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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
四章 三人の『兄』
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■月星暦一五四二年十月大祭後三日目②〈街区神殿〉

 馬車を降りると、神殿の入口でよく知った顔を見つけて足を止める。


「……何故いる?」

「お言葉ね。王女アリアンナは月一で順番に街の神殿を回って勉強会の手伝いをしてるのよ」


 アリアンナは自分のことを第三者のように言うことで、言外に()()()()()()()()()という言葉を匂わせた。

 背後のハイネに視線を向ける。

「僕は、月星では読み書きのできる人間が七割を超えると聞いたから、その理由を知りたいと思ってね。アリアンナに連れてきてもらったんだ」

「お兄様が来るのを知っていたら、無理にでもレイナも連れてきたのに」

 アリアンナは意地の悪い顔をした。


 アンブルの街区立神殿は七軒あるが、二人がここに来ていたのは本当に偶然だったらしい。


「そんな格好をしてると、ほんとに神官に見えるよ」

 改めて指摘されると、急に気恥ずかしくなるものだ。

「あんまりじろじろ見ないでくれ。俺の意思じゃない」

「ブライトさま。タビスたるアトラス様は最高位の神官でいらっしゃいます」

 サンクが困った顔でハイネに囁く。


 きちんとした紹介はなくとも、大祭前夜の騒動の時に水面下で色々と動いていたサンクはハイネのことも把握しているのだろう。

 覆面をしていたが、突入の際に同行した手練れの一人は恐らくサンクだ。

「そうだったね、失礼」


「それにしても、急に視察だなんてどういう風の吹き回しかしら?」

「ここにいるという者に会いたかっただけなんだが、話が大きくなってしまった」


 察しの良いアリアンナは誰のことなのか分かったらしい。

()()()なら、神官長の補佐をしているわ」


 神殿の玄関を入ると、正面には聖堂への大扉、左手には聖堂二階への階段、右手には集会や教室などに使われる多目的室を経て神官の居住空間へと続く扉がある。

 月星では極めて平均的な作りの神殿である。


 右手の扉に向かおうとしたアトラスをアリアンナが止める。

「目立つわ」


 丁度聖堂では朝拝が行われていた。

 聖堂は廊下に面しても窓がある為、丸見えになる。こんなタビスと宣伝しているような装いで通れば、大騒ぎになり朝拝どころではなくなるのは目に見えている。


「二階の後ろで終わるのを待ちましょう」


 サンクに促され、左手の階段を登る。女神への讃歌に掻き消され、足音は響かない。


 だが、これが裏目に出た。

 壇上で説法をしていた神官長がきづいて、わざわざ二階をご覧くださいとに示してしまった。

「本日はタビス様が神殿にいらっしゃっています」

 一斉に後ろを見上げる礼拝参列者たち。

 歓声があがる。


「余計なことを……」

 小さな声で毒づきながらも、アトラスは貼り付けた笑顔で手を振る。

 その横顔をハイネは唖然と見つめ、アリアンナはやれやれとため息をつく。

 サンクは一瞬申し訳なさそうな顔をするや、慌てたように階下へ急いだ。

 朝拝が終わればタビスを間近で一目みたいと思うのが人情というもの。

 混乱回避の為、居住区の神官たちに応援を頼みに走ったのだ。


 果たして、サンクの機転で階上に押し寄せるという事態は回避された。


 アトラス達は朝拝が終わる寸前に席を立ち、参列者が動き出そうという時には聖堂廊下側の窓に姿を晒し、人々の目が釘付けになっている間に通り過ぎ、その間大扉は制された。


 神官達は大扉から出てきた者達が居住区に向かう前に「タビスからの差し入れ」と、サンクから預かったお菓子を配り始めた。

 その間に一行は神官長室に辿り着いた。


 にこやかに歓迎の挨拶をしようとする神官長を遮り、アリアンナがついと前に出る。


「神官長、ああいうのは困りますわ」

 アリアンナが苦言を呈する。

「お気持ちは分かりますけど、お兄様を危険に晒す結果になりかねません」

 アリアンナは冷たい声で淡々と言い放つ。


 この王女様は自分がどう振る舞えばどう見られるか、その効果をよく知っている。

 場面に応じた自分の役割を心得ている。


 タビスに文句を言わせてはいけないのだ。

 タビスの言葉は女神の言葉と刷りごまれている神官には、必要以上に厳しく刺さってしまう。


「申し訳ございません、配慮が足らずに」

 手で制してアトラスは苦笑するに留めた。


 信心深い者ほど扱いが難しい。

街区神殿平面図イメージ

挿絵(By みてみん)

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