31話
パトレシア視点
空は鉛色の雲に覆われていて薄暗く、ときおり稲妻が上空を走って雷鳴が轟く。雨はまだ降っていないけど、激しい風が窓ガラスを割る勢いで吹き荒れていた。
「いよいよだね」
王室の窓から外を眺めていると、マルクスがそっと隣に来た。
「緊張してる?」
「大丈夫。もう覚悟は出来ています!」
「必ず生きてこの戦を終わらせよう」
「うん、そうね」
戦が始まれば何が起きるか分からない。でも、もうマルクスを置いて死ぬつもりはない!
「パトレシア様、いよいよですね」
扉が開いて、廊下から大商人のイアンが大きな木箱を持って現れた。
「頼まれていたものを持ってきましたよ」
「ありがとうございます!」
私は木箱を受け取って蓋を開けてみた。中には赤や青や黄色など、様々な色の布が入っている。
「本当にこれでよかったのですか?」
「はい、助かりました。これで戦いを有利に進められます! 無理を言ってすみません、後でちゃんとお代を払います」
「わかりました。どうか無事に帰還して下さい」
イアンは私の無事を願うと、イタズラっぽい表情を浮かべて軽い冗談を言った。
「ちなみに、返金が1日遅れる事に請求額が倍になるので気をつけて下さい」
マルクスは目を点にして荒儲けを企む商人を見つめるが、私はクスッと笑って言い返した。
「あら、それは大変ね。じゃあ一刻も早く戦いを終わせて返しにいくわ」
イアンは満足そうに頷くと、深くお辞儀をして部屋を出て行った。そこに入れ替わるように近衛兵のルークとララがやって来た。
「パトレシア様! 必ず勝利しましょう!」
「パトレシア様、私も連れて行って下さい!」
優秀で若い2人の近衛兵はやる気に満ちた目で私を見つめる。
「気持ちは嬉しいけど、ララはまだ本調子じゃないでしょ?」
「これくらいの傷は大丈夫です!」
「本当に?」
私はララの背後に回ると、軽く背中を突いてみた。
「………っ! こっ、こんなの、痛くありません!」
ララは顔を顰めると、強がった口調で答えた。とても大丈夫そうには見えないわね……
「無理はよくないわ。ララはお留守番よ」
「ですが……」
当然納得のいかない顔で必死に食い下がる。その表情はどこか怯えているようにも見えた。
「ララ、もしかして役立たずな自分は見捨てられると思ってる?」
「えっ、そっそんな事は……」
図星だったのか、ララはギュッと口を閉じて小さく頷く。
「大丈夫よ。私は貴方の事を見捨てたりしないわ。連れていけないのはララに何かあったら困るからよ。だから……」
私は軽く咳払いをすると、胸を張って命令をした。
「ララにこの国を任せます。私がいない間、代わりに国民を守って下さい」
「国民を守る……分かりました。アルバード王国の事はお任せ下さい! だから……パトレシア様もどうかご無事で」
ララは力強く頷くと、目元に涙を浮かべて無事を願ってくれた。
「ありがとう。ルーク、ちょっと来て」
私はルークを手招きすると、耳元に顔を近付けた。
「貴方もララの側にいてあげて」
「えっ、ですが僕の使命はパトレシア様をお守りする事です。どうか連れて行って下さい!」
「ララは最近ようやく普通の生活に馴染んできたのよ。だから側で見守ってあげて。貴方にしか出来ないことよ」
「……………」
「お願いルーク。ララと一緒にこの国を守ってくれたら、私も安心して戦いに挑めるから」
「分かりました。僕たちに任せて下さい!」
ルークはハッキリとした声で返事をすると、早速ララと一緒に王国の護衛班の元に向かった。
「パトレシア、そろそろ時間だから行こうか」
「そうね。みんなが待っているわね」
城門前の広場に向かうと、すでに多くの兵士が整列をしていた。私は演壇に立つと、一人一人の目を見て語りかけた。
「皆さん、聞いて下さい! 今この国は危機に直面しています。敵国が私たちの領土を狙い、大切な家族や友人を奪おうとしています!」
全員の視線が私に集中するのを感じる。一人一人の目には不安や恐れが見え隠れしている。
「そこで私は決心しました。私も皆さんと共に戦います!」
兵士たちの間にざわめきが起きる。それもそうよね。今まで戦場に向かったお姫様なんて1人もいない……
「私には国を守る責任があります。しかし、それだけではありません。私も皆さんと同じようにこの国を愛し、愛する人たちがいます! だから私も戦場に行きます‼︎」
自分でも驚くほど力強い声が広場に響き渡る。兵士たちの不安や恐れは消えて、その瞳には期待と決意が宿っていた。
「さぁ、共に戦い、共に勝利を掴み取りましょう!」
兵士たちは力強い声で「「「おおおおーっ!!!」」」」と答えると、剣を抜いて空に掲げた。一人一人の胸に闘志の炎が燃え上がり、全員が一丸となるのを感じる。
私は演壇を降りて兵士たちの先頭にたった。隣にはマルクスとバトラ将軍が控えている。さらにリズミカルな足音と共に黒馬が現れた。
「キング! 貴方も来てくれるのね!」
クレア妃だった頃から懐いている黒馬のキングが、高らかな声で「ヒヒーン!」と叫んだ。その顔つきはやる気に満ちている。ふふっ、頼もしいわね。
「さぁ、皆さん、今から戦場に向かいます。ですがその前に、これを受け取って下さい!」
私は大商人のイアンに頼んでおいた色付きの布を取り出すと、全ての兵士に配って装着するように命令した。
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