29話
ララ視点
「ここであってるのかしら?」
翌日、私はパトレシア様の命令を受けて貧民街にある薬屋に向かった。ここでは子供達が薬の調合から薬草の採取までしているらしい。
以前、ルークに街を紹介してもらった時に話は聞いていたけど、実際に店に入るのは初めてね。
「お邪魔します」
中は思いのほか広くて、ちゃんと掃除が行き届いていた。作業台の近くでは子供達がカラフルな布を広げて編み物をしている。
子供達は私と目が合うと、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに興味津々の眼差しに変わった。
「お姉さん、誰?」
「何をしに来たの?」
子供達に一斉に質問を浴びせられて、私はぎこちなく笑いながら自己紹介をした。今まであまり子供と話した事がないし、同級生の友達もいないから、どう接すればいいのかよく分からない……
「皆んな、お姉さんが困っているでしょ? 質問は順番にしてあげて」
あたふたと困っていると、1人の少女がトコトコとやって来て丁寧に自己紹介をしてくれた。
「初めまして、リアンと言います。この子達の面倒をみるようにとパトレシア様からお願いされてここで働いてます。今日はどうされたのですか?」
「えっと……初めまして、ララと言います。パトレシア様の命令でお手伝いに来ました。一体何をしているのですか?」
「今はマフラーを編んでいるんです。染色として使えそうな植物が森に生えていたので、毛糸に色をつけて編み物をしたらどうかな? と思って始めたんです」
子供達は色とりどりの毛糸と手編みのマフラーを自慢げに見せてくれた。出来栄えは十分、売り物に出来るレベルね。本当にこの国の子供達は凄いわね。
「ねぇ、お姉さんも一緒に作ろ!」
女の子に手を引っ張られて、私は説明を聞きながら編み物を始めた。う〜ん……なかなか難しいわね。
私はぎこちなく編み棒を動かしながら毛糸を編んでいった。手が震えてしまい上手くいかない……子供たちはクスクスと笑いながらも、丁寧に何度も教えてくれた
「違うよお姉さん、ここはこうだよ!」
編み上げられたマフラーは歪で不恰好だった。でも、子供たちの笑顔と温かな指導に支えられ、次第に形が整ってきた。
「上手、上手! お姉さん凄いね!」
数時間が経ち、ようやく編み物の基本が分かってきた。不器用な指先が徐々にスムーズに動き始め、子供たちとも少しずつ打ち解けてきた。
「ありがとう、皆んなのおかげよ」
編み物を通じて交わした会話の中で、私はまた自分自身が少しずつ変わっていくのを感じていた。
「ねぇ、お姉さん、そのマフラー誰にあげるの?」
リアンは出来上がったマフラーを見つめて尋ねた。
「う〜ん……特に決めていなかったわね……誰にあげたらいいのかしら?」
「それならお世話になった人にプレゼントしてみたら!」
リアンはぽんっと手を叩くと素敵な提案をしてくれた。
「そうね、そうするわ。今日はありがとね」
もう帰る頃には子供たちとも打ち解けて普通に話せるようになっていた。私はリアンに感謝の気持ちを伝えると、マフラーを大切にしまって薬屋を後にした。
* * *
「おはよう、ララ、最近冷えてきたね」
翌日、まだ静かな街を歩きながら王宮に向かっていると、ルークが白い息を吐きながら走って来た。
「おはようルーク」
私は軽く挨拶を交わすと、2人で並んで王宮に向かった。
「ねぇ、そのマフラーどうしたの?」
ルークは私が持っているマフラーを興味深そうに見つめる。
「実は昨日、子供たちと一緒に編んだの。それでお世話になっている人に渡そうと思って」
「そうなんだ、いいアイデアだね。きっとその人も喜んでくれるはずだよ!」
「そうね……そうだといいけど……」
私はそっとマフラーを広げると、ルークの首に巻いてあげた。
「えっ、あっ、僕にくれるの⁉︎」
「うん、受け取って、ルークにはお世話になったから」
ルークは目を細めてマフラーを指でなぞる。その表情には深い感動が浮かんでいた。
「初めてだったから少し失敗しちゃったけど……」
「大丈夫だよ、これ凄く暖かいからララも試してみて!」
ルークはマフラーを緩めると、私の首に巻いてくれた。1つのマフラーを2人で使ったせいで自然と距離が縮まって体がピタッと密着する。
「これで寒い冬も乗り越えられそうだね!」
「うっ、うん、そうね」
確かにマフラーは暖かいが、それ以上にルークとの距離が近いせいで顔が火照り出す。こんな光景、側から見たらカップルに見えるよね?
「ララ、本当にありがとう。こんな素敵なプレゼントをもらったのは初めてだよ」
ルークはそっと私の背中に腕を回すと、ギュッと抱きしめてくれた。突然のハグに一瞬頭の中が真っ白になったが、幸せな気持ちで満たされて自然と頬が緩んでしまう。
「これからも一緒に頑張ろうね」
「うん」
私は小さく頷くと、ルークの胸に顔を埋めた。ひんやりと冷える街中で互いの温もりを感じていると……
ビュン!!!!
静寂を破る鋭い音が聞こえた。背中に何かが突き刺さり、燃えるような痛みが走る。
「うぐっ……ぐっ……あああああ!!!!」
予想外の攻撃に私は悲鳴をあげて崩れ落ちるように倒れた。じんわりと生温かい血が地面に広がる。
「えっ、ララ? 嘘でしょ? しっかりして!」
突然の出来事にルークはあたふたしながら私を呼ぶ。
「大丈夫……急所は外れているわ……」
背中に刺さった矢はわずかに急所から外れていた。こんな事するのはあいつしかしない……やっぱりアモンは私を逃がさないつもりなのね……
「お願い……早く逃げて、まだ敵が近くにいるはず……早くパトレシア様に報告しないと……」
「分かった! 傷口が開くといけないから、今は喋らないで!」
ルークは私をヒョイっと持ち上げると、街を駆け抜けて王宮の医務室に向かった。
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