15.悪魔の説得
えーと、イムリオはどんな性格だ?
隣のクラスだからよく分からんが、とにかくプライドが高くて陰キャの負けず嫌いで、エリオットが嫌いで……よし。
「よく考えろ、お前には奇跡のリベンジチャンスがたった一つだけ残されている」
「は? 奇跡の、なんだって?」
「あの悪魔に、魔人族のこの作戦をぶち壊させるんだ」
「はあ!? なぜそんなことをしないといけないんだ! 私の望みはこの王国のっ……」
「いや違う。お前の本当の望みはイシュリア王国を壊すことじゃない。お前の知性と実力を、世に知らしめることだろう?」
「それはっ……まあそうだが……」
その迷いがイエスの証だった。
やっぱりな、こいつはエリオットへの嫉妬をこじらせて自己顕示欲の塊になっているだけだ。
そこを、かつて同じように世を憎んだゼニールにつけ込まれたか。
「しかし私が望むのは、私を蔑ろにした教師たちを懲らしめ、そしてエリオットを亡き者にし……」
「なっ!? どうしてだい、イムリオ! もしかして僕がテレシアとの婚約を断ったからかい!?」
「そんなわけあるかっ! 大事なテレシアを嫁にやるなどっ……!」
テレシアって、イムリアの妹の名前だよな?
なるほど、エリオットとイムリオの妹の間に結婚話が出ていたのか。
……しかしイムリオはそれに反対していた、と。
「もしやイムリオ、シスコンなのか?」
「はあ!? ちっ、ちがっ……テレシアは私の女神だ! テレシアだけは私の努力と本当の価値を分かってくれている! それにとても可愛いくて美しくて、純粋で慈悲深くて完璧でっ……」
なんてこったい。
王都を滅ぼす動機のメインが、シスコンかい!
私は心底バカバカしくなったが、気力を総動員してまじめな顔を作った。
「それならテレシアのためにも考え直せ。お前は魔人族とゼニールにそそのかされただけだと証言してやるから。それに魔人族の計画をぶち壊せば、お前の名前は永く語り継がれることになるぞ……英雄として、な」
「は? 英雄ぅ!?」
イムリオだけでなくキャシーとエリオットも驚いている。
「なぜ私が英雄になれるんだよ!」
「そりゃ、魔人族の企みを阻止した男と呼ばれるからさ」
「しかし……すでにここだけで十三人の命が失われているんだぞ、こんなことをしでかした私を、誰が許すんだ?」
こいつ、意外と冷静だな。
その冷静さをもっと早く発揮させろよ……。
「いやいやよく考えろ。今お前が思いとどまればどれだけの命が救われると思う? それにな、人間ってのはエリオットみたいに最初から完璧なやつより、一度失敗して立ち直ったやつを応援したくなるもんだ」
エリオットが「え、そうなの……?」とショックを受けている。
まあそんなの立ち直った後の努力次第だが、今はイムリオを改心させるのが優先だ。
「エリオットより……? しかし……でも……」
大事な葛藤中に申し訳ないが、そろそろリミットが近づいている。
悪魔召喚の魔法陣の光が徐々に弱まっていた。
マオラは暇すぎて、こっちに聞き耳を立てながらも、アニキたちから今何が起こっているのかを聞き出していた。
その中でいくつか気になるワードが聞こえてきたから、私はキャシーにこっそり「悪魔と魔人族の話を聞いておいてくれ」と頼んである。
では最後のひと押しだ。
「ほら、大事な決断だぞ。テレシアだって、魔人族に手を貸して大量虐殺を起こした兄より、改心して王都を救った兄の方がいいに決まってる」
イムリオの肩がピクっと震えた。
「兄が英雄と呼ばれたら、テレシアだって嬉しかろうよ」
「大量虐殺……いや、だが私は魔人族たちと……」
「魔人族は人間をゴミとしか思ってない。なにせ人間より強い魔力を持っているし、身体も頑丈。さらに残忍で傲慢なあいつらが、自分より劣ってる種族との約束を守ると思うか? それにもしあの魔人族たちがお前を裏切れば、テレシアだって身の安全は保証されんぞ」
「テ、テレシア……! ああ、うぅ……で、でも、どうすれば?」
よし! なんとかなったか?
私は安堵したのを悟られぬよう静かに息を吐く。
ここからが大事だ。
だが私が何か言うより先に、イムリオが口を開いた。
「そうだ! 悪魔召喚で死んだみんなや、王都の暴動で死んだ人たちを生き返らすってのはどうだろう? そんなこと、悪魔にできるのか分からないが」
「もちろんできるよ!」
嬉しそうにマオラが割り込んでくる。
「それはやめとけ! 悪魔が蘇生なんかしても三日しか持たん」
「そうなのか?」
「へえ、よく知ってるね……」
マオラがひきつった笑みでつぶやく。
そしてマオラに夢中だった魔人族たちが、イムリオの様子がおかしいのにようやく気づいた。
「どうしたイムリオ! 早くこのマオラさまに願いを告げよ!」
アニキの野太い声に、イムリオの肩がビクッとする。
よし、急がねば。
一番いいのはこの魔人族たちをどうにかする事だが、マオラ相手だからな、願いは慎重に――。
「決めた! この魔人族たちを退治してくれ!」
「え? おい勝手に決めんな! そんなフワッとした願いじゃっ……!」
しかし私の声は、魔人族たちのどよめきでかき消える。
「なんだとイムリオ、約束が違うぞ! 裏切るなら、我々はお前の一族を一人残らず抹殺する!」
巨体のアニキが怒り狂ってて、すごい迫力だ。
「待て、落ち着けイムリオ、もう少し具体的に……」
しかしアニキの脅しに顔面真っ青なイムリオは、震えてしまって言葉も出ない。
「くそっ、イムリオ、しっかりっ……!」
「はーいタイムアップだ、承ったよ! ここにいる魔人族をしっかり退治してあげようね」
そんなマオラの上機嫌な声とともに、マオラの手のひらから黒い闇のようなものが噴き出した。
「ああっ、まずい!」
アレはあいつのお気に入りじゃないか!
黒い闇のようなものは空中に散らばると、それぞれが大きめの人っぽい形になる。
そして手の部分がビヨーンと伸びて真っ黒の剣や槍のような武器を手にした。
あれはマーダーシャドー。
精霊のシャドーの悪魔バージョンみたいな魔物で、非常に残忍な性格をしている。
何より厄介なのは、物体ではなくエネルギー体だから、強力な聖魔法か、悪魔並みに強い闇属性の魔法でなければ攻撃が通らないという点だ。
つまり、あいつらに狙われた魔人族は……。
「さあ可愛いマーダーシャドーちゃん、ここにいる魔人族を一人残らずイイ感じにしておくれ」
マオラがうっとりとした顔で命じる。
途端にマーダーシャドーたちが魔人族に襲いかかった。
「マオラさま、なぜ!? くそっ、ぶっ殺すぞイムリオォォォ!」
アニキたちは怒り狂って臨戦態勢に入るが、当然、魔人族たちの武器はマーダーシャドーに効かず空ぶるだけ。
対するマーダーシャドーの武器が魔人族に触れると、高濃度の魔力によって皮膚がはじけ飛んで露出した肉がブクブクと腐蝕し、魔人族たちは血の涙を……。
つまり、人間的にはものすごーく、グロい。
「きゃあああっ!」
「ど、どういうことだ!?」
まずいな、この惨劇を最後まで見せられちゃ、キャシーたちのトラウマになること間違いなしだ。




