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12.悪魔でも実技テストは悩ましい


 あっという間に一年の集大成が近づきつつあった。

 それは後期の期末テスト……つまり二年生になれるかどうかの進級テストだ。


 筆記と実技があり、筆記は昨日で無事終了。

 今回のゼニールのテストは予想どおり、さらに難易度アップで、テストが終わった後はキャシーが灰と化していた……ホントすまん。

 まあ、私は今回も一位だろうよ。


 そして今日はついに実技の進級テストがある。

 教師の召喚したモンスターと一対一で戦うというものだ。


 私にとっては超楽勝だが、ただ勝てばいいというもんではなく、自分の精霊(私だけドラゴンだが)と力を合わせて戦う必要がある。

 さらに評価されるのは魔法の技術の他に、戦況の見極めとか精霊の特性の活かし方とか、なんとかかんとか。

 とにかく、多少は頭を使わねばならん。


 教師が召喚魔法を使うため、会場は今回もまた王都から出てすぐのアーチェスト学園第二魔法訓練場だった。

 送迎馬車が出ていたが、今回は上級生も見学していいとかでメチャ並んでいたため、私とキャシーはのんびり徒歩で向かうことにした。


 少し歩いた方が身体もほぐれるしな。

 私はそんなの必要ないが、キャシーが緊張と寒さでガチガチだから、ちょうど良かった。

 なにせまだ早朝、春の気配が薄いこの時期はけっこう寒い。


「歩きは私たちくらいかと思ったが、意外といるんだな」


 学園の敷地は王城のすぐ近くにあって、かつ王都は城を中心に緩やかな丘になっている。

 だから学園の門から出ると、徒歩で坂を下る学生たちがチラホラ見えた。

 アーチェスト学園は学年で制服の色が違う。

 見た感じ上級生が多いな。


「二年や三年は気楽でいいなぁ、エンタメ感覚で観戦か」


「どちらかというと一年生の実力を見ておこうって感じじゃないかしら?」


 そうか……アーチェスト学園の生徒ともなれば、意識高い系だもんな。


 うちの卒業生で成績の良い者はほぼ王宮魔法使いになり、王立魔法騎士団に入ったり王立魔法研究所に所属したりと超エリートコースだ。

 さらに二年後には魔法使いだけでなく全国民が大注目のイベントがあるから、ライバルのチェックはかかせないんだろう。


 大注目のイベント――それは七賢星就任試験(しちけんせいしゅうにんしけん)だ。


 七賢星は三年に一度、現七賢星と、各地の優秀な魔法使いとの直接対決によって、現職の継続か入れ替わりかが決まる。

 魔法あり、体術あり、召喚精霊との共闘ありの、見る分にはとっても楽しいエンターテイメントだ。

 そしてその七賢星就任試験の予選に出られる条件に「魔法使いか、魔法学校の生徒」というのがあった。

 つまり学生でも出られるというわけだ。


「む……もしやエリオットは、次の七賢星就任試験に出るつもりじゃないよな」


「えっ、もちろん出るつもりじゃないかしら」


「なんだと!? いくら学生から出られるとはいえ、ああいうのは実務を積んでから……」


「あら、噂をすればエリオットさまじゃない?」


「なに!?」


 確かに大通りの少し先に、見間違えようのないキラキラブロンドの長身が見えた。

 その横を歩くブラウンの頭は……。


「え、嘘でしょ、隣にいるのはイムリオさま?」


 確かに、頭のすぐ後ろをピンク色のピクシーが飛んでついていく。


「あいつら、いつのまに仲良くなったんだ?」


 気になって見ていたら、イムリオが急に横の路地を指差して、曲がって行ってしまった。


 どこかに寄り道でもするのか?

 これから試験だってのに?


