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19.悪魔が英雄と呼ばれる日


「さあ、私たちの進級のお祝いよ!」


「すまんなエリオット、こんなに頼んでしまって」


「これくらい大したことないよ」


 そこはひと月ほど前に開店した、例のスイーツショップのテラス席だった。

 私たち三人は、色んなケーキや焼き菓子などのスイーツがずらっと並んだテーブルを囲んで座っていた。


 これはみんなエリオットの奢りだ。

 あの王都魔人族襲撃事件(と呼ばれてる)のお礼らしい。

 ちなみに私を上回る甘党のドラくんは寮でお留守番をしている。

 あいつがいると際限なく食べまくるからな。


「無事に進級テストが終わって良かったわね」


「私はドラくんがソッコーでモンスターを倒しそうになって焦ったがな」


「はははっ、でもそれで最高点を取ったんだから、さすがだね」


 そう、私は実技の進級テストも無事に乗り越え、首席を取ることができた。

 もちろん二位はエリオットだ。

 キャシーは「二人に比べたら私なんて普通よ」と笑うが、七位につけているから十分優秀だと思う。


 そんな風にスイーツを楽しみながら談笑していたら、学生っぽい三人娘がモジモジしながら私たちのテーブルへとやってきた。


「あのっ! あなた、王都を救ったレイラ・メンフィスさんですわね?」


「王都を救っていただき感謝しておりますわ! 私たち、アーチェストの新三年生なの。良かったらこちらにサインをいただけないかしら?」


 と、頬を赤くしてキラキラした目でのたまった。

 そして三人そろって、両手で魔術書をこちらに差し出している。


「え? ……さ、さいん?」


「そこに名前を書けばいいのよ、レイ」


 キャシーが当然でしょ、という顔をする。


「なぜ!?」


「ダメかしら……? 私たち、英雄レイラさんのファンですの! レイラさんは貴族の出身じゃないのに特待生でアーチェスト魔法学園に入学し、見事学年トップに輝いた上、魔人族から王都を救う大活躍! しかも、それでいてまったく(おご)らない人柄が素晴らしいですわ!!」


「わー! 分かったって! サインするから黙ってくれっ!」


 テラス内の客全員がこっちを見てるじゃないか!


 私はさっさと去って欲しくて、仕方なく三人の魔術書に名前を書いてやった。


「さすがレイラ、僕やキャシーより有名人だね、ふふふっ」


 なんてエリオットが笑うから、何か言い返そうとしたら……。


「あの! 私たち、今度アーチェスト魔法学園に入学する新一年生なんです! 良かったら私たちにもサインをいただけませんか!?」


「なに!?」


 今度は少し離れたテーブルの、少年少女五人組だった。


 そしてその五人へのサインが終わる頃には、どこからか噂を聞きつけたのか、またもや別のアーチェストの生徒たちが――。


 あ〜、なんでこんなことになってしまったんだか……。

 俺の脳裏に、あの日の出来事がよみがえる。


 あの王都魔人族襲撃事件でエリオットが九死に一生を得た後、少しして王宮警備の魔法使いたちが駆けつけた。

 そしてそいつらに、エリオットやキャシーが何があったかをすべて正直に話した結果……。


 よく分からんうちに、私が王都魔人族襲撃事件を阻止した英雄ということになっていたのだった。


 一応、イムリオが改心して悪魔への願いを変えてうんぬん、という経緯も伝えてはあるが……。

 まあ、イムリオが英雄になることはないと分かっていたが、当の本人があの事件以来、抜け殻のようになってしまったからなぁ。

 英雄というより、かわいそうな人扱いになっている。

 今も休学中で、同学年でただ一人、イムリオだけが留年していた。


「おやおや、ずいぶんと人気者じゃな」


 何組目かのアーチェストの生徒とやらにサインをしていたら、なじみがあり過ぎる爺さんの声が聞こえてきた。


「どこにでも現れるよな、ボルネンの爺さんて」


「レイ、ボルネンさまに聞こえるわよ」


「わしは神出鬼没なんじゃよ。ファンが集まってるところ申し訳ないが、少し話をさせてくれるか?」


 集まっていた生徒たちが「あのボルネンさま!?」と驚いて、「どうぞどうぞ」と身をひいてくれた。


「あー、これはこれはボルネンさま、こんなところでお会いできるとは嬉しい限り」


「ほっほっほ、わしもじゃよ。お主は相変わらず、まったくそうは思っとらん顔だがな。ところで、この間の王都魔人族襲撃事件で、どうしても分からないことがあってのぅ、レイラよ、いくつか質問させてくれんか?」


