■月星暦一五四二年十一月①〈来訪者〉
大祭が終わって数週間後。
祭りの余韻も薄まり、ありきたりの日常が戻った、とある日の昼下がりのこと。
城門に竜護星の関係者が訪れたと、アトラスに連絡が入った。
迎えに行き、そこで待っていた人物に驚きを隠し得ない。
「モース、まさか貴方がいらっしゃるとは!」
竜護星宰相モース・コル・ブライト自らの来訪に、その気遣いに深く感謝する。
訪問はモースとハイネと二人だけで、護衛の類は連れていない上に荷物が少ない。
「もしかして、竜で?」
「ええ。私はハイネの後ろに乗っていただけですが」
「途中迄ね。港町でちゃんと入国して、そこからは馬車に乗ってきた」
ハイネの補足にいい判断だとアトラスは頷く。
後の為にも、その辺りは密入国を誤解されないよう取り決めなければならない部分だろう。
「それで、月星側の要請にあった、竜を扱える連絡係には僕が決まった」
予想通りだとは言え、気になってモースを伺う。
「良いのですか?」
モースは孫のハイネを自身の後継者とする為に、色々と仕込んでいた筈だ。
「王が提案し、本人が了承しました」
モースはいつもの笑みで応える。
「月星側は貴方という最強の手札を示して下さいました。ならばこちらも最適解を示せねばなりますまい」
「感謝します」
素直に礼を述べると、アトラスは城内に二人を案内した。
どこか懐かしむ様子なので訊ねると、モースはかつて王女だった頃の前王セルヴァに同行して来たことがあると言う。
「ところで、こちらの宰相殿は今でもアルムさまですか?」
「そうですが。もしや当時、既に?」
「ええ。美味い酒を飲める店を教えていただきましたな」
アルムは前王の頃から宰相を務めている男だが、一体いつから宰相をしているのか気になるところだ。
小噺
アルム:腕
モース:作法
コル:心臓




