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14話

パトレシア視点


「本日はお越しいただいてありがとう」


 私は大商人イアンを自分の部屋に招くと、軽くドレスの裾を持ち上げてお辞儀をした。


「これはご丁寧にどうも」


 イアンはソファーに深く座ると、余裕の笑みを浮かべた。なんとなく態度と表情からなめられているのが分かる。まぁ、でもそうよね……向こうからしたらただの村娘なんだから……


「早速これをご覧下さい」


 私は数枚の資料を取り出してテーブルに並べた。初めは面倒くさそうに読んでいたが、2枚目、3枚目と読み進めていくうちに、イアンの表情が明るくなっていく。


「へぇ〜 薬の知識があるんだ! それを商売に……う〜ん、アイデアは悪くないけど、一ついい事を教えてあげるよ」


 イアンはニヤリと笑みを浮かべると、得意げに話し始めた。


「商売には絶対に守るべきルールが2つあるんだ。ルール1は損をしない事。そしてルール2は……」


「ルール1を忘れない事。ですよね?」


 私はイアンが言おうとした事を先取りして答えた。予想外の事だったのか、イアンはポカーンと口を開いて私を凝視する。


「なぁ⁉︎……どうしてそれを?」


「昔、とある商人の方に教わったんです」


(まぁ、貴方からなんですけどね)


「安心して下さい。決して損はさせません。私の持っている知識は惜しみなく使います!」


 イアンはもう一度資料に目を通すと、腕を組んで唸り始めた。


「だけど薬が必要なのは病人だけでは? そうなると購入者の母数が少なくないですか?」


「いいえ、そんな事はありません。イアンさん、健康な生活を送るために必要な事はなんだと思いますか?」


 イアンはもう一度腕を組むとまた唸り始める。私は少し間をおくと、もったいぶりながら答えた。


「健康的な生活をするために必要な事……それは予防をする事です」


 イアンは納得した様子で頷くと、遠くを見つめながらぶつぶつと何かを呟く。側から見ると危ない人に見えるけど、多分頭の中で計算をしている最中ね。


「病気になってから治そうとすると、莫大なお金がかかります。それに治りもよくありません。ですが予防なら少額で済みますし、何より未然に病気を防ぐ事が出来ます!」


 私は身を乗り出すと、畳み掛けるように話を進めた。


「健康でなければ、働く事も遊ぶ事も出来ません。何をすにも健康が土台にないと始まりません!」


 私は一度言葉を区切ると、はっきりと断言した。


「予防医療は誰にでも必要です。つまり全ての国民が対象者になります! 一緒に新たな市場を作りませんか?」


「新たな市場……」


 イアンは深く息を吐くと、膝を叩いて笑い出した。


「面白い、気に入ったよ!」


「ありがとうございます!」


「でも働き手が必要だな……何か当てはございますか?」


「はい、もちろんです! 実は貧民街の子供たちの手を借りようと思います」


「えっ貧民街⁉︎ ろくな教育を受けていないから信用できませんよ! ましてや薬でしょ? 何かあったらどうするんですか⁉︎︎」


 イアンは強く首を横に振って猛烈に反対する。まぁ、確かにそう思うわよね……


「大丈夫です。私がちゃんと教育します!」


「そんな事言ったって、忙しいでしょ? 王妃なんだから」


「心配いりません、彼らを一人前にしてみせます!」


 一歩も譲らない私の勢いに負けて、イアンは両手をあげて降参ポーズをとる。


「まるでクレア妃と話しているみたいだな……」


「そっ、そうですか?」


 私はとぼけたふりをして話を進めた。似てるも何も……私は元クレア妃なんだから当然よね?


「子供たちはこの国の財産です。彼らを助けるのは王妃として当然の事です。それに、子供たちが成長しお金を稼げるようになったら、私たちの助けになってくれるでしょうね〜」


 私はちらっとイアンの顔を覗いた。子供たちは新たな仕事が出来てお金を稼げるし、彼らが大人になれば今度は逆に貢献してくれるでしょう。双方に利益が出るのだから断る理由はない。


「そういう強気な所がクレア妃にそっくりです……王妃は商人の才能がありますね」


 イアンは右手を差し出すと私と握手を交わした。商談成功ね。


「よし、あとは細かい所を詰めていきましょうか……」


「それなら食事をとりながらでどうですか?」


 私はテーブルの上に散らかった資料を片付けて提案をした。やっぱり商談の後はお腹がすく。 


「王妃からの食事の誘いは光栄なんだですが……テーブルマナーが皆無でして……」


「心配いりません。イアンさんの行きつけのお店で大丈夫ですよ」


「じゃあ酒場でもいいのですか?」


「はい、もちろんです! 商談の後の一杯は格別ですからね」


「分かってるじゃないですか! そうなんです。商談の後の酒は最高なんですよ!」


 イアンは勢いよく席を立つと、行きつけの酒場に私を案内してくれた。


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