表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/39

11話

現在 バトラ将軍視点


「98…99…100」

 

 昔の事を振り返りながら素振りをしていたら、一般兵が息を切らしてやって来た。


「たっ、大変です、森周辺に現れたバトルウルフに国民が襲われていると報告を受けまして……」


「なっ何だって⁉︎ 周辺をパトロールしている兵士は何をしてるんだ! 早く行くぞ!」


「それがですね……パトレシア様がすでに向かわれまして……」


「なっ何だって⁉︎ あんな小娘に何が出来るっていうんだ!」


 俺は馬小屋に向かい、たまたま目についた馬に乗ると、猛スピードで現場に向かった。


「ったく、面倒かけやがって……何かあったら俺の責任になるだろ!」


 認めたつもりはないが、あれでも一応アルバード王国の王妃である。王妃に何かあったら大問題だ。そうなる前になんとかしなければ……


「よし、もう少しだ、もっとスピードを出せ!」

 

 俺は手綱を握る手に力をこめると、ムチを打って馬を急かした。王宮からわずか数分で現場に辿り着いたのだが……


「何だ……? どうなっているんだ?」


 予想外の光景に空いた口が塞がらない。なんと2頭のバトルウルフがすでに討伐されていた。まさか……


「お姉ちゃんありがとう!」


 襲われていた少女が一人の女性に感謝を述べている。その女性は俺の方を振り返ると、驚いた表情で目を丸くした。


「どういたしまして……って、バトラ将軍⁉︎ どうしてここに?」


「それはこちらのセリフです。なぜ王妃自らが危険な場所に行くのですか⁉︎何かあったらどうするつもりなのですか?」


 少し強めの口調で忠告をすると、隣にいた黒馬のキングが鼻を鳴らして俺を睨む。まるで怒られている王妃を守るような態度だ。


「こら、キング、だめよ威嚇したら」


 今にも飛びついて来そうな雰囲気だったが、王妃に言われるとくるりと背を向けた。そして許しを請うように頭を下げる。


「よし、よし、素直で良い子ね。ここまで連れて来てくれてありがとね〜」


 キングは「ヒヒーン!!」と嬉しそうに鳴いて王妃に大きな顔をすり寄せる。クレア妃以外には決して認めなかったあのキングをここまで手懐けるとは……この人は一体?


「………‼︎ バトラ将軍、何か来ます!」


 目の前の状況に頭を悩ませていたため、王妃の忠告に一瞬遅れてしまった。


「危ない!」


 俺は咄嗟に少女を抱き抱えてうずくまった。左腕に何かが掠っていき、火傷をしたようにヒリヒリと痛む。幸いそこまで傷口は深くない。


「どうやら……リーダーのお出ましですね」


 体長2メートルほどもある巨大なバトルウルフが鋭い牙を見せ、金色に輝く目で俺たちを睨む。


 俺は少女を守るように前に出ると、剣を抜いて構えた。隣では王妃も緊張した面持ちで剣を構える。その立ち姿が妙に様になっていた。


「パトレシア様、ここは俺が……」


「いいえ、私に任せて下さい。バトラ将軍は少女を守ってください!」


 バトルウルフが低く構えて唸り声をあげる。そして一直線に王妃の元に突っ込んで来た。でも、慌てる事なくひらりと右に避けた。その動きに合わせてふわりとスカートが舞う。


「そこよ!」


 ガラ空きの背中に鋭い一撃が入る。バトルウルフは低く唸ると振り向きながら鋭い爪を薙ぎ払った。しかし、王妃はもうそこにはいなかった。


 相手の攻撃を軽やかに避け、バックステップで距離を開けたと思ったら、大きく一歩前に出て反撃する。見事なカウンターが決まり確実にバトルウルフにダメージを与えていく。


 しかも、ただ強いだけではなく、しなやかな動きがとても美しかった。まるでダンスを踊っているように華やかで思わず見入ってしまう。


「グぉおおおおお!!!」


 バトルウルフは怒り狂った様に咆哮をあげると、目をギラギラと光らせて王妃に突進して来た。流石にあれは避けられない。俺の頭の中に警告音が鳴り響く。でも、王妃は冷静だった。


「これでもくらいなさい!」


 王妃は地面に生えている草を抜いて軽くほぐすと、バトルウルフに向かって投げ飛ばした。バトルウルフは目を抑えると、苦しそうに地面で転がり回る。


「この薬草は薬になるけど凄くしみるのよね〜」


 王妃はちらっと愛馬のキングを見て合図を送る。すると、キングは力強く鳴いてバトルウルフに強烈な後ろ蹴りを放った。


「ナイス! これで止め!」


 王妃の突き刺した剣が深く刺さった。バトルウルフの瞳から光が消えて倒れる。


「よくやったねキング。お利口ね!」


 王妃が褒めるとキングは犬の様に長い尻尾をブンブンっと振って嬉しそうに鼻を鳴らす。まさか本当に倒すとは思わなかった。この方は本当に何者なんだ?




* * *


「お姉ちゃん、お兄さん、助けてくれてありがとう!」


 襲われていた少女は俺たちにお礼を言うと、家に帰って行った。今後はもう少し森周辺のパトロールに人を配置するとしよう。


「もう1人で森の奥にくるなよ」


「は〜い」


 子供は元気よく答えると、俺たちに手を降った。とりあえず無事で何よりだ……


「そういえばバトラ将軍、腕を怪我していましたよね?」


「これくらい大した事ありません」


「ダメです! ちょっと待っていて下さい」


 王妃はさっきバトルウルフに投げつけた薬草を抜くと、近くの小川でよく洗い、慣れた手つきですり潰した。


「少し痛いですけど我慢して下さいね」


「分かりました……」


 王妃は薬指にペースト状になった薬草をつけると、そっと傷口につけて薄く伸ばした。さらに包帯とガーゼを取り出して固定する。剣の腕も凄いが、薬草についての知識も持ち合わせているとは……


「これで終わりです。やっぱりバトラ将軍は子供に優しいのですね」


「別にそんな事は……子供は苦手です」


「あら、そうなの? でも盗んだパンを子供に分け与えていましたよね?」


「盗んだパンを渡す? どっ、どうしてそれを⁉︎」


「さぁ〜 なぜでしょうね?」


 王妃はとぼけたフリをして誤魔化す。確かに俺は元々コソ泥をしていて、盗んだパンを子供にあげた事がある。でもそれを知っているのはクレア王妃だけのはず……


「パトレシア様、貴方は一体何者なのですか?」


 俺はずっと気になっていた事を思い切って尋ねてみた。この人からはただならぬ何かを感じる。


「えっ、私ですか?」


 王妃は腕を組んで考えるそぶりをすると、ニコッと笑みを浮かべた。


「実は……クレア妃の生まれ変わりなのよ」


「クレア妃の生まれ変わり⁉︎ はっはっはっ、それは面白い冗談ですね!」


 俺は腹を抱えると涙が出るくらい笑った。これほど笑ったのは久しぶりな気がする。


「では、クレア妃に捧げなれなかった分まで貴方に忠誠を尽くします」


 俺は膝をついて胸に手を当てると、一生この人について行くと誓った。


ご覧いただきありがとうございました!


【読者の皆様へのお願い】


・面白そう!

・続きが気になる!

・応援してあげてもいいかな?


と感じていただけましたら、


広告の下にある星マークを押して、高評価をしてもらえると嬉しいです。ブックマークをしていただけると凄く、凄く!嬉しいです


皆様の応援が励みになりますので、なにとぞ、よろしくお願いします。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