16話
少女リアン視点
「おいリアン! もっと働け! サボってるんじゃねぇ!」
街の小さな薬屋に大人の男性の怒鳴り声が響く。
「はっ、はい、すみません!」
少女のリアンには両親がいない。そのため妹と自分の生活費を稼ぐために必死に働いていた。今日もお金を稼ぐために仕事場に向かおうとすると……
「あの……すみません、研修にきたのですが……ここであっていますか?」
リアンと入れ違うように、1人の女性が男性の前に現れた。安っぽい頭巾を被って顔を隠しているせいで表情はよく分からない。でも、他の人とは明らかに違うオーラを感じる。
「あぁ……そういえば、今日来るんだったな……おいリアン、連れていけ」
男はめんどくさそうに私に命令をすると、部屋の奥に消えてしまった。
「あっ、はい」
ここではこの男の命令が絶対。拒んだりしたらどんな酷い目にあうか分からない。
「では、お願いしますね」
女性は頭巾をとってニッコリと微笑んだ。その表情は同じ女性だけど思わずドキッとするほど綺麗だった。肌もツヤツヤで羨ましい……
「えっ、でっでは、案内しますね」
私は動揺しているのを悟られないように背を向けると、綺麗な女性を森に案内した。
* * *
「つっ、着きましたよ」
私は綺麗な女性を森に案内すると、背負っていたカゴをおろした。すでに何人かの子が膝をついて草木をかき分けている。
「これは何をしているのですか?」
「お薬になる薬草を集めているんです。この森にはいろんな薬草が生えていて……それを採取するのが私たちの仕事なんです」
綺麗な女性は興味深そうに腰を下ろすと、目を輝かせてあたりを見渡した。
「凄い、こんなに沢山生えているなんて……あれって頭痛に効く薬草ね。こっちは風邪を引いた時に飲むと効くのよね。あっ、まだまだあるわね!」
「詳しいのですね」
「えぇ、森の奥にある村の人から教わったんです」
女性の薬に関する知識はとても豊富だった。作業をしていた子達も集まってきて熱心に聞き入っている。
「そこの木陰に生えている薬草は薬になるけど凄くしみるのよ。まぁ、そのおかげで森で暴れていたバトルウルフを追い払う事ができたんだけどね」
女性は瞬く間に私たちと打ち解けて色んなお話を聞かせてくれた。それに薬の事は何を聞いても答えてくれるから、仕事があっという間に終わった。
「ねぇ、皆んなはこの仕事は楽しい?」
私たちは顔を見合わせると、ここぞとばかりに不満を口にした。
「楽しいけど……あの男が嫌い!」
「私も嫌い! いつも怒鳴ってくるもん」
女性は驚いた表情で話を聞くと、腕を組んで唸り始めた。
「なるほどね……分かったわ。じゃあ私が直接聞いてみるわ。その時に貴方たちも言いたい事を言っちゃいなさい」
不安そうな顔で頷く私たちとは対照的に女性は落ち着いた表情をしていた。これが大人の余裕なのかな?
「さぁ、皆んな、もう着くわよ。大丈夫。きっと上手くいくからね」
私たちは怒られるのを覚悟して体に力を入れると、静かに頷いた。今まで誰もあの男に自分の意見を言う事が出来なかった。
でも、それをやろうとしている……緊張のあまり背筋に冷たい汗がスッーと流れる。喉は乾いて足も震える。本当に上手くいくんだよね?
「さぁ、行くわよ」
女性はなぜか顔を隠すように安っぽい頭巾を被ると、ドアに手を当てて中に入った。
「戻りました!」
「なんだ、今日は随分と早いな……ちゃんと拾い集めてきたんだろうな?」
男はギロリと鋭い目で女性を睨むが、カゴから溢れそうなくらい集まった薬草を見ると鼻を鳴らした。
「まぁ、まぁ、やるじゃねーか、お前ら、給料日だ。持ってけ」
男は乱暴にお金の入った袋を私たちに渡すと薬草の仕分けを始めた。
「こいつは凄いな……金貨1枚くらいの価値はあるんじゃねーか?」
男はニターっと気持ち悪い笑みを浮かべて勘定を始めた。今回は随分頑張ったからきっといつもより貰えるはず。そう期待していたのだけど……
「えっ、少な……」
「嘘、これだけ?」
中に入っていたのは銅貨数枚だった。他の子達もあまりの少なさに不満をもらす。これではとても生活できない。
「なんだお前ら、その不満そうな顔は、いらねーなら返せよ!」
男は椅子を蹴飛ばして立ち上がると、私の前にズカズカと歩いてきた。やばい、殴られる!
「ごっごめんな……」
「待ちなさい!」
急いで謝ろうとした所に女性が割り込んできた。さっきまでの明るい雰囲気はどこにもなく、言葉に強い怒りが乗っていた。
「この給料は少なすぎです。もっとこの子達に還元すべきです!」
「なんだと? 研修に来た奴の分際で俺にたてつくのか⁉︎」
「私はただおかしな点を指摘しただけです。なぜこの子達に還元しないのですか?」
「しょうがねーだろ、金がねえんだよ。ない金は出せねぇーよ!」
「ない金? おかしいですね……今日集めた薬草だけでも金貨1枚くらいの価値があると言ってましたよね?」
男は慌てて口に手を当てると、忌々しそうに顔を真っ赤に染めた。
「子供達はこの国の未来を作る大切な存在なんですよ!」
「知るかそんな事、元々こいつらは飢え死にするような奴なんだよ。こいつらに未来なんてねぇーよ! それを俺がこうして引き取って仕事を与えてやってるんだ。オメーらもっと俺に感謝しがやれ!」
男は逆ギレをすると子供みたいに喚き始めた。これには女性も呆れた様子で首を振った。
「そうですか……どうやら貴方とは話し合いをしても解決しなさそうですね」
「分かったらとっとと出ていけ。二度と俺の前に現れるな!」
「いいえ、出て行くのは貴方です。二度とこの子達の前に現れないで下さい!」
女性の強気な発言に後ろで見ていた私たちもざわめく。男の瞳に危険な光が宿り額に太い血管が浮き出る。
「テメェ……いい度胸してるじゃねーか! ぶっ殺す!」
男の巨大な腕から繰り出された右ストレートが女性の顔に急接近する。手加減の無い一撃に周りで見ていた子たちから悲鳴が上がる。
(お願い、逃げて!)
みんながもう終わったと諦める中、女性は一歩も引かずに低く構えた。そして男の拳を避けると、腕を掴んで足をかけて、勢いよく背負い投げをした。
「うぉ⁉︎」
男は奇妙な声を出すと、吸い込まれるように地面に叩きつけられた。その信じられない光景にみんな目を丸くする。
「痛っ……なんだお前? 研修生じゃねぇーのか?」
「私ですか?」
女性は顔を隠していた頭巾を外すと、イタズラっぽい表情で自己紹介を始めた。その瞬間、さっきまで威勢のよかった男の顔がみるみる青ざめていく。
「私の名前はパトレシア。この国の新しい王妃です」
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