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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
三章 タビス帰還編
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■月星暦一五四二年十月②〈謁見結果〉

「驚いた……」


 月星王アウルムに挨拶に行ったレイナが、王城から戻ってきて、開口一番に漏らした感想だった。


 珍しく、興奮冷めやらない子供の様に、顔を蒸気させている。


 竜護星一行にあてがわれたアキマン邸の、離れの居間で待っていたアトラスが、想像通りの反応にくつくつ笑う。


 ニノ郭にある五大公と呼ばれる筆頭貴族の一人、アキマンの屋敷。

 通行証が必要な筈のその離れにて、先行して月星入りしたアトラスは当たり前の様に合流した。


 大祭のこの時期、神官が祈祷と祝福を述べて各家を廻るという行事がある。アトラスはそれに紛れてアキマン邸に入り込んだ。


 一部の神官は通行証を発行出来る立場にある。タビスの頼みを神殿が断わる筈は無かった。


「城は大きかっただろう?」


 竜護星の規模を標準だと思っていると、月星の城は、全てが馬鹿馬鹿しい程、巨大に映るはずだ。


 土台を支える石一つとっても、人間一人分ほどの高さがあり、その装飾たるや、華美を通り越して称賛に値する。


「そっちじゃないわよ。……ええ。勿論十分びっくりしたけれど」


 ふう……と、息をつくとレイナはアトラスの顔をまじまじと見つめた。


「アウルム様よ。あなたとそっくりなのだもの。とても……いえ、その、信じられない」


 レイナが言いかけて呑み込んだ言葉に、ハイネは気づいた様だ。

 アトラスには瞬間灯った目の表情で判ったが、レイナには素振りも見せずに流した。


 この件は、例え相手がレイナでも、漏らさず腹に秘めることをハイネは選んだらしい。


「……竜護星でアリアンナ王女がアトラスに会うなり言った訳だよね。『その顔を見間違える訳が無い』と。髪も瞳も全然色が違うのに、顔の造形や表情の作り方なんか似ているんだな。君が扮装しているのかと一瞬思ったくらいだ」

「そうか……」


 子供の時分に似ていた兄弟が成長して、全く違う顔になるのはよくあることだ。成人した現在も似ていると言われる意味を考えると、複雑だった。


「俺でも女神の加護を信じたくなるよ」


 アトラスは戯けた様につぶやくと、表情を改める。



「それで、どうだった?」

「あなたの話を避けて通れないからでしょうね。謁見の間からすぐに応接室に通されたわ。アウルム様はネウルス殿、アリアンナ、そしてヴァルムを除いて人払いをして下さった。こちらは私とハイネだけよ」


「ネウルス殿は、その場に君の姿が無いのが不満だった様だよ。そしてあまり魔物のことを理解していない感じだね。何かの比喩と思っているみたいだった」


「加えて、どうやら私は嫌われたわ。向けられる視線が怖いんだもの」


 さもありなんとアトラスは笑った。


「あいつは、あるべき場所にあるべきものが収まっていないと気がすまない性分なんだ。レイナは俺を六年も拘束したと感じていて気に食わないのだろう。おそらく、無断外出したアリアンナは相当怒られただろうし、これで俺が現れてみろ。今度は矛先がこっちに向けられるな」

「面倒くさい性格なんだね」


 だからこそ、アウルムの片腕として収まっていられるともいう。


 その融通のきかなさは外側から見れば、正真正銘月星の最後の盾ともなる。



「……怪しいかしら?」


「ある意味気苦労の塊だが、意思は強い。馬鹿正直にアウルムと月星の為にだけ動く様な男だから、それはないだろう」


 口は悪いが、その口調には信頼がある。


 レイナは王城でアウルムと話したことを要約して語った。 


 アウルムはアリアンナの報告以来、注意を払っていたということだが、これといった異変は感じられないということだった。



「そうか。まだ兆候は無い、と……」

「ええ。少なくとも、言動や態度に不審な点がある者は今のところ見当たらないそうよ」


 ハイネの時もぎりぎりまで判断がつかなかった。なにかきっかけが必要なのかも知れない。

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