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11.街ブラする悪魔


「さあ、ここからは歩いて行きましょう」


 王都の大通りに送迎の馬車を停め、歩道に下りる。

 王都は精霊を連れた魔法使いが歩いていても珍しくはないが、ドラくんはデカいし、見た目がドラゴンだ。

 案の定、通り過ぎる者たちが興味津々にドラくんを見ている。


「少し風が寒いわね。こういうときは火の精霊を連れている人が羨ましいわ」


「ウィル、アタタカイ! フワフワ!」


 ウィルが抗議してキャシーの周りを飛び回っている。


「確かにウィンディーネのアイリスを連れてるエリオットなんて、体感温度がマイナス五度だろうな」


 なんてことを話しながら歩いていたら、大通りの向こうから怒声が聞こえてきた。


「待てー!」


 大通りのど真ん中を走る必死の形相の男を、魔法警察らしき二人組が追いかけてくる。

 魔法警察の男たちは杖を振って拘束魔法を飛ばしているが、人が多いからかなかなか当たらない。


「あのままじゃ危ないわ! なにか手助けできる魔法は……」


 キャシーが杖を出そうとするのを手で制す。


「ドラくん、あいつを転ばせろ」


「わかった!」


 ドラくんは元気に返事をすると、横を通り過ぎようとしていた男の足元に飛び出した。


「うわっ!」


 岩より硬いドラくんにつまづいた男は、勢いよく転がる。

 そしてすぐさま飛んできた拘束魔法によってガチガチに固められてしまった。


 駆けつけた魔法警察官の一人が、男の胸元から平たい何かを引っ張り出して、黒い袋に入れている。


悪魔関連呪物所持(あくまかんれんじゅぶつしょじ)の現行犯で逮捕する!」


 悪魔関連って……もしや?


 もう一人の魔法警察官が、戻ってくるドラくんを追ってこちらに来た。


「そのコートはアーチェスト学園の生徒か! ご協力感謝します。しかしこれは……精霊ではないような?」


「それより先ほど没収したのは、もしや悪魔召喚の書では?」


 私の問いに、魔法警察官の顔がサッとくもった。


「ええ、ここ最近多くて……あっ、ではこれで」


 あまり話せない内容だったのか、それだけ言うと彼らは男を連行して去っていく。

 やはり悪魔召喚の書だったか。


「そういえば最近、悪魔召喚の書の所持で逮捕される人が増えているんですって。誰かが複製しているのかしら?」


「うーん、複製は無理だと思うがなぁ……」


 悪魔召喚の書は悪魔がこの世界にこっそり送り込んでいる、いわゆる密輸入品だ。

 人間がどうやって入手するかは様々だが、裏では高値で取引されている。

 レイラの両親の場合は、商売で色んな商品を取り扱っていたから何かの拍子に手に入れたんだろう。

 レイラの祖父がそれを使って私を召喚したというわけだ。


 しかし悪魔召喚は国で禁止されている。

 悪魔召喚の書を所持しているのがバレても逮捕されるくらいだ。


 とはいえこっそり悪魔召喚をやっても魔法警察にはみつからないし、女神にも気づかれない。

 人間との契約を通して悪魔が人間界に来るという裏技を使うからな。

 つまり悪魔召喚の書は人間にとって厄介な代物(しろもの)というわけだ。


「そういえば……最近、悪魔召喚の書が多く出回っているのは、魔人族が配っているからという噂があるみたいよ」


「魔人族が、だと? 確かにあいつらは悪魔を崇拝しているし、人間にしか悪魔召喚はできないが……」


 魔人族がどうやって悪魔召喚の書を手に入れて、どうやって配るっていうんだ?

 王国内から締め出されてるってのに?


「魔人族といえば、あいつらの襲撃もまだ続いているらしいな、私たちは王都にいるから安全だが」


「ええ、七賢星の方々が対策に当たっているそうだけど……はやく収まるといいわね。わたくしたち、夏休暇に帰省できなかったもの」


「それは激しく同意だ」


 実は一つの仮説を立てている。

 あいつらが狙う有能な魔法使い……実は勇者っぽいやつらを狙ってるんじゃないか?


 しかし誰が勇者っぽいかなんて、魔人族には分からんはずだがなぁ。

 魔人族の動向は気になるが、謎が多すぎる……。


「ん? あれはピクシーじゃないか?」


 少し先の路地を、ピンクの小さな精霊がフワフワと飛んで曲がっていった。


「ピクシーならイムリオさまかしら」


 その細い路地の入り口にたどり着くと、案の定、イムリオが誰かと立ち話をしている。


「えっ、ゼニール先生!?」


「……ふん、何か用かね?」


 ゼニールがめちゃ不機嫌そうだ。

 せっかくの休日に会いたくないのはお互い様なんだが……。


「いや、そのピクシー……名前を知らなくてごめんなさい、その子の姿が見えたから気になって」


「名前だと? こいつに名前などない」


「えっ、名前がないですって……?」


 イムリオの返答に絶句するキャシー。


 召喚した精霊はペットのようなもんだからな、名前をつけるのが普通だが……。

 イムリオはよほどピクシーに不満があるとみた。


 気まずい沈黙を断ち切るために何か発言してやりたいところだが、それよりこの二人が気になる。

 叔父と甥だから一緒にいるのはおかしくないが、なんでわざわざこんな裏路地に?

