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10話

パトレシア視点


「動けない……」


 窓から差し込む太陽の光と、小鳥たちの鳴き声が朝を知らせる。ここは第一王子マルクスの寝室。


 早く起きなくちゃいけないのは分かるけど、背後からマルクスに抱きつかれているせいで身動きが取れない……彼と結婚して一週間、私は溺愛されていた。


 というのも……結婚式の夜に第二王子のウィリアムに襲われて、怪我が回復するまで毎日マルクスが様子を見に来てくれた。


 忙しいはずなのに、時間を作って会いに来てくれるのは嬉しい。ただ帰り際に毎回愛を囁いてくるのは恥ずかしかったけどね……


「お兄様、パトレシアさん、休みだからって、いつまで寝ているんですか!」

 

 扉をノックする音と共にウィリアムが入ってき、兄であるマルクスを叩き起こす。


「……もう朝かぁ……おはようパトレシア」


 マルクスはまだ寝ぼけた目で私を見ると、ニターっと幸せそうに頬を緩める。


「お兄様、パトレシアさんが困ってるでしょ? 離れてあげて!」


 マルクスは名残惜しそうに私から離れると、ため息をついた。


「あの、パトレシアさん……ごめんなさい。傷の調子はどうですか?」


 ウィリアムはぺこりと頭を下げて謝ると、不安そうな表情で尋ねてきた。こういう素直なところは昔のままね。


「大丈夫よ、心配しないで。ねぇ、私の事はパトレシアお姉様って呼んで欲しいな〜」


「えっ、恥ずかしいですよ!」


「えぇ〜 だって前は『お姉様! クレアお姉様!』とか言って甘えたじゃない」


「それは昔の話です……って、どうしてそれを知ってるんですか⁉︎」


 ウィリアムは顔を真っ赤に染めて分かりやすく動揺する。ふふっ、可愛いわね。


「秘密です」


 私は軽くウィリアムをあしらうと、ベットから出て3人で中庭のテラス席に向かった。


 綺麗な中庭を眺めて雑談をしながら食事をする。こうしてみんなで朝食をとるのが最近の日課となっている。 天気もいいし今日も平和ね……


「パトレシア、今度の休みにまた食事に行かないか?」


「いいけど……仕事はいいの?」


「大丈夫。何がなんでも終わらせるよ!」


 マルクスは強く意気込み、ひと足先に仕事に戻って行った。ここ最近の彼の働きは側から見ても凄まじい。本来なら丸一日かかる仕事でも半日で終わらせてしまう。


 まぁ、その理由は私と過ごす時間を確保するためらしい。マルクスらしいわね。


「ボクもそろそろ行くよ。じゃあね、パトレシアお姉様」


 ウィリアムは少し恥ずかしそうにそう呼ぶと、仕事に戻って行った。本当に可愛い弟ね。


「さてと、私も戻ろうかな?」


 テーブルの上を片付けて自分の部屋に向かっていたら、若い兵士が慌てた様子で走ってきた。何かあったのかしら?


「ねぇ、どうしてそんなに急いでいるの?」


 呼び止められた兵士は、一瞬戸惑う素振りを見せたが、早口で答えた。


「実は森周辺に現れたバトルウルフに国民が襲われていると報告を受けまして…

…」


「なっ、なんですって? すぐに行くわ」


「おっ王妃自らがですか? お待ち下さい。ここは我々が……」


 兵士が止めようとしたが、私はそれを無視して馬小屋に向かった。


 ちょうど食事の時間だったらしく、みんな私の事は無視して忙しそうに口を動かしている。でも、一頭の馬だけが私を見た瞬間、柵を飛び越える勢いで身を乗り出してきた。


「キング! 行くわよ!」


「ヒヒーン!!!!」


 巨大で立派な黒馬のキングは、嬉しそうに鳴き声をあげると、私を乗せて森周辺に連れて行ってくれた。




* * *


バトラ将軍視点


「17…18…19…どいつもこいつも浮かれやがって……」


 アルバード王国の将軍を務めるバドラは、ぶつぶつと文句を言いながら剣の素振りをしていた。体は鍛え上げられ、額には深い傷が刻まれ、黒い瞳は猛獣のような鋭い光を放っていた。


