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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
四章 三人の『兄』
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■月星暦一五四二年十月大祭後二日目①〈飲み過ぎ注意〉

 朝、目を開くとそこは見慣れた自室だった。

 昨夜戻った記憶が無い。机に突っ伏して、そのまま眠ってしまったのかも知れない。


 風呂場に向かうと、プロトが大きなたらいを前に何かをしていた。


「おはようございます、アトラスさま」

「それは?」

「丁度良かった。お湯を貰っておきましたよ。昨夜も遅かったので浴びたいと思って」


 朝から風呂に湯を張るほどの手間はかけられないからということらしい。


 風呂の無い宿だと、部屋にこんなたらいで湯を運んでくれる所がある。

 刻印を晒さずに済むので、アトラスとしては却ってありがたかった。


 その点、竜護星の移動式の湯船は便利である。

 各居室にタイル張りの一画があり、段差(レベル)がきってある。排水溝に繋がる穴があけてある為、使用後は湯船の栓を抜けば良い。

 湯船は空ならば数人で運べる重さだから、部屋の数だけ必要な訳では無い。使用する側も、わざわざ風呂に入りに出向かずに済むため都合が良い。


 水が豊富な街だからできることかも知れないが、報告書に書いておこうと考える。


「アトラス様?」

「いや、ありがとう。気が利くな」

 アトラスは少年を労った。

「風邪でもひかれたら困りますから」


 憎まれ口をたたきながらも、褒められて嬉しいのは隠せない。仔犬のようにわかりやすい。尻尾があれば、ぶんぶん振っていることだろう。


「僕は朝餉の用意をしておきます」

 言って出ていくプロトの足取りは軽い。


「俺は昨夜、どうやって帰ってきた?」

 パンを千切りながら、向かい側に座るプロトに尋ねてみる。


「タウロさまとうちのサンクに連れられて……」

 サンクは神官でありながら弓月隊にも所属している者の一人だ。神殿に夕食の件を伝えに行った者である。


「不覚だ……」

 アトラスは額に手を置き、溜め息をついた。

「お酒はほどほどになさって下さい」

「いや、あれはタウロが…」

()()()さま」

「すまん……」


 咎めるようなプロトの視線になんだか申し訳無くなって謝った。

 プロトの憧れのタビス像は一週間も経たずに砕かれようとしている。

 妙な幻想を持たれても困るのだが、若干罪悪感を覚えないことも無い。


「今日は、どうされるご予定ですか?」

「図書館へいくつもりだ。報告書を纏めるように言われてる」


 頼まれた件自体は、旅の間につけていた日記……とまではいかない、覚書程度のものを記した手帳をまとめればすむが、確認したい項目もある。

 図書館は城の書庫よりも蔵書が多く、単純に雰囲気が気に入っていた。子供の頃は入り浸ることもよくあった。


 ふと、立ち上がって執務机の抽斗(ひきだし)を確認する。

 六年前に片付けたままの状態。帰るつもりもなく、粗方処分してから発ったので、ろくなものが入っていない。


「すまんが、紙を用意してもらえるか」

「かしこまりました」

「食べて終えてからな」


 すぐに飛び出して行きそうなプロトを先手を打って制す。

 少年は何かを頼むと喜ぶ。

 頼む方としては手間を増やして申し訳無いのだが。


「あとは時間があったら、カームの所に寄ってくる、かな……」

「そこは()()()()()と仰っらないと」


 少年に苦笑いを含んだ温かな視線を向けられた。

「女神様のご神託のお相手なのでしょう?」


 五大公も案外口が軽いらしい。


部屋イメージ図

挿絵(By みてみん)

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