 これから誰かに会いに行くとか?

 ……なんか引っかかるな。


「やっぱり! レイラとキャシーだ、奇遇だね!」


「うわっ!? ……なんだ、きさまか」


 テンション高い声に振り返れば、両手ででかい紙袋を抱えたエリオットが立っていた。

 背後に二人、護衛らしき黒衣の魔法使いを連れている。


「キャシーと二人でお出かけかい? 王都内とはいえ二人だけでは危ないよ。よければ寮まで送ろうか」


「けっこうだ。護衛ならドラくんがいる」


「けれど……あれ? なんだ、イムリオも一緒だったのか! しかもゼニール先生まで!?」


「相変わらず賑やかだな、君は。では失礼する」


 イムリオは不快そうな顔で舌打ちをしてから、無言のゼニールとともに去っていった。


「なによあれ、感じ悪すぎない!?」


「すまない、僕のせいだ。どうも最近、彼に嫌われているようでね。小さい頃は仲が良かったんだけど……」


 エリオットがため息をつく。


 噂ではイムリオのやつ、エリオットをライバル視しているらしいからな。

 イムリオとエリオットは親戚同士だからなぁ、同い年の天才がいたら複雑なんだろうよ。

 ま、あいつではエリオットには勝てんが。


「いいにおい、する!」


 ややシリアスな雰囲気を、ドラくんの無邪気な声が吹き飛ばした。

 シルバーのまん丸な瞳をキラキラさせて、後ろ足で立ち、エリオットの足にしがみついている。


「ああ、これかい? ちょうどレイラにプレゼントしようと思って買ったんだよ」


「プレゼント、だと?」


「ああ、そこの新しいスイープショップで買ってきたんだ。ほら、この間話したお店だよ」


 こいつ、一緒に行くのを拒否したから、わざわざ買ってきてくれたのか?

 ……ったく、そういう気遣いは他のレディに向けてくれ。


「ちょうど良かったですわ! わたくしたちも今からそのっ……むぐぐぐ」


 慌ててキャシーの口をふさぐも、手遅れだ。


「そうだったのか! 僕の話を覚えていてくれたんだね、嬉しいなぁ。あ、ドラくんもスイーツが好きだよね、これどうぞ」


「あまいの、すきー!」


 声を上げるドラくんの口に、エリオットはどこから出したのか? カヌレ的な黒い塊をポイと入れた。


「この焦しキャラメルカヌレ、見た目がドラくんぽいなと思って買ってみたんだよ」


「確かにカヌレのゴツゴツ感は通じるものが……って、そうじゃなくて! そのお店にはこれからキャシーと二人で行くから、プレゼントなどいらん」


「でも僕が店を出る時には二時間待ちの行列ができていたし、今から行っても限定品はもう無くなっているよ?」


「なに!? そんなに混んでいるのか?」


「あら、限定品が……それにこの寒空の下、二時間はきついわね」


 確かになぁ、私は魔力で体温なんてどうとでもできるが、キャシーには寒いか。


「仕方ない、今回はありがたくいただくとしよう」


 渋々エリオットから紙袋を受け取ろうとしたが、なぜか渡してくれない。


「じゃあ、うちの馬車で一緒に帰ろう」


「いやけっこう、帰りはゆっくり歩いて帰るさ」


「そうかい? でも袋の中には焼きたての生フィナンシェアソートが入っていて、冷えてしまったら……」


「焼きたての生って、どういうこと!? レイ、早く食べたいわ!」


 おいおいエリオット、なかなか策士だな……。

 私だって焼きたてが食べたいぞ!


「あーもう分かったって、仕方ないから一緒に帰るか」


 私は諦めてエリオットと通りを折り返して歩き出した。


 まったく。

 こいつはプロポーズの件さえなければいいやつだ。

 ていうか、私なんぞでなくキャシーと結婚すればいいんじゃないか?

 中身的にも外見的にも身分的にも、ピッタリだろ?


 この二人は人間の中でも特に性格がいいし、魔力も高いし、なにより一応友人だ。

 もし魔人族に狙われるようなことがあれば、助けてやってもいいレベルには気に入ってる。


 よし、これからは二人をくっつけるよう頑張ってみるか。


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