「王妃はクレア様以外ありえない!」


 どこの骨の馬かもわからないただの村の娘にクレア妃の代わりが務まるわけがない。俺にとってクレア妃は恩人でもある。


 もしあの時、手を差し伸べてくれなかったら、俺はとっくの昔に死んでいたはずだ。あの日の事は今でも昨日の事のように思い出せる……




(数年前)


「待て、パン泥棒!」


 店の店主が声を張り上げて怒鳴る。俺はその声を無視して路地裏に向かった。ここまで来たらもう大丈夫だろう……


「おい、バトラ、何か食い物は持ってないか?」


 しばらく休憩していたら、数名の同業者が声をかけてきた。


「さぁ、持ってないね」


「そうか、でもさっきパンを盗んだだろ? それをよこせ!」


 腹を空かせた同業者たちは、肉食動物のようにヨダレを垂らして襲いかかって来た。


「やめろ、これは俺のパンだよ!」


 一切れのパンを巡る戦いは数時間に及び、何とか決着がついた。どうにかパンを死守出来たが、全身ズタボロになっていた。


「手間かけさせやがって!」


 俺は悪態をつくと壁にもたれてパンを見つめた。ただ視線を感じて顔を上げると、小さな子供がジィーッとこちらを見つめていた。


「なんだよ、これはあげねーよ!」


 子供はシュンっと項垂れてその場を立ち去ろうとする。

 

「ったく、めんどくせーな」


 俺は傷だらけの体を起こすと、戦利品のパンを子供に渡した。一体俺は何をしてるんだ? 子供は嬉しそうに受け取ると、美味しそうに頬張った。


「もう何も持ってねーからな。」


 俺は子供の頭をわしゃわしゃと撫でると、路地裏を出た。


 もうしばらくまともな食事をしていないせいで歩くのもやっとだ……このまま俺は飢え死にするのか?


「ねぇ、そこのあなた、ちょっと待ってよ」


 割と本気で死を覚悟した時、1人の女性が声をかけて来た。長い銀髪に整った顔立ち。そして高そうな服を着ていた。俺とは住む世界が違うのが一目で分かる。


「やっきパンを盗みましたよね? その後、悪そうな人に絡まれて……」


「なんだよ見ていたのかよ? あんたも趣味が悪いな。それでどうすんだ? 役所に連行するか?」


「いいえ、あなたはとても優しい人なのでそんな事はしません。その代わりに貴方の力を私に貸して下さい。きっと貴方なら素晴らしい兵士になるはずよ!」


 女は妙な事を行って俺に手を差し出す。

 

「あんた一体何者何だ?」

 

 女は周りに人がいない事を確かめると、小声で自己紹介をした。


「私は……クレア王妃。この国のお姫様よ」

 



* * *


 クレア王妃に言われるままに俺は見習い兵になっていた。毎日の訓練は大変だが、盗みをしていた日々と比べたら大した事ない。


 それに朝、昼、晩と食事が付いているし、狭いが寝る場所も与えられた。クレア妃には感謝してもしきれない。


 今の俺に出来るのは日々の訓練で戦い方を身につける事。それが俺にできる唯一の恩返しだ。


 いつかクレア妃の役に立つ事を目指して、指導者の元で訓練に励み、夜は自主練に励んだ。


 そんな日々が数年と続き、剣の腕で俺の右に出る者は誰一人としていなくなった。そして気がつくと将軍にまで上り詰めていた。


 これでやっとクレア妃に恩返しが出来る。そう思った矢先にクレア妃が病気で亡くなられた……

ご覧いただきありがとうございました!


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