18話
パトレシア視点
「実は……今度の建国祭の時に舞台をやろうと思うんです」
仕事を終えた人で賑わう酒場で、私はお酒を飲みながら大商人のイアンと話をしていた。
「舞台ですか……面白そうですね!」
お酒の力もあってか、イアンはすんなりと受け入れてくれた。
「それでね……中央ステージで披露しようと思うの。きっと大勢の人が集まるわ。だからそこに……」
「中央ステージを中心に屋台を展開すればいいのですね?」
イアンは私が言おうとした事を先取りして答える。やっぱりよく分かっているわね。
「舞台か……王妃も出られるのですか?」
「えっ、私ですか? 私は見るのは好きですが……演じた事はないですし……」
「じゃあこの機会に出演してみてはどうですか? きっと盛り上がりますよ!」
「う〜ん……私の出演が決まれば、舞台に人が集まりそうね。宣伝としてはこれ以上ないくらいの効果がありそうね」
「流石、王妃、よく分かっていますね! では、僕の知り合いに話を通しておきます!」
イアンは残りの酒を飲み干すと、そのまま寝落ちしてしまった。
「マスターお金は置いておきますね。イアンさんの事をお願いしてもいいですか?」
「はい、もちろんです。いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。パトレシア様」
マスターは私からお金を受け取ると、深く頭を下げた。さてと……帰りが遅いとまたマルクスが心配するから急がなくちゃ。
建国祭まであと一ヶ月。細かい準備や舞台の練習で毎日があっという間に過ぎていき、ついに本番当日を迎えた。
* * *
「凄い人ね!」
建国祭当日、私はマルクスと一緒にお祭りを見て回る事にした。他国の貴族や商人も訪れているため、想像以上に盛り上がっている。
「パトレシア、君が出演する舞台はいつやるんだい?」
「お昼過ぎよ。見に来てくれるでしょ?」
「もちろん! 最前列で応援するよ!」
「ふふっ、ありがとう。ねぇ、まだ時間があるから、リアンのお店に行ってみない?」
薬屋で働いているリアンの話によると、おばさん店長の提案で店を出すらしい。店長曰く、この機会に子供たちに商売の経験をさせたいみたい。
「確か中央ステージの端の方にあるって言ってたわ」
「分かった。行ってみよう」
マルクスはさりげなく私と手を繋ぐと、上手く人の間を抜けてエスコートしてくれた。
「ここみたいよ」
「へぇ〜 凄い人気だね」
売店ではリアンが他の子供たちと協力しながら忙しそうに対応していた。メニュー表には健康スープと書かれている。どれにするか相談していたら順番が回ってきた。
「あっ! パトレシア様、来てくださったのですね!」
リアンは私を見つけると、嬉しそうに目を輝かせた。他の子供たちも私たちに気づいて駆け寄って来た。
「凄い人気ね。ここはどういうお店なのかしら?」
「えっと、美味しくて体にもいいスープとドリンクを売っているお店です。パトレシア様から教わった薬草の知識を使って作りました!」
「なるほど……それはいいわね」
ここ最近アルバード王国は健康の意識が高まっている。と言うのもイアンと協力して予防医療の重要性を宣伝した事で、皆んなが自分の体に気を遣うようになってきた。
「お待たせしました。熱いので気をつけて下さい」
私とクリフトはスープの入った容器を受け取ると、近くのベンチに向かった。
「あっ、美味しい!」
「うん、薬草入りだけど、飲みやすいね」
嫌な薬草の青臭さもないし、苦みもない。体の奥から温まるような気がしてすごく美味しい。
「本当に賑やだね」
「そうね〜 みんな楽しそうでよかったわ」
お祭りに参加した人は、皆んな楽しそうに会話をしている。この光景が見れただけでもやってよかったな〜っと思える。
「次はどこに行く?」
「そうね……まだ舞台公演まで時間があるから、もう少し色々見て回りましょう」
私はスープを飲み干すと、マルクスの手を引いて興味深そうな屋台を片っ端から見て回った。時間的にも次が最後かな?
「あの、ここはどんな屋台なのですか?」
最後に選んだ屋台には1人の男が座っていた。目元には深いくまが出来て、頬もやつれている。いかにも不健康そうね……大丈夫かしら?
「いらっしゃい。お2人さんですね」
男は私たちに穴の空いた箱を出してカウンターの上に置いた。
「ここはくじ屋です。どうぞ運試しに引いて下さい」
「運試しですか? 私、結構いい方だと思いますよ!」
穴の空いた箱は中が暗くてどうなっているのか分からない。とりあえず手を伸ばして中に入れようとすると……
ガタガタ、ガタ……
突然箱が左右に揺れて倒れてしまった。そして中から白くて長い蛇が飛び出して来た。
「えっ⁉︎ 蛇⁉︎ どうして?」
気持ちよく寝ていたのを邪魔されて嫌だったのか、鋭い牙を見せて私に威嚇する。
「パトレシア危ない! 離れて!」
マルクスはすぐに剣を抜くと、蛇の頭をはねてしまった。あっ……可哀想……
「流石に命まで奪わなくてもよかったのに……」
「あれは猛毒の蛇だよ。噛まれたらまず命は助からない!」
「えっ、じゃあ、もしあのまま手を入れていたら……」
危うく毒蛇に噛まれて死んでいたかもしれない……ゾワリと鳥肌が立って冷たい汗が背中をつたる。
「店主! これはどういう……」
マルクスが声を荒げて問いただそうとしたが、すでに男はいなかった。
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