22話
ララ視点 現在
「お客さん、着きましたよ」
肩を軽く揺らされて目を覚ますと、そこはアルバード王国の門前だった。いつの間にか眠っていたようだ。なんだか昔の頃の夢を見ていた気がする。
「ありがとうございました。お金は置いておきます」
私は馬車を降りると、軽く体を伸ばした。今回の任務はパトレシアの近衛兵として潜入してターゲットを殺す事。早速手続きを済ませて王国に入ると、あちこちで兵士を募集しているチラシが目についた。
(流石ね……アモン様が予想した通りだったわ)
『妻をあれだけ溺愛するマルクスの事だから、どうせパトレシアを守る専属の近衛兵でも編成するはず』
そう語っていたアモン様の言葉は見事的中していた。早速私はチラシを受け取ると、注意事項を念入りに読み込んだ。
(日時は一週間後。応募対象は……男性……)
私は窓ガラスに映る自分を見て軽くため息をついた。ブロンド色に輝く長い髪に、上品にスッと伸びた鼻筋、そして服の上からでもはっきりと分かる豊満な胸が女性らしさをより強調させていた。
このままでは応募すらできない。晒しで胸を押さえつけて……カツラで髪を隠せばバレないかしら?
早速私は衣服屋を見て回って必要な物を集めると、宿屋に向かい、小さな部屋で着替えてみた。これなら割といけるかもしれない。
(必ず合格する……私は殺し屋……殺すことだけが私の唯一の道……失敗は許されない!)
今回の殺害はこれまでとは訳が違う。相手は王妃……そこら辺の奴らとは格が違う……気を引き締めないと!
* * *
試験当日、会場の訓練場に向かうと多くの若い男性が集まっていた。全員薄着でまるで自分の筋肉を見せびらかすような格好をしている。
「なぁ、お前、結構鍛えているだろ?」
「そうか? お前もな、てか、その額の傷はどうしたんだ?」
「これか? 昔、戦いに参加した時の古傷さ、あの時は本当に大変で……」
男たちは自分の筋肉や傷を自慢げに話していた。男ってどうしてそんなに自分を強く見せたいのかしら?
「注目! 私語をつつしめ!」
教壇の上にいかにも偉そうな鎧を纏った男が現れた。その瞬間、空気が張り詰めて静まり返る。あの人がバトラ将軍ね……
「まずお前たちに言っておく事がある。先日の建国際の時にパトレシア様が何者かに命を狙われた!」
突然の報告に会場がざわつく。まぁ、無理もないわね。
「敵はどこに潜んでいるか分からない。そこで優秀な近衛兵を編成する事となった。三日間の訓練を経て最後まで残った奴を任命する!」
訓練は早朝から始まり日没まで続いた。ランニングや筋トレをして、模擬戦もした。男たちは全員息が上がり肩で息をしている中、私だけ平気な顔をしていた。
(自分のペースでやればいいのに……誰かと競おうとするから余計に疲れるのよ。男ってバカね……)
「今日の訓練はここまで、全員宿に戻り、明日の訓練に控えるように!」
バトラ将軍はそう言い残すと会場を出て行った。私たちは宿に戻り食堂に向かった。
「ねぇ、君、隣に座ってもいいかな?」
出来るだけ目立たないように角で食事を取っていると、1人の青年が隣りにやって来た。
こんがりと焼けた肌に、短く刈り上げた茶色い髪、おまけにまん丸で無邪気そうな目をしているせいで子供っぽく見える。
「えっ、うん……いいけど……」
少年はニカっと白い歯を見せて微笑むと、私の隣りに腰を下ろした。
「俺の名前はルーク。君は?」
「えっと……ララ」
「ララか〜 女の子みたいな名前だね」
私は心の中で『しまった!』と呟くと、平然なふりをした。もっと男っぽい偽名を使うべきだったわね……
「君って、細いけど体力が凄いね!」
「そっ、そうかな?」
「だって皆んなへばっていたのに、君だけ平気な顔をしていたでしょ?」
「それは皆が無駄に張り合うからよ。自分のペースを守ればいいのに」
「え〜 だって一番になった方が目立ていいじゃん、バトラ将軍にもアピールになるでしょ?」
ルークは口をへの字にして言い返す。男って1番にならないと気が済まないのかしら?
「よぉ、ルーク、飲んでるか?」
そろそろ席を立とうか迷っていると、別の男がやって来た。
「ありがとうございます」
ルークは注がれたお酒を一気に飲むと、さらにもう一杯注いでもらって飲み干した。酒の勢いもあってか男たちの話し声もデカくなっていく。
「なぁ、ルークはどんな女がタイプなんだ?」
「僕ですか? そうですね〜 やっぱり美人で胸がデカイ人かな〜」
「欲張りな奴だな!」
男はガッハッハっと笑い声をあげると私の方を見た。
「隣のあんたはどうなんだ? どんな女が好みなんだ?」
「どんなと言われまして……私っ……僕は特にないですね」
「なんだよつまらね〜な……あんた顔がいいんだからモテるだろ?」
「いえ、そんな事は……」
あいにく私は女だから女性にモテた事はないし、恋愛的な感情を持つ事もない。でもそれは同性に限らず、根本的に他人を愛する気持ちが分からない……
他人なんて信頼できないし、結婚した相手が毎日酒を飲んで暴力を振るう可能性だってある。男なんてとても信頼できない。
「では、お先に失礼します」
私はルークたちが会話に夢中になってる隙に部屋に戻ると、翌朝の訓練に備えて早めに寝る事にした。
* * *
「今回は二人一組になって組み手をしてもらう。実践と同じように本気でやれ!」
翌日、バトラ将軍は私たちに木刀を渡すと、目を光らせながら私たちの動きを観察した。昨日はおそらく準備運動……本番はここからね。
「ララ! 手合わせをしよ!」
対戦相手を探していると、ルークが手を振りながら走ってきた。なんとなく子犬を連想させるような雰囲気がある。
「まぁ、いいよ……」
私は木刀を抜くと、肩の力を抜いて構えた。適当にやって返り討ちにすればいいかしら?
「やった! じゃあいくよ!」
ルークは木刀を構えると軽く息を吐いた。その瞬間、さっきまでの無邪気な表情が消えて真剣な目付きに変わった。
「はぁ!!!」
掛け声と共に飛んできた一撃は膝をつきそうなくらい重い攻撃だった。しかも追撃をするように連続で襲いかかってくる。なかなか強いわね……
「そこだ!」
ルークの鋭い突きが私の肩に当たる。木刀とはいえ本気の一撃は凄く痛い……きっと酷いアザになっているわね……
「ララ、君も本気できて!」
「………分かったわ」
本当はあまり見せたくなかったけど、仕方がない……私は剣を逆手に持つと姿勢を低く構えた。
「何? その持ち方?」
私は強く地面を蹴ると、一瞬でルークの背後に回り込んで首筋に剣を当てた。これが本物の剣だったら首が飛んでいたわね。
「まっ、参りました……」
ルークは木刀をおいて両手を上げた。勝負ありね。
「ありがとうございました。ララ、肩の傷は大丈夫? ごめん、手加減が苦手で……」
「これくらい平気よ」
「でも手当をした方が……」
「大丈夫よ。放っておいて」
私は右肩を手で押さえてルークに背を向けると、午後からの訓練に備えて軽く休息をとった。
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