「なんでだ……?」


 イムリオはエリオットが嫌いだったはずだ。

 まさか裏路地に連れ込んでボコボコにしようとしてたりして……って、エリオットはそう簡単にやられんだろうが。


「なんだか気になるな、ちょっと追いかけよう。ドラくん、見失わないよう先に行ってくれ!」


 ドラくんは飛んで加速するとめちゃ早いからな。

 私もすぐに走り出す。


「え? レイ、ちょっと待って!」


 私は二人の曲った路地に駆け込み、ドラくんの姿を追って走る。


 すると無事、路地の先にエリオット達が見えてきた。


「エリオット!」


「うわっ! ……なんだ、レイラじゃないか。どうしたんだい?」


 私に会えて嬉しそうなエリオットと対照的に、イムリオは眉をひそめて嫌そうな顔をしている。


「いや、その……二人が曲がっていくのが見えてな、もしかして近道があるのかと思って」


「よく気づいたね! その通りだよ。イムリオが近道を知っていたんだ」


「良かった、追いついたわ! はぁはぁ……」


「キュウニハシル、ヨクナイ!」


 よし、キャシーとウィルも無事に合流したな。


「そういうことならご一緒させてもらおう。ところで、二人が一緒にいるのは珍しいな。それにいつもつれている護衛や友人たちがいないぞ?」


 すると、エリオットが気まずそうな顔で苦笑した。


「ああ、イムリオと二人だけで話があってね。ええっと……」


「かまわない、話は後にしてさっさと行こう」


 イムリオはそっけなくそう言い、返事も待たずに歩き出す。


「じゃあ、レイラとキャシーも一緒に行こうか」


 エリオットは朗らかだが、その頭の周囲をくるくると旋回しているアイリスは、どこか硬い表情をしていた。


 その後、イムリオを先頭に何度もウネウネと路地を曲がっていき、再び広い通りに出た。


「これは七番通りか? 確かに近道だが、ずいぶん複雑だったなぁ」


「ええ、わたくしなら覚えられないわ」


 本当にただの近道だったとは……。

 イムリオ、疑ってすまん!


「この通りをまっすぐ行けば、第二訓練場近くに出られる門があるね。イムリオの言う通り一気にショートカットできたよ」


 エリオットもさっきの気まずそうな顔はすっかり消え、楽しそうだ。

 これから実技試験だってのに余裕だな、おい。


 なんて思っていたら、早朝で人の気配の少ない通りを、馬車の蹄の音が近づいてきた。

 端によけてやり過ごそうとするも、馬車は私たちの真横で急停車する。


「イムリオ! こんな所を歩いていたのか……では、まだ知らせは聞いていないのか?」


「ゼニール先生!?」


 テストのダメージがまだ癒えないキャシーが、悲鳴のような声をあげた。

 ゼニールも眉をひそめて私の方を見ている。


「叔父さん、おはようございます。知らせとは……?」


 ゼニールは仕方なさそうにため息をついて、馬車の扉を開けた。


「急きょ第二魔法訓練場が使えなくなってな、会場が第一魔法訓練場に変わったのだ。ここから歩きだと遠すぎる、乗っていくといい」


「えっ、試験会場が!?」


 なんてこったい。

 第一魔法訓練場は、王都から少し離れた小山の上にある古い訓練場で、施設の老朽化から今はほとんど使われていないと聞くが。


「その馬車は四人乗りですよね? 僕は学園に戻って送迎馬車を使うから、レイラとキャシーが乗せてもらうといい」


「何をっ……!? エリオット殿下を歩かせるなど、とんでもない!」


「ですがレディに歩かせるなど……」


 ゼニールとエリオットが言い合っているので、私がいい案を出すことにした。


「私はドラくんに乗っていくから、キャシーだけ馬車に乗れればいい。ドラくんはこう見えて力持ちだからな」


「どらくん、がんばる!」


 ドラくんは中型犬サイズだが、なにせカオスドラゴンの幼体だ。

 実は私一人を運ぶのなんて楽勝だったりする。

 それに私は同学年の女子に比べて小柄だし、サイズ的にも問題ない。


「そ、そうなのか? ……では乗りたまえ」


 ゼニールは少し戸惑ったようだが、とりあえず馬車とドラくんで第一魔法訓練場に行くことになった。


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