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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十六章 紡がれた想い
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■月星暦一六〇五年九月〈月と空と大地と海と〉

挿絵(By みてみん)

セーラ&クルム


 月星暦一六〇五年九月(翌年)

 レクス王の喪が明けた、初秋。月星は新しい王()の誕生に沸き立った。


 戴冠式と同時に婚礼を挙げた二人の名は、セーラ・ウェヌス・ボレアデスと、クレプスクルム・ベリル・ボレアデス。


 アトラスの息子クルムが、王の娘を娶って、王となった。

 (レクス)の娘のセーラが、最後のタビス(アトラス)の息子を王配として、女王となった。


 どちらが正しいのかは、この際どちらでも良い。

 セーラに言わせれば前者であり、クルムに言わせれば後者であるというだけのことだ。


 かくして誕生した、月の髪に(青灰色)の瞳を持つ(クルム)と、大地(栗色)の髪と碧い海の瞳の女王(セーラ)は、月星初の共同君主として、連名で名を残すことになる。


 半人前の自分達は二人で一人前なのだと、二人で担っていくのだと宣言した。


 伴い、宰相を辞したオネスト・ネイトに代わって、その任に就いたのは、アトラスその人だった。


 アトラスが宰相をしてくれなければ、王位継承承諾の署名をしないと、ごねた新王二人に押し切られた形である。

 

 二人の後見として、支えるつもりではあったアトラスだが、さすがに『宰相』は想定外だった。


「俺みたいのが、いつまでもいちゃ、老害だろう」


 ぼやきながらも、官達にも懇願され、結局引き受けたアトラスに、()であるサクヤは苦笑した。


「まあ、アトラスは、断れないよねぇ」

 


 サクヤは王立美術館の館長をダフネに譲り、アトラスの補佐についた。

 正確にはセーラの補佐、なのかも知れない。

 女性の身で王位につく厄介さを、()()()は多少なりとも()()()いる。



 元王妃——王太后フィーネは、アトラス、サクヤ夫妻とクルムに娘セーラを託し、アンバルを去った。

 

 元々、王室の水が合わなかったのだろう。

「憑きものが落ちたような顔をしていました」というのは、見送ったセーラの言葉である。



 祝いに駆けつけた、各国の代表の中には、当然、竜護星国主マイヤの姿もあった。


 祝福の挨拶に対面した際に、「月星は、暫く安泰でございますね」と述べたのは、マイヤ自身の意見なのか、『巫覡』としての予言であったのか。


 マイヤは、一組の夫婦を同行させていた。シモンとアミタである。

 フェルン領主フェルター夫妻は、息子()の門出を、涙ながらに喜んでいた。


 セーラもまた、クルムの養父母に祝福され、祝われる夫のことを共に喜んだ。


 父母からの愛が薄かった彼女としては、思うところもあっただろうが、この一年でセーラも随分変わった。

 卑屈になりがちな思考は影を潜め、良い意味でクルムの影響を受け始めている。



 宰相としてアトラスが、新米の王二人に先ずさせたのは、国内外を問わず、『視察』であった。


 「月星(なか)のことは、任せておけ」と請負い、「とにかく世界を見て来い」と送り出した。


 友好国の海風星、竜護星、朱磐星、蒼樹星を始め、多くの国々を、公私問わずに、二人は飛び回った。


 その手には、月星から始まり、各国に広まった観光情報誌ガイドブックがある。


「ホントは自分で、あちこち連れ回したかったくせに」

「俺はもう、充分見たさ」


 行く先々では、アトラスが長い道程で紡いできた様々な縁が、二人を導くだろう。


 それは、大海原で船を操る大貴族かも知れない。

 竜を空を翔ける一族かも知れない。 

 今は役目を終えた、刻印を探す為に派遣されていた一派かも知れない。

 また、情報誌(ガイドブック)をきっかけに、色々な側面を見ることになるかも知れない。


「片や、田舎の何もない小さな島で育ち、片や、全ては揃うが完結した狭い箱庭()しか知らなかった二人は、大海(世界)に出て、何を見るのだろうな」


「そんなの、決まっているでしょう」


 サクヤほ榛色の瞳を綻ばせて、断言した。


「『(未来)』を見るのよ」



 希代のタビスと言われ、人に非ざる者の思惑に翻弄され続けた男は、残りの生涯を、その伴侶と供に、二人の王の宰相として彼らを支えた。


 その名のままに、()を支え続けた。



十六章「紡がれた想い」完

お読みいただきありがとうございます

気軽にコメントやアクションなど頂けたら嬉しいです

—————————————————

次話、とうとう最終話「天を支えた男」です。

宜しくお願いします!


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