■月星暦一五四二年十月大祭翌日④〈三者面談〉
宜しくお願いします。
「まずは婚約おめでとう」
二人を自分の前に座らせると、王は祝福を述べた。
「とはいえ、今はまだ口約束の段階だ。滞在中に書面にしてお渡しするつもりだが、その前にいくつか確認しておきたいことがある」
王の視線を受けて、レイナは神妙に頷く。
「ご存知と思うが、弟はタビスであり、我が国では非常に重要な存在として扱われる。貴女はタビスが何か、理解しているだろうか?」
「女神さまの不在を補う者、代弁者と言われる神官で、その方は生まれながらに証を持っていると伺っています」
「その解釈で正しい」
王は満足そうに頷いた。
「タビスの存在は非常に稀有な為、タビスが国を離れると女神の加護を失うと考える者も多いのだ」
五大公ですら、そんなことを口にする位だ。
私は気にしてないがなと、王は微笑する。
「だが、タビスが自ら貴女を選んだ。即ちその言葉は女神の言葉と解釈されるから、覆ることも無い」
ちらりとアトラスを見ながら、王は続ける。
「納得できる形をとる妥協点として、弟は国籍を動かさないまま、あなたの伴侶として送り出す。言葉は悪いが貸し出すという形を取らせてもらいたい」
「つまり、国籍さえ残しておけば離れていても月星のモノ、という言い訳がたつと言うことですか」
アトラスの言葉に王は頷く。
「国籍……」
レイナは、少し考え込む顔になった。
「通常我が国では、王の伴侶はその間一代限りの直轄領の領主という形を取り、その地の収入が伴侶の資産となります。ただ、我が国に国籍のない者は何人も土地の所有ができないという、決まりがございまして……」
何しろ前列が無い。
レイナは慎重に口を開く。
「例外が認められるのか、別の形を取れるのか、持ち帰って精査させてください」
王も無理を言っている自覚があるのだろう、了承する。
「もう一つ、弟は有事の際には可能な限り戻り、タビスとして尽力してもらうことになる」
「はい」
「そこで、連絡用に、竜と竜を使える者をこちらに置いてほしいのだが」
先程も話にあがったが、竜を使うアトラスは、かなり頑張ればだが一晩程度で戻ることは可能だろう。だが、要請が伝わる迄に何日もかかっていては意味がない。
「檻に入れたり鎖で繋いだりせずに自由にすること、戦いに使わないこと、竜の嫌がることは決してしないこと、させないこと、以上を守れば竜は力になってくれるでしょう」
レイナは意外にもすんなり受け入れた。
「滞在者にも、平時は陛下のお役に立ちますよう、申し付けておきましょう」
既に誰にするか決めているような口振りである。
「我が国の者は修練しても乗れないものなのかな?」
「騎乗は竜との契約です。資格の無い者は乗せてもらえません」
資格とは即ちアシェレスタであること。比較的王家に近い血を持つ者に限定される筈である。
「では、弟が乗れるのは何故だろう?」
「我が国の創国の物語には、竜の声を聴き、人との間を取り持ったアシエラという巫覡が出てきます。国の祖となった人物なのですが、彼女はユリウスから能力を授かり、竜と契約したと伝わっています」
レイナがアトラスを見やる。
「殿下は私と出会う前にユリウスと話したそうですから、その時に資格を得たのではないでしょうか」
思いの外と明確な答えがでてきて、アトラスは少々驚いていた。




