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17.悪魔だって命を救う


 それは私が反応する余裕もないほどの、一瞬の出来事だった。


「イムリオ、逃げるんだ!」


 そう叫んだエリオットが、両手を広げてミドムゥドとイムリオの間に飛び出していた。

 

「待てっ……!」


 私はとっさに闇属性の炎の玉を召喚し、ミドムゥドに向かって放つ。

 だがそれがミドムゥドの右腕に当たるより先に、雷の矢が放たれてしまった。

 その矢は光の速さで飛び立ち、そして――。


 そして、エリオットの胸をまっすぐに貫いた。


「うあっ……!」


 エリオットの全身が閃光に包まれる。


「エリオット!!」


 私は倒れたエリオットに駆け寄って、その身に突き刺さる矢を握った。

 そして矢の魔力を吸収して握りつぶす。

 矢が消えると同時にエリオットを包んでいた雷光も消えたが、しかし……。


 今度はエリオットの胸にポッカリと空いた穴から、恐ろしい量の血が噴き出してきた。


「まずいっ!」


 くそっ!

 せっかく苦労して魔人族たちから守ったってのに、なんでイムリオなんかを庇うんだよ!


 私はもう正体がバレるとかは頭から消え、直接手のひらから魔力を出してエリオットを止血していた。


「心臓はなんとか無事か? だが太い動脈が感電で焼け焦げているな……」


 このまま止血してるだけじゃダメだ、エリオットが死ぬ。

 キャシーが気絶してなけりゃ、回復魔法で何とかなるかもしれんのに!

 どうする!?

 このまま私の魔力で回復させるか?


 ……いや、それは危険だ。

 このレイラの身体を蘇生できたんだから、エリオットを回復させるのだって超簡単。

 しかしレイラは髪や目の色が変わったし、闇属性の魔力が浸透してしまった。

 おそらくエリオットもタダでは済まない。

 そしてそれをやったのが私だとバレれば……。


 私はもう、二人と友人ではいられなくなる。

 それならやはり、キャシーに治させるしかない。


「ったく! 面倒な事をさせやがって!」


 私は何とか心を落ち着かせ、この身体ではまだ初級魔法しか使えん水魔法の魔力を練る。


「アイリス、キャシーに水をぶっかけて起こせ、エリオットが死ぬぞ!」


 それまでアワアワとパニック状態だったアイリスが、私の声にビクッとした後、急いでキャシーの元へ飛んでいく。


 物を凍らすだけならウィンディーネのアイリスの方が得意だが、あいつに止血はできん。

 私は止血する魔力を少しずつ弱めながら、代わりに水属性と闇属性の魔力をゆっくりと流し込んだ。


「……フローズン」


 それは超簡単な水属性の初級魔法の一つ。

 対象を凍らす魔法だ。

 私はかなり手加減しながらエリオットの全身を極度の低体温状態にし、そして胸部だけを止血できる程度に凍らせた。


「きゃあああっ! なんなの!? つめたいわっ……!」


「キャシー、起きたか!? さっさとこっちに来てエリオットに回復魔法をかけろ!」


 アイリスによってびしょ濡れになって震えていたキャシーだったが、すぐさまこっちに来てくれた。


「どうしたの? ……ええっ、エリオットさま!?」


「胸を雷の矢で突かれたんだ。今は凍らしてるがこのままじゃ持たない。だから死ぬ気で回復魔法をかけろ。この氷は少し闇属性の魔力が入ってるから、聖魔法で癒していけば溶けるはず」


「わ、分かったわ!」


「ウィル、タスケル!」


 水かけでウィルも気がついたか!

 ウィルは聖属性の精霊、二人がかりなら何とかなるかもしれん。


 私はキャシーが回復魔法を詠唱し始めたのを見て、ふらつきながらも立ち上がった。

 そして放置していたミドムゥドの元へいく。


 ミドムゥドは私の放った黒い炎に半身を包まれ、悶絶していた。

 あらゆる水魔法で消そうとしたようだが、無駄だ。

 それは地獄の炎、インフェルノを召喚したものだからな……上級悪魔にしか消せんのだ。


「インフェルノ、地獄へ帰還せよ」


 その一言で、ミドムゥドを苦しめていた炎はきれいさっぱり消えた。

 横たわり息も絶え絶えなミドムゥドが、恐怖の眼差しで私を見上げる。


「足はまだ動くか? それならさっきのモンスターに乗って帰れ。お前たちの負けだ」


 七賢星の結界は破られなかったんだから、魔人族は王都に侵入できなかったはず。

 それに魔人族の王国内への侵入はすぐさま探知されるから、もう各地から魔法使いが集まっているだろう。


「な、なぜ、俺を生かす……?」


「別に殺す必要はないだろ。それより伝令を頼みたい。いいか、お前らの企みを阻止したのは私、レイラ・メンフィスだ。恨むなら他の誰でもなく私を恨めよ」


「レイラ……メンフィス……」


 これでイムリオが魔人族に報復されなければいいが。

 まあイムリオはどうでもいいとして、妹のテレシアとやらが心配だからな。


 チラリとイムリオの方へ視線を向けると、未だに背を丸めて縮こまっている。

 そしてその肩に、いつのまに意識が戻ったのか、ピクシーがしがみついていた。

 あの惨劇の中でも無事だったか……良かった良かった。


「あ、ちなみに一年前にコルヌゥトの襲撃を止めたのも私だぞ」


 すると、その一言でミドムゥドが目を見張る。

 もしかしたらコルヌゥトから私の話を聞いていたか?


