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21話

パトレシア視点


「実は……パトレシアを守る近衛兵を作ろうと思うんだ」


 建国祭が終わり、いつもの3人で朝食を食べていると、マルクスが話を切り出した。


「お兄様、それならボクがお姉様を守ります! 殺し屋だろうが、なんだろうが、返り討ちにしてみせます!」


 暗くなりかけた雰囲気を打ち破るように、ウィリアムが胸を張って答えた。昔は甘えん坊だったのに、頼もしくなったわね〜


「ふふっ、ありがとね。でもウィリアムに何かあったら大変でしょ? 気持ちだけ受け取っておくわ」


 私は可愛い弟に感謝の気持ちを伝えて頭をヨシヨシしてあげた。


「おっ、お姉様! ボクはもう子供じゃないです!」


 ウィリアムはぷくーっと頬を膨らませて抵抗する。


「じゃあ、誰がお姉様を守るの?」


「今度、バトラ将軍に頼んで選抜テストをしようと思うんだ。そこで一番優秀な人にパトレシアの護衛を頼もうと思う」


 



* * *


ララ視点


「アモン様、お薬の時間です」


 私は調合した薬を持ってアモン様が休んでいる部屋に向かった。


「悪いけど体が痺れて動かない……飲ませてくれ」


「分かりました」


 私はアモン様の口元に薬と水を近づけて飲ませてあげた。


「はぁ……ったく、これで少しは動ける。ララ、お前に仕事だ。パトレシアの元に潜入しろ」


「潜入ですか……でも、今は警戒が厳重だと思いますよ」


「そこを利用するんだ。妻をあれだけ溺愛するマルクスの事だから、どうせパトレシアを守る近衛兵でも編成するはずさ。だから……」


「そこに私が選ばれればいいのですね?」


「そういう事さ。今頃、募集でもかけてるだろ、急げばまだ間に合う。すぐにアルバード王国に向かってくれ」


「分かりました」


 私はすぐに準備を整えると、馬車に乗り込んでアルバード王国に向かった。




* * *


ララ視点 数年前


 私が初めて人を殺したのは14歳の頃だった。殺した相手は実の父親。あの男はどうしようもないクズだった。


「おい、酒が切れただろ! 早くもってこい!」


 ここはウェルタニア王国の端にある貧民街。そこで生まれ育った私は、どうにか生活していくために、毎日忙しく働いていた。


 朝早くから仕事をして、帰ってこられるのは夜遅く。そして家に帰るといつも父親が喚いていた。


「すみません、すぐに持ってきます」


 母親は私に被害が及ばないように、毎日このクズ男の相手をしている。昔は美人だったであろう面影があるが、今は頬がやつれ、髪もバサバサで、暗い目をしている。


「おい、ララ、何見てるんだ? さっさと部屋に戻れ!」


 父親は飲み終わったビンを私に投げつける。幸い直撃はしなかったけど、後ろの扉に当たって粉々に砕けた。


「おい、さっさと掃除しろ!」


「えっ、でも……さっさと戻れって……」


「あぁ? 口答えするのか? お前は言われた通りにやればいいんだよ!」


 父親がのそのそと起き上がり、私に近づく。あぁ……また殴られるのかな? こんな事、いつまで続けないといけないの?


「やめて、ララには手を出さないで!」


 母親がすかさず私の前に出て両手を広げる。父親は顔を真っ赤にして怒鳴ると、母親の頭にビンを叩きつけた。


「ちょっ、何するのやめて!」


 ガシャーン! っとガラスが割れる音が部屋に響く。母親はぐったりと倒れると、そのまま動かなくなった。


「えっ、嘘でしょ? お母さん? お母さん返事をしてよ!」


 生暖かい血が床に広がって母親の体が徐々に冷えていく。


「ねぇ、どうして? どうして返事をしてくれないの!」


 視界が滲み出して、ポタポタと涙が溢れてくる。許せない……


「ったく、めんどくせーな……おい、その女も一緒に掃除しておけ」 


 父親がゴミを見るような目で見下ろすと、乱暴に母親を蹴飛ばした。


「許せない……」

 

「あぁ? 何か言ったか?」


「許せない……お前を殺す!」


 私は割れて、刃物のように鋭いビンをつかむと、父親の胸に深く突き刺した。


「グハァ!!! 何しやがる⁉︎」


「あんたみたいなクズ男は殺してやる!」


 私は悶え苦しむ父親にまたがると何度もビンを突き刺した。その度に赤黒い血が吹き出して、悲痛な叫び声が部屋に響く。


「いつもいつも、働きもしないで、酒ばっかり飲んで、暴力を振りやがって!」


 部屋中が返り血で赤く染まっていく。最初はうるさかった父親の声が、次第に声が小さくなっていき、最終的に動かなくなった。


「死んだ? 死んだの? 私が殺したの?」


 いまいち実感がなくてまるで夢でも見ているような気分だった。でも、血の匂いと生暖かい感覚が現実だと告げている。


「どっ、どうしよう……このままだと捕まっちゃう!」


 私は洗面所に行って血を流し落とすと、新しい服に着替えて逃げるように家を飛び出した。

  

(私は殺人者……私は人を殺した……)


 とにかく一刻も早くその場から離れたくて、私はフラつく足取りでひたすら歩き続けた。


(どうしよう……どうすればいいの?)


 罪悪感と恐怖が見えない鎖のように体に絡まって重たい……いよいよ体力も底を尽きて、私はその場に座り込んでしまった。


「おい、そこのガキ、こんな所で何をしてるんだ?」


 誰かに声をかけられて顔をあげると、顔色の悪い男が立っていた。目元にはクマが出来ているし、顔もやつれている。きっと今の私もこんな表情をしていそうね。


「別に……ただ休んでいただけよ」


「ほぉ……そうか、それにしては随分と深刻な目をしてるな。人でも殺したのか?」


「…………っ⁉︎」 


「図星か? 人を殺したのは初めてか?」


 男は驚く私の表情を見て、イタズラっぽい笑みを浮かべる。


「貴方は何者なの?」


「俺の名前はアモン。殺し屋さ」


「殺し屋……」


「いいか、よく覚えておけ、一度人を殺した奴が普通の生活に戻れると思うなよ。お前がこれから進む道は2つ。罪の意識から自害するか、殺しの道に進むか。好きな方を選びな」


「…………」


 恐怖と罪悪感から解放されるのなら自害するのもありだと思う。でも、あのクズ男にいい様に使われて、それで自ら命を立つのは癪にさわる。私は奥歯を噛み締めると、男を睨みつけた。


「連れて行って……私を連れて行って!」


「いいだろう。お前に正しい人の殺し方を教えてやる」


 それから私はアモンの元で様々な事を教わった。武器の扱い方はもちろん、潜入方法や、薬草の知識など、私は貪るように男から学んでいった。


 一度人を殺した者の道は2つ……自害をするか殺しの道に進むか……もう後戻りは出来ない。もう普通の生活はできない……今の私は殺し屋。それが唯一の居場所……だから今日も言われた通り人を殺す。


 初めは恐怖や罪悪感で仕事を終えた夜は眠れなかった。でも慣れてきたのか、心が麻痺しているのか、もう何も感じない……

ご覧いただきありがとうございました!


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