は掛け声と共に小袋を投げつけた。袋の口が開いて中から白い粉が飛び出す。あれは一体?
「なっなんだお前らは? この小僧がどうなっても……」
威勢のよかったタヌキの声がだんだん細くなって途切れる。足取りもフラフラして隣にいたキツネも頭を抑えて膝をつく。
「くそ、なんだこれ? 意識が……」
「毒か? いや違う……眠り粉か?」
キツネのたどり着いた答えにウィリアム様はこっくりと頷いた。
「そうだよ。これは眠り粉。薬草の中には睡眠を助ける効果のある薬草があるんだよね?」
「はい、森で薬草を探していたら見つけました!」
子供達の先頭に立っていた、少女のリアンが元気よく答える。
「クソ……ガキのくせに……」
「だめだ、もう意識が……」
タヌキは完全に眠りにつくと、豪快にいびきをかき始めた。狸寝入りじゃなさそうね。キツネも崩れ落ちるように倒れて意識を手放す。
「皆んな、本当にありがとう。おかげで大騒ぎにならずにすんだよ。敵国の兵士達もよくやった。今度パトレシアお姉様に伝えておくよ」
「ありがとうとございます」
兵士たちは一斉に膝をついて頭を下げる。もう完全にウィリアム様の忠実な家来ね。
「リアン、ララとルークの手当てをお願いしてもいいかな? 僕はこの殺し屋達を牢屋に連れてく」
「分かりました」
とりあえずキツネとタヌキを確保できたのはよかったけど、アモンの姿が見当たらない。おそらく戦場にいる……
「パトレシア様、どうかご無事で……」
私は両手を胸の前に組むと、ギュッと目を閉じてパトレシア様の無事を願った。
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