「分からないこと……?」


「お主が使った魔法についてじゃ」


 ドキッ。


「まず、お主が最初に張ったダークシールドじゃ。ダークシールドの見た目は半透明のグレーのはず。しかし途中で真っ黒に色を変えたそうじゃな? どうやってやったのか教えてくれんか?」


「えっ、どうやってって……とにかくヤバい光景だったから見たくなくて必死で、あ〜記憶がぁ……」


 答えられるわけがない。

 あれは人間らしく杖を使って呪文を、なんてのじゃなくて、直接魔力を流し込んだんだからな。


「記憶にない、か? まあ状況的には無理もないのう。では次じゃ。お主がエリオットを止血した時じゃな。キャサリーヌによるとエリオットは全身が半凍結状態で、心臓部分が……」


 あっさり引き下がるなと思ったら、またもや答えにくいことを!


「いやぁ、それも覚えてないんです、何せ必死だったもんで……たぶん普通のフローズンだったと思いますが」


 ボルネンは片眉をグイッとあげて、少し黙る。


「ほう……解明できれば今後、救命救急に使えると思ったんだがなぁ。では、最後にもう一つ」


「まだ!?」


「お主が魔人族に使った火魔法を教えて欲しいんじゃ。その魔法一つで魔人族を追い返したと聞いたからのう。炎の賢星ボルネンとしては、魔人族によく効くその火魔法が気になって仕方ないわい」


 そうきたか!

 ……そりゃそうだよな、魔人族はなんと言っても身体が丈夫、魔法一つで退散するなんて普通は考えられん。


 だが……それこそ一番答えられない問いだ。

 なにせ上級悪魔にしか使えん地獄の炎、インフェルノを使ってしまったからな。

 しかしやはり魔人族の襲撃に紛れたのか? 女神にバレなかったのは幸運だった……。


「あ〜……えーっと、それも覚えてないです。エリオット殿下が殺されると思って、そりゃもう必死で……なんの魔法を使ったんでしょうね? はははっ」


 くそ、三回目ともなると答えのバリエーションがないわ!

 こいつ、実は分かってて聞いてないか!?

 すべてがすべて、人間の知ってる魔法じゃないってことが……。


「ボルネンさま、仕方ないですわ。あの時は本当にひどい状況でしたもの。私も気を失ってしまったし、イムリオさまだって、いまだに……」


「ああ、僕もあの時は冷静ではいられなかった。とっさに身をていしてイムリオを庇ってしまったけど、あそこは魔法を使うべきだったよ」


 よしいいぞ、キャシーとエリオット、ナイスフォローだ!


 ボルネンはなぜかニコニコと嬉しそうな顔でキャシーとエリオットを見てから、最後に私に目を向ける。


「すべて覚えとらん、か。それだけ必死になって王都やエリオットを救ったということじゃな。しかし必死なだけで、三つもの新種らしき魔法を使うとはのう。レイラ、もしやお主の正体は……」


 えっ。


 ボルネンはそこで黙り込み、私の目をじーっと見つめる。

 まるで心の奥底まで覗かれそうな鋭い視線だ。


 まさかこいつ、本当に私の正体に……!?


「レイラよ。お主の正体は、勇者じゃな」


「……は?」


「その稀有な才能、そして謙虚で正義感に満ちた美しき心。レイラはいずれ、この国を救う大英雄となろう」


 ボルネンは威厳ありげにそう言って、ウンウンとうなづく。

 すると周囲で成り行きを見守っていた他の客たちから、感心したようなため息が漏れ、拍手がわく。


「やっぱりそう思いますか!? わたくしもずっとそう思っていたんです!」


「僕もです! さすがボルネンさま、レイラの本質を見抜いていたとは!」

 

 いやいやいや、なんでそうなる!?


「違いますって! 私は勇者なんかじゃありません、勇者なのはむしろこっちのふたっ……」


「そう、勇者は自分ではそうとは認めぬのじゃ。心配せんでもあと数年もすれば、わしやキャサリーヌ、そしてエリオットの言うことが正しかったと分かるじゃろう」


 いや分からんて!

 なんで悪魔の私が勇者になるんだ!?

 ていうかボルネンこそ、その歳で賢星やってんだから勇者確定だし、もう大英雄だろうが!?


 しかしこいつの言った「勇者は自分を勇者と認めない」ってのだけは当たってるか……?

 まったく、やれやれだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

実は、次話でいったん完結となります。


明日はいつもと違って午前中に更新予定です。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


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