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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
二章 王女来訪編
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■月星暦一五四二年七月④〈年齢〉

「どうしたんだ、ハイネは?」


 ハイネが出ていった扉を見ながら、アトラスが戸惑い気味に尋ねる。


「最近、機嫌が悪いのよね」


 レイナがぼやくと、モ―スも肩をすくめた。


 旅に出るまでの半年間、アトラスはハイネに剣の稽古をつけていた。大分うち解けたように思っていたのは気のせいだったのか。


「ところで、どうしてこのタイミングで王女は来たのかしら?」


 その答えはアトラスが持っていた。


「俺は探し物があったと言っただろう?ここの書庫を漁ったが、目ぼしい資料は見つけることが出来なくてな。更に情報を得ようとするなら、思い当たる場所は一つしかなかったんだよ」

「月星首都アンバルには、蔵書数世界一を誇る図書館がありましたな」


 モ―スはいつも正しい場所で正しい指摘をする。


「もしかして、堂々と首都の街門を潜ったの?」


 レイナが呆れた顔をすると、アトラスはニヤリと笑った。


「知るべき者しか知らない通路ってやつは、どこの国にもあるものだろう?」


 要するに不法侵入だ。


 だが、無断で国を出た身としては、さすがに正面から入る訳にもいかない。街門を通るには訪問目的を告げ、身分を検めなければならないからだ。


「それで、探し物は図書館で見つかったのね?」

「まあ、良い線かな」


 アトラスはもったいぶってみせた。


 図書館は街人にも公開されている。

 しかし、竜護星の蔵書で見つからなかったものが一般向けの開架図書にあるはずは無い。閉架図書の閲覧には館長の承諾が要る。


「図書館には昔よく通ったんでな。館長とは顔見知りなんだ。名乗らなかったんだが、顔を見せると面倒な手続きなしで閲覧はさせてくれたよ」


「……その方はよくお分かりになりましたな」


 どういう事かと、レイナは首をかしげる。


「六年振りでございましょう?」


 モ―スは補足するが、レイナはまだ分からない。アトラスは苦笑して助け船をだしてやる。


「お前とはずっと顔を付き合わせていたから変わった様には見えんだろうが、六年前といったら俺もまだ、十代の少年だったということさ」

「なるほど……って、ええ? アトラスって、今、何歳なの?」

「五月に二十二歳になった」

「はい……?」


 レイナが絶句する。


「私は、たった四歳しか違わない人に保護者顔されていたの?」

「俺はこれでも十二歳で一人前扱いされていたんだから、いいだろう」

「確か初陣が十一歳でしたか」

「……ほっんとに、モ―スは何でも知ってるな。そうだよ。十一歳で初陣、十二歳で隊長に就任させられて、終戦が十五歳で出奔が十六歳!」


 アトラスはため息をついた。

 つくづく自分の事を話すのは難しい。


「……館長のリベルは、兄と間違えたみたいだから、そう思わせておいた」


 なるほどと、したり顔でうなずいたのはモ―ス。レイナの顔は再び驚きで満たされる。


「お兄さんがいるの?」

「まあな」


 実は、勘違いをした館長がアトラスを見るなり、叩頭でもしそうな勢いで頭を下げてきたのは内緒である。


 レイナは好奇心の塊の様な、きらきらとした眼差しをしている。

 また話が逸れるので、気づかない振りをして続けた。


「俺の調べものだが、いずれ月星も無関係でいられなくなるのが分かっていたから、後で兄に渡るよう資料の一部をリベルに預けたんだ。わざわざ自分の存在を報せる事になるが、無視はできなくてな。ただ、アリアンナが来たのは想定外。それに、来るとしても、もう少し猶予があると思っていた」

「……その調べものは何だったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 四つの瞳がアトラスに問いかける。


 アトラスは暫し押し黙り、やがて首を振った。


「時が来たら説明する」


 魔物の潜伏先が分からない現在、まだ、言うべきではない。


お読みいただきありがとうございます

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