30話
ララ視点
「ララ、少し痛いけど我慢してね」
「うん……お願い……その前に何か口に加えるものがないかしら……舌を噛むといけないから……」
私はハンカチを借りると、口に加えて目をギュッと閉じた。
「いくよ、少しだけ我慢してね!」
ルークは私の背中に刺さっていた矢を握ると、素早く、一気に引っこ抜いた。
「んんんんぐうううううう!!!!」
言葉にならない悲鳴が医務室に響き渡り、あまりの痛みに涙が溢れて出てくる。
「ごめんね、消毒をするからもう少しだから頑張って!」
今まで経験した事のない激痛が全身に走る。さらに追撃をするように消毒がしみる。
「お疲れ様、よく頑張ったね。これでひとまず大丈夫だよ」
私は痛みの余韻に耐えながらこっくりと頷いた。もう悲鳴をあげる体力すら残っていない。今は少し休みたい……
「ねぇ、凄い悲鳴が聞こえたけど、何があったの?」
勢いよく扉が開いて、パトレシア様が部屋に飛び込んで来た。その目には不安と怒りが入り乱れていた。
「酷い……誰にやられたの⁉︎」
「多分、アモンだと思います……」
「またあの男の仕業ね、許せないわ!」
パトレシア様は綺麗に整った眉を歪めて目を釣り上げる。普段はニコニコしているから、より一層本気で怒っているのが分かる。
「あの……これを見てくれませんか? 矢に何か書かれています!」
無理やり体を起こして覗き込むと、確かに矢に文字が刻まれていた。
「これは……何かのメッセージね。えっと……えっ、3日後にアルバード王国を攻め落とす⁉︎ 送り主は隣国のウェルタニア王国……これって宣戦布告じゃない!」
パトレシア様は何度もメッセージを読み直すと、腕を組んだまま部屋をウロウロと歩く。
「宣戦布告? しかも3日後に攻めに来るのですか⁉︎」
ルークも口をあんぐりと開いてメッセージを覗き見る。
「とりあえず、この事はマルクスと相談するわ。ララはゆっくりと休んでいて」
「…………ありがとうございます」
私は力無く頷くと、ベットに身を任せた。今はとにかく戦いに備えて体力を回復させよう……
「パトレシア様、作戦会議に僕も同行させて下さい!」
「そうね……本当は来て欲しいけど、ルークはララの側にいてあげて」
「えっ、ですが……」
「弱っている時は信頼できる人が側にいてほしいのよ。だから側で守ってあげて」
「…………分かりました」
パトレシア様は宣戦布告の矢を強く握りしめて部屋を出て行った。
「ララ、今はゆっくり休んでね」
「うん……ありがとう」
ルークは私の隣に座ると、そっと手を握りしめてくれた。今まで仕事で怪我をする事は何度かあった。そのたびに不安な気持ちに苛まれて苦しかったけど今は違う。
「ララが元気になるまで僕が側にいるから安心してね」
「うん………」
信頼できる人が側にいてくれる。それだけで心が温まって安心できる。
「ルーク……少し眠ってもいいかな?」
「もちろんだよ。おやすみララ」
私は小さく頷くと、ルークの丈夫な手を握りしめて深い眠りに落ちた。
* * *
パトレシア視点
「ねぇ、マルクス、これを見て」
私はマルクスの部屋に向かうと、先ほどの矢をマルクスに見せた。
「ウェルタニア王国の宣戦布告⁉︎ しかも3日後に⁉︎」
マルクスはさっきの私と同じように驚くと、何度もメッセージを見返した。
「すぐに兵士を集めましょう。なんとしてでも国民とこの国を守らないと!」
「そうだね。バトラ将軍に伝えて迎え撃つ準備をしよう!」
「そうしましょう。私も戦場に向かって戦うわ!」
「えっ、パトレシアが戦場に⁉︎」
マルクスは私の両肩に手をおくと、真っ直ぐ目を見つめて叫んだ。
「そんなの危ないよ! もし君の身に何かあったらどうするの?」
「それはマルクスも同じよ。もし貴方の身に何かあったらどうするの?」
しばらくの間バチバチとぶつかり合う。でも先に折れたのはマルクスだった。
「分かったよ……でも、無茶なことはしないでね。危ないと思ったらすぐに下がるんだ。僕が必ず君を守る!」
「ふふっ、ありがとう。でも大丈夫。私がマルクスを守るよ!」
私は手を握りしめると、力強く宣言した。すると、よほど嬉しかったのか、
「君が僕を守る……本当に助けられてばっかりだね」
マルクスは感極まった様子で声を震わせると、私をぐいっと引き寄せた。そして顔を近づけて……
「えっ、ちょっ、っんんんん!!」
息も詰まるような長めのキスをされた。ドキッと心臓が激しく飛び跳ねて、一気に体温が上昇する。
「んっはぁ! はぁ、はぁ……待って……今はこんなことしてる場合じゃ……」
危ない……意識が持っていかれそうだったわ……
「すまない、つい我を忘れてしまって……今は大切な時だというのに……」
「続きは無事に戦いが終わってからにしましょう」
私は口元を拭いて乱れた呼吸を整えると、どうにか真面目な顔を取り繕った。そこに誰かの足音が近づいてくる。
「あの……パトレシア様、噂で聞いたのですが……近いうちに戦があるのですか?」
部屋に来たのは大商人のイアンだった。ちょうど良いところに来てくれたわね。
「えぇ、そうよ。ちょうどよかったわ。実はお願いしたい事があるの」
私は2人の顔を見合わせると、ウェルタニア王国に勝つため作戦会議を始めた。
* * *
グレイオス視点
「いよいよだ、ついに明日だ。アルバード王国を攻め落とす! これであの国は私のものだ!」
ウェルタニア王国のグレイオス陛下は、不気味に目を光らせると、低い声で喉をうならせる。
「アモン、いるか?」
「はい」
「敵国の様子はどうだ?」
「そうですね……」
相変わらず不健康そうな殺し屋のアモンは、私の前に跪くと現状報告を始めた。
「兵士の数では圧倒的にこちらが有利。ただ地形の利は向こうにありますが……」
「そんなの関係ない。数で押し切ればよい!」
「それでどうにかなればいいですけど……あの姫様はやり手ですからね」
そう語るアモンの声はなぜか楽しそうに弾んでいた。
「とにかく、我々の勝利は間違いない、なんとしてでもあの国を落とすんだ!」
「お任せください」
アモンはゆっくりと立ち上がると、軽く一礼をして部屋を出て行った。
「もうすぐだ、もうすぐあの国が私の手に!」
アルバード王国はとても栄えている。いずれ全ての国の頂点に立つためには、必ずあそこを落とさなければならない。
「欲しい……なんとしてでもあの国が欲しい!」
クレア妃を殺し、次の王妃パトレシアを狙ったのも全てあの国を手にいれるための下準備だった。
「待っていろ、アルバード王国!」
グレイオス陛下は王座を立つと、窓際に向かい外を見下ろした。
後に歴史にも刻まれる大国同士の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
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