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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十六章 紡がれた想い
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■月星暦一六〇四年八月⑨〈双子〉

 王女達と別れると、アトラスはクルムを連れて宰相オネスト・ネイトのところに行った。


 側付きの従者から始まり、ずっとレクスを傍らで見守っていたオネストは、クルムを見て「レクス様の若い頃を思い出します」と涙ぐんだ。


 アトラスは、マイヤに書かせたクルムの出生証明書を提示し、月星に於いても、クルムがアトラスとサクヤの息子であることを、認めさせた。


「クレプスクルム・ベリル・ボレアデス殿下。月星にようこそ」

「で、殿下ぁ?」

「クルム様は、王子殿下で、いらっしゃいますからね」


 オネストに王子と呼ばれたクルムは、固まっていた。

 月星では、王子の息子は王子なのである。


「オネストは、王が代わっても、宰相を続けてくれるのか?」

「私はレクス様と生きてきましたから、引き継ぎが終われば引退しますよ」


 オネストは、理解されにくかった、レクスの葛藤を知る、数少ない人物である。


「オネスト。今まで甥を支えてくれて、礼を言う」

「結局、お諌めすることも叶わず、不甲斐ないばかりです」


 アトラスがクルムを連れてきた意味に、オネストは気付いているのだろう。


「この先の月星のことを、どうぞお願いいたします」


 オネストは二人に深々と頭を下げてきた。


  ※※※


「クルム、疲れたろう? しばらく休んでいろ」


 アトラスはクルムを労って紫紺宮に戻らせた。

 そろそろ、サクヤとバンリが到着している頃だろう。



 見送って、アトラスは再び大神殿に向かった。


 大神官の居室にて、葬儀の段取り等の擦り合わせをした。

 大神官は、前王アウルムの時に司祭を務めたプロトから代替わりしている為、詳細まで把握しているアトラスに、確認をしたかったらしい。


 大神官の居室を辞するの見計らって、神官が声をかけてきた。


「お客様がお待ちしています」


 案内された、神殿の談話室で待っていたのは一組の同じ顔。

 双子である二人を、アトラスはよく知っていた。

 マイヤの息子達である。


「お祖父様」


 先ず、口を開いたのは兄のメルク・リウス・アシェレスタ。 

 竜護星の次期国主となることが決まっており、すでに、国務の半分はマイヤと分担して行っている。


「お祖父様、ご無沙汰しております。この度は、お悔やみ申し上げます」


 些か畏まった風に話すのは、弟のメギス・トリス・デイオス。

 竜護星の隣国、朱磐星の国主をしている。


 マイアの夫にして、彼らの父であるテュール・デイオスは当時の朱磐星の三男だった。


 マイアの王配として竜護星に婿入りしていたが、二人の兄が流行病で相次いで死去した為、想定外にお鉢が回ってきた。

 その流れで、メギスが次の王となったため、デイオス姓を名乗っている。


 どこの国も、後継者には苦労している。

 創始者の血族を王とする機構システムが限界を迎えているということだろう。

 二人にも、それぞれ息子と娘たちがいる。とりあえず竜護星と朱磐星は後継者に不安は無い。


「先程、我らの小さな叔父上に会いましたよ」

「お祖父様、僕らのことを話していなかったのですか? 目を白黒させて驚かれました」


 マイアと良く似た、二組の海色マリンブルーの瞳がアトラスを見ていた。


「あの子は今は、自分のことでいっぱいいっぱいだろうから、勘弁してやってくれ」


「同情しますね。この雰囲気の月星に、いきなり放り込んだんですか?」


「お祖父様も人が悪い。大方、ご自分の立場を、ちゃんとお話してなかったのでしょう?」


 メルクが呆れた声を出せば、メギスも苦笑する。


 アトラスはその特殊な経歴故、自身のことを伝えるのを、面倒くさがるきらいがある。


「わざわざ説明しなくても、案外知ってるものかと思っていたんだがな」


 一応、レクス()の叔父だとは五年前に話してある。マイヤの父であることも了承済みだが、双子の甥の話は……していなかったかも知れない。


「ご自分の息子でしょうに」


 祖父と孫の関係にある三人だが、見た目が同世代のせいか、割と砕けた口調になる。(※)


「まあ、くれぐれも『仲良く』してやってくれ。お前達とは、それぞれ深い縁となるだろう」


「やはり、そういう話に?」

「おい、メルク!」

「今更だろう、メギス。母上マイヤは勿論、そう読んでいる者は多い」


 別々の国で暮らすようになって二十年以上になるが、相変わらず仲が良い兄弟である。


「俺の立場では、まだ明言は出来んよ」


「そりゃあ、そうですよね」

「失礼しました」


 苦笑気味のアトラスに、メルクもメギス、含む顔で同意を示した。


「ともあれ、二人ともよく来てくれた。感謝するよ。今日はよく休んでくれ」


 訃報を聞き、葬儀に間に合う様に訪問できる者は、僅かと言っていい。


 距離と時間の問題で、大抵は葬儀後の弔問となる。


 竜を翔るアシェレスタの血を引く二人にしても、相当無茶な行程で訪れたことは、アトラス自身が身を持って知っている。


「お祖父様も、ご無理はなさらず」

「失礼します」


 疲れを感じせない足取りで、二人とも辞していった。


 マイヤの息子達は、若い二人の心強い友人になるだろう。

 頼もしさを感じながら、アトラスは孫たちの背中を見送った。



お読みいただきありがとうございます

気軽にコメントやアクションなど頂けたら嬉しいです

————————————————————

【小噺】

ベリル:六柱石の総称です。緑が入ればエメラルド。水色が入ればアクアマリン。ピンクが入ればモルガナイトと、何色にもなれる石という意味でアトラスが名付けました


※アトラスの刻が動き出すのに、五年程にタイムラグがありました。サクヤや双子との見た目年齢差は五歳程度です。

二人にはすでに後継者がいるということは、アトラスさん、曽祖父ちゃんでした(^_^;)

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