 しかしそれを聞くより先に、そいつは大やけどを負っているとは思えない素早さで立ち上がると、指笛であの猫型のモンスターを呼び、その背に飛び乗って去っていった。


 さすが魔人族、めちゃ元気だなぁ。

 とっさだっだもんでインフェルノなんてヤバめの魔法で殺してしまったかと思ったが、いらぬ心配だったな。


 ていうか、むしろヤバいのは私だ。

 人間界でインフェルノだなんて、女神に探知されるに決まってる!

 うわ〜どうするかぁ……女神が魔人族の王都襲撃の方に集中してて気づかない、なんてことはないだろうか……?


「エリオットさま!」


 キャシーの声に振り向けば、エリオットがゆっくりと上半身を起こすところだった。


「助かったのか!?」


「ええ、でも……この痕だけ消えないの」


 エリオットのコートと制服は、雷の感電で胸元が焼け落ちて素肌が見えていた。

 その心臓あたりの白い皮膚に、手のひらより少し小さいくらいの黒いアザができている。

 多少いびつだが、逆さまの星マークに見えた。


 つまり、サタンマーク、悪魔の印だ。


「あ〜……それはあの魔人族のせいかもしれん。魔人族の魔法はまだ謎が多いからなぁ」


 実際は私の魔力のせいなのは間違いない。


 くそ、魔力を込め過ぎたか?

 誰にもバレないといいが……。


「申し訳ございません、それは今のわたくしには消せそうにありませんわ」


「いや気にしないでくれ、命が助かっただけで十分だ。ありがとう、キャシー」


 エリオットは黒いアザ以外はすっかり癒えて、爽やかな笑顔を見せた。


「いえいえ! わたくしは怖くて気絶してしまってて、レイが……そういえばレイ、あれどうやって止血したの? 完全に凍ってるわけじゃないし、闇属性の魔力も少し入っていたし」


「え? いやぁ、必死だったからどうやったか……とりあえず凍らせれば血が止まるんじゃないかと思ってな」


「レイラが必死になって僕を……? しかも先ほど逃げていった魔人族、もしや彼を撃退したのもレイラかい?」


「ああ、うん、まあ……あいつ、火に弱かったみたいで運が良かっただけだが」


 するとエリオットは目を見開いて瞳をウルウルさると、パッと立ち上がった。


「おい! さっきまで死にかけてたんだぞ! もう少しゆっくりっ……」


「やはり君は僕の理想の女性そのものだ! レイラ、僕には君しかいない。どうか、僕と結婚してくれ!」


 片膝を突き、請い願うように私を見上げるエリオット。


 服も髪も乱れているが、いっぺんの曇りもないグリーンの瞳はとても美しい。

 人間の美醜はまだよく分からんが、その顔自体も人間基準では間違いなく整っているんだろう。


 ふと自分の手を見下ろせば、エリオットの血ですっかり赤く染まっていた。 

 そして、さっきの死にかけのエリオットを思い出す。


 なんでエリオットを救うのに、私はあんなに必死だったんだ?

 昔なら人間一人が死のうと気にしなかったのに。

 こいつが私の中で、それなりに特別だとでもいうのか?


 つまり私は、いつの間にか――。


「……断る」


「なぜー!?」


 エリオットの叫びが、訓練所を囲む森の中に響き渡った。


「そういうのは私より優秀な魔法使いになってから言え。まずは七賢星になるんじゃなかったのか?」


「ぐっ……そうだけれども! ……よし、二年後を待っていてくれ!」


「いや、そんな急がなくてもいいだろーが! その次の七賢星の就任試験でもっ……てかお前、イムリオの妹との結婚、なんで断ったんだ。結婚しとけよそこは!」


「なぜって、僕は父と約束しているからね。七賢星に入れれば、好きな相手と結婚していいと。だから僕はレイラと結婚するんだ」


「勝手に決めんな! たとえお前が賢星になっても、私がその上を行く賢星になれば何の問題もない。お前はどこかのお嬢さんと結婚しろ。てかキャシーがちょうどいいからキャシーと結婚しろ」


「いや、僕はっ……」


「うふふっ、レイなら本当に最強の七賢星になっちゃいそうだわ。エリオットさま、大変ね」


 私とエリオットが言い争ってる横で、周りの惨劇など吹き飛ばすようにキャシーが笑っていた。


17話を読んでいただきありがとうございました!

ようやく物語もひと段落つきました。

次はレイ視点ではなく少し短いので、明日は昼にも更新予定です。(いつもの18時だけになる可能性も…)

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