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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
終章
373/374

■月星暦一六四四年四月〈天を支えた者〉

最終話です


『アトラス』

 アウルムが微笑んでいた。


『お父様』

『とーさま』

 マイヤが小さな男の子と手を繋いでいた。ウェスペルだ。


『お兄様』

 アリアンナが上品に顔を綻ばせる。


『『アトラス!』』

 ハイネとヴァルムが肩を組んで笑っている。


『アトラスさま』

『アトラス殿』

『アトラス様』

 微笑むアウラの横で控えめに呟くのはアリア。アウルムの妃だったネブラの姿もある。


『叔父上』

『伯父様』

 レクスとルネが手を振っている。

 そっと頭を下げるのはルネの妻のフェルサとレクスの妃のフィーネ。


『『『アトラス様!』』』

『『『『『アトラス様っ』』』』』

 ライとペルラ、ウパラが笑みを浮かべていた。ジル、カイ、サイ、ラウ、センリと、ファルタン一族の濃い面子も一緒だ。


『『アトラス様!』』

 サンクとハールがにこやかに手を繋いでいた。ストラの姿もある。


『『アトラス様』』

 モースとエブルが目を細めて頷いている。


『『『アトラス様』』』

 礼儀正しく頭を下げるのはアルムとセーリオ、そしてオネスト。


『隊長!』

『『『『隊長ぉっ!』』』』

 ガハハと大口を開けて笑うのはタウロ。

 弓月隊の隊員達やファルもいる。一緒に十六夜隊、新月隊の顔も見えた。


『アトラス殿下』

『『殿下!』』

 堅苦しく眉間に皺を寄せているのはネウルスだ。

 ウィルやノイが傍らで呆れている。


『アトラスさま』

『アトラス様ぁ』

 テネルが微笑んでいた。

 その横で、プロトが忙しなく頭を下げる。


『アトラス様』

 ふわりと微笑を浮かべるのはメモリアか。


『『『『『殿下』』』』』

 五大公が欠けることなく、全員揃うのは珍しくないか?



『レオン』

『『レオンディール』』

 イディールとライネスが一緒にいた。

 もう一人、知らない女性がいる。見たことがある気もする。誰だろうか。





「アトラス!」


 急激に鮮明になった視界の中、サクヤが心配そうに覗き込んでいた。


 紫紺宮の中庭で、サクヤと二人ベンチに座っていた。


 丁度百年前の今日、レイナと婚礼式を挙げたのだという話を、さっきまでしていたのは覚えている。


「俺は、寝ていたのか?」

「一瞬だけどね」


 頷くサクヤの、榛色の瞳が揺れた。


「夢を見たんだ。懐かしい人達が沢山いた……」


 長い年月の中、去って逝った愛しい人ばかり。


「みんな、笑っていた。ユリウスとレイナはいなかった。当然だな。お前はここに居る」


 アトラスの指先がサクヤの頬に触れた。零れ伝う涙を拭う。


「何を泣いているんだ?」

「いいえ」


 微笑むサクヤの細めた目から、また涙が零れ落ちた。


「お前は何歳いくつになっても美しいな」

「いやだわ。もうこんなおばあちゃんなのに」


 細めるサクヤの目尻には笑い皺が刻まれていた。

 共に歩んできた時間の証である。


 暖かな日差しが顔に触れる。

 乾いた風に、アーモンドの花が舞っていた。


 竜護星の湿り気のある空気も悪くなかったが、やはり自分はこの風の中で生きてきたのだとアトラスは思う。


「……俺、頑張ったよな?」

「ええ。もちろん。みんなあなたに支えられて来ました」

「なら良い……ありがとう」

「アトラス?」

「少し、休む……」


 アトラスは頭を、寄り添うサクヤの肩にもたれかけた。


「愛している。アストレア……」


 無意識に、零れ落ちた言葉。


「私も! 愛しています。アトラス!」


 沈みゆく意識の中、サクヤの声が、遠くに聞こえた気がした。




 閉じた瞼は、もう開かない。



 ※※※


 月星暦一六四四年四月。


 激動の時代に生まれ落ち、

 戦乱に終止符を打ち、

 人ならざる者の愛に翻弄され、

 盟約に縛られたその魂を開放し、

 お伽話を終わらせた一人の英雄が

 

 最愛の女性に看取られて息を引き取った。


 王子として生まれ、

 タビスとして敬われ、

 王配として伴侶を支え、

 夫として妻を愛し、

 父親として娘を見守り、

 叔父として甥の盾となり、

 宰相として息子を導いた男の名は、

 アトラス・ウル・ボレアデス・アンブル。

 生誕時の名は

 レオンディール・ジェイド・ボレアデス。



 享年百二十四歳。


 彼は最後のタビスと呼ばれた、ただの人間の男である。


「タビスー女神の刻印を持つ者ー」

 ー完ー


———————————————————

長いお話を、ご愛読ありがとうございます。

あとがきが次頁にあります。長くなったので別枠にしました。

挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございます

気軽にコメントやアクションなど頂けたら嬉しいです


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