□月星暦一五三六年二月②〈不信〉
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長い戦いの日々が終わった。
アセルスが『描いた予言』通り、アトラスが終わらせてくれた。
これからは日常のあり方が変わるだろう。
タビスは本来神官である。
女神の代弁者とされる唯一の存在である。
予言された言葉は『タビスが終結の鍵』であり、『タビスが終わらせる』とは一言も言われていない。
だが、アセルスは拡大解釈して、いずれタビスが終わらせるからと、その方が士気があがるからと、常にアトラスを最前線に投入した。
一つ戦いが終ると、女神に感謝を捧げる為とアトラスが神殿に籠もる為、祝賀会は一週間後なのが通例となっている。
その期間が、アトラスが傷を癒やす為のものだったことに、一体どれ程が気づいていただろうか。
『タビスが終結の鍵』という予言はジェイド側も当然知っている。
タビスさえ討てれば勝利とジェイド側は考え、アトラスは常に標的にされてきた。文字通り矢面に立たされ続けてきたと言っていい。
傷を負わない訳が無い。
だが、タビスは倒れていられない。
傷など負ってはいけないのである。
その事象さえ『女神の意志』と考えるの者すらいるからだ。
余談だが、作られた『無傷のタビス』伝説にあやかって、散髪の際に出た髪を詰めて『健康護り』として小遣い稼ぎに売っていた神官見習いがいたと聞いた時には呆れるを通り越して怒りすら覚えたものだ。
『タビス』は神官故、アトラスは城の向かいにある王立セレス神殿に自室を持つ。
失神して以来そのまま目覚めることなく自室に運ばれた。その時には高熱を出していたという。
当初、神殿側はいつもの様に隠そうとしたが、今回は折れた。
そもそもアウルムはアトラスが失神したその瞬間そこにいた為、隠しても無駄だと諦めたらしい。
アウルムが隊長を務める十六夜隊と弓月隊は共同警護という形を取っている現在、弓月隊の隊員との接触は不自然では無い。
アウルムはタウロを伴い、隊長への状況説明という体でアトラスを見舞いに行った。
兄が弟に会いに行くのに慎重すぎるとタウロは呆れていたが、それほど迄にアウルムはアセルスを信用していなかった。




