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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十六章 紡がれた想い
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閑話▶月星暦一五九九年九月〈アトラス独白① 嘘〉

●アトラス独白


「なんとかしよう」なんて、シモンに言ってみたものの、何をどこまでどう言えって言うんだ?


 クルムの一番の疑問はこれだよな。


『僕は、サクヤさんとアトラスさまの子か?』というやつ。

 これには是《yes》と答えられる。


 問題は次だ。

 続くだろう問いはこれだろう。


『なんで黙っていたのですか?』

 あるいは、

『なんで、父さん(シモン)達の子として育てられたのですか?』だ。


 答えは同じだ。

 そして理由は詳しくは教えられない。


『実は俺、月星の王子でな。下手すると後継者争いを引き起こすから、お前のことは隠しておきたかったんだ』


 嘘では無い。


 シモンとアミタはこれで納得してくれた。


 クルムは一応次期領主として育てられているが、まず王室が解らない。そして、月星が解らない。


 元タビスで王の叔父、肩書きは王子。俺の微妙な立場も説明しづらい。


 そして、『後継者争いを引き起こすどころか、当事者になってはいけないから』が正解だ。


 その理由は、クルムにも誰にも言えない。マイヤにさえ言っていない。

 俺の生まれに抵触してしまうからだ。


 アンブルの子孫では無い俺には、そもそも権利《王位継承権》が無いのに、《《ある》》ことになっていた。


 アセルスによって書類上はちゃんと、『アセルスの息子』になっているからだ。


 アウルムは知っていたのに、なかなか放棄を認めてくれなかった。


 ジェイドの血筋であることを世間に知られずに、穏便にやっと放棄した権利だが、王子の息子は王子だ。


 王籍からの離脱は許されなかった為、俺の子には権利が発生してしまう。


 非嫡出子には権利は生まれない為、サクヤと籍を入れなかった。


『サクヤと籍は入れてるのか?』

 あー、これ、クルムに聞かれたら、厄介だな。

 うまく答えられる自信が無い。


 サクヤと籍を入れていない以上、クルムには権利は発生していない。

 だが、油断は出来ない。


 レクスの子が王女だったから、俺の復権を求める声も上がっていると聞く。


 ここでクルムの存在が知られてみろ。


 サクヤの入籍を求めてくるな。レクスが認めてしまえば、王の承認で通ってしまう。


 竜護星のサクヤ側の戸籍には、クルムがサクヤの子であること、夫が俺であることは記載されている。

 当然、照らし合わされるだろう。


 入籍前の子の父親が俺とは限らないだろうと、仮に言っても無駄だ。

 クルムが俺の息子でないと疑う者が、むしろいないだろうよ。あの子の顔は俺によく似ている。



 歳も聞かれるかなぁ?


『ちょっと父さん、人外と知り合いでさ。そいつの所為で歳止められてたんだよね。実はもう八十歳目の前なんだよ』


 言えるか! 


『子どもだからって馬鹿にしているでしょう』と言われるのがオチだ。


 ユリウスのことは伏せるに限る。

 歳のことは、まだ、女神の奇跡の方が説得力がある気がするが、自分の口からは言いたくない。

 そんな、あからさまな嘘を自ら口にしたくはない。


 まあ、嘘ばかりの俺が、今更どの口がって感じだけどな。


 ユリウスのことを伏せるなら、サクヤがレイナってことも伏せなきゃならんが、まあ、そこはなんとかなるだろう。


 レイナとは死別だ。

 世の中、再婚する男は少なくない。長い人生、再び愛せる女性に出会った。それだけだ。


 問題は、やっぱりサクヤと籍を入れてないことだよな。結局ここに行きつくんだよな。

 子どもはこういうとこ、気にするんだろう?


 これで納得してくれるならいいが、クルムは聡い子だ。絶対その先も考える。



 くっそ。

 俺の人生、ホント嘘に塗れてんな。


   ※※※


 気づいたら紫紺宮の露台バルコニーの上だった。

 シモンと別れてから、夜中休みなしで翔け抜けてきてしまったらしい。


 竜を労って帰した。


 竜が去ったとたん、冷え冷えとした朝の空気がより身に沁みた。

 やはり竜は、騎乗者を外気から護ってくれているのだろう。

 

 暁の空には、沈もうとする丸い月が残っていた。


 月の大祭もひと月後。今年は四年に一度の『タビス役』の年だ。

 そろそろプロトとも打ち合わせをしなきゃならん。


 離宮に入ると、既に身形を整えたサンクが、暖炉に火を入れてくれていた。


「おはよう。早いな」

「年寄りの朝は、早いのでございますよ」


 サンクももう七十歳を過ぎた。

 離島の館から紫紺宮に拠点を移してもついてきてくれたが、年齢的に色々きつくなっているのではないかと、こちらの方が心配になる。


 

「そのご様子ですと、休みなしで翔けてこられましたね」


 付き合いも長い。

 一目で言い当てられた。


「考えごとをしてたら、着いてしまっていた」


 暖炉に近寄り、手をかざした。じんわりと、かじかんだ指先がほどけてくる。


「お風呂のご用意をします。温まったら、少しお休みください」

 外套を受け取り、サンクは退出していった。


 実際疲れていた。

 湯船に浸かって、強張った身体をほぐし、寝台に横になると、すぐに眠気に襲われ、意識を手放した。



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