15話
パトレシア視点
ちょうど時刻も夕暮れで仕事終わりの人たちで溢れていた。確かここは……私がまだクレア妃だった頃に訪れたお店ね。ここで初めてイアンと出会って3千本のお酒を注文したわね。
「マスターいつものラム酒を頼むよ」
イアンはカウンター席に座ると、ちょび髭を生やした店主に声をかけた。
「私も同じのでお願いします!」
イアンは驚いた表情で私を見て警告を入れる。
「王妃、流石に女性にこの酒は……」
「心配いりません!」
私は警告を無視して出されたラム酒を飲み干すと、追加を頼んだ。これには周りでみていた人たちも目を丸くする。
「凄い飲みっぷりだな〜 僕も追加を頼むよ!」
商談の細かい打合せをするはずだったのに、気がついたら飲み比べが始まっていた。一杯、また一杯と飲み干すたびに歓声が上がり謎の盛り上がりが起きる。そしてついに決着がついた。
「ダメだ〜 僕の負けだ、その体でどうして平気なんだよ〜」
イアンは顔を真っ赤にしてカウンターにうつ伏せる。あれ? もう終わり?
「よければこの薬をどうぞ、二日酔いを軽減させる事が出来ますよ」
「これはご親切にどうも」
イアンは手を震わせながら薬を受け取ると、水と共に飲み干した。そして寝落ちしてしまった。
「マスターさん、お金は置いておきますね」
「毎度あり」
「ちなみに、この人はどうずればいいですか?」
「そのうち仲間が迎えに来るはずさ。貴方はそろそろ家に戻りなさい。それと年頃の女性がこんな所に来るのはおよしなさい」
「すみません、気をつけます」
外に出るとすっかり真夜中になっていた。まずい、門限をとっくに過ぎてる!
急いで王宮に戻ったが、やはり門は閉まっていた。その門の前で黒い人影が体を埋めて座っている。あれはまさか……
「パトレシア、こんな夜遅くまで何をしていたんだい?」
黒い人影の正体はなんとマルクスだった。
「えっと……酒屋に行ってまして……」
「なっ、なんだって⁉︎ こんな夜遅くに行ったら危ないじゃないか!」
マルクスは仰天して声を荒げる。ごもっとも過ぎて何も言い返せない……
「ごめんなさい。本当はもっと早く帰る予定だったのですが……」
「何か変な事はされなかったかい?」
「大丈夫でしたよ。イアンさんと行ったので」
「イアン⁉︎ 男と2人で出かけたのかい?」
「えっと……商談の続きを話したかったので……」
「………そうか……とりあえず、もう遅いから部屋に戻ろう」
マルクスは明らかに拗ねた様子で頬を膨らませると、私を寝室に招いた。そして少し強引にベットに押し倒すと、長めのキスをした。
「んんっ‼︎」
それは口を開いた濃密なものだった。まるで雷に撃たれたような衝撃が全身に駆け巡り、体が震える。
「心配したんだよ……パトレシア……」
そのまま流れるようにドレスを脱がされて両手首を掴まれた。窓から差し込む月明かりに照らされて露出した肌がマルクスの目にはっきりと映る。
「ねぇ……ちょっと痛い……」
「ごめん、他の人にパトレシアが取られるのが怖くて……」
「大丈夫ですよ。私はもう何処にもいきません。ずっと側にいますよ」
クレア妃の頃はマルクスを置いて先に死んでしまった。でも今回は違う! これからはずっと彼の側にいよう。彼と第二の人生を共に歩んでいきたい。途中で死ぬような真似は絶対にしない!
「マルクス……好きよ」
私は背中に腕を回して抱きつくと、大切な贈り物を渡すようにそっとキスを交わした。普段はされる側だったけど、いざする側になると少し恥ずかしい……
でも、気持ちが伝わったのか、マルクスの瞳から一筋の涙が溢れて頬を濡らした。
そして、割れ物を扱うような繊細な手つきで私の頬を撫でると、覆い被さるように抱きついてきた。
「もう君を離さない……」
2人の体がこれ以上ないくらい密着する。少し重たいけど、守られているような気がして心地よい。私は肩の力を抜くと、マルクスの全てを受け入れた。
「愛してるよ……パトレシア」
溶けてしまいそうな幸せな一時に浸っていると、マルクスが私の耳元で愛を囁いてきた。おかしいな……お酒には全然酔わなかったのに……
「……………私もよ……」
その夜はマルクスに散々酔わされてしまった。
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