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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
間章
341/374

閑話▶月星暦一五九二年九月〈再始動〉

挿絵(By みてみん)

□サクヤ


 月星暦一五九一年九月。

 月星初の王立美術館の開館を、翌週に控えていた。

 紫紺宮の一室で、開館式に出席するために、サクヤは出来てきた衣装を試着していた。


 イディールのペンダントは、金具の部分が劣化していた為、修理ついでに多少、改修リフォームした。

 大元の形は変えずに、サクヤの細めの首のサイズに合わせて、チョーカー状に加工されている。


 勿論、イディールの許可は得ている。


「ちょっと古臭い意匠デザインですものね。好きにしていいわよ!」


 問い合わせると、返答はあっさりしたものだった。


 翠玉エメラルドの色に合わせて、衣装ドレスも深い緑の布で仕立てた。

 月星ーー特にアンバル界隈で濃い緑色は、なんとなく忌避タブー扱いになっていた。

 アウルムの長年の想いも汲み、下らない習慣を壊す意味も込めて、敢えて選んだ。


 ハールもアトラスも、口を揃えて褒めてくれた。

 あまりそういうことを口にしないサンクまでもが、「落ち着いた色合いで、よくお似合いです」などというものだから、なんだかこそばゆい。


 ふとハールが、アトラスを見やって、声をかけた。


「アトラス様、そろそろ散髪をいたしましょうか。襟足、少し、煩わしくはありませんか?」 


 アトラスも式典にはサクヤの『伴侶パートナー』として出席する。敷居後は美術館内の喫茶スペースで、簡単な交流会レセプションが開かれる為である。


 ハールの言葉は、流れでごく自然に出てきたものに聞こえた。


「言われてみれば……」


 応えたアトラスが、驚きの表情でハールを見つめた。


「えっ……?」

「あらっ……!?」

「アトラス様?」


 サンクも、目を見開いてアトラスに顔を向けた。


 アトラスは自分の髪を触れた手をまじまじと見つめた。


「そういえば、俺、昨日、爪を切ったわ。まだ、半年()()経ってないのに……」

「まあ!」


 ハールが手を口にやり、驚きを露わにした。

 

「アトラス様! よかったですね。本当に、よかったですねぇ!!」


 サンクがアトラスに飛びつく勢いで、彼の両手を握った。


「はは……。そうか。やっと……。はははっ……」


 アトラスが笑い出した。

 泣き笑いに近かった。眦に涙が浮かんでいる。

 サンクもハールも、もらい泣きをしていた。


「……どういう、こと?」


 やり取りを見守っていたサクヤは、首を傾げる。

 一人、話題についていけていない。


「サクヤ! とうとうだ」


 アトラスが感極まったらしき笑みを浮かべて、サクヤに抱きついてきた。


「アトラス?」


 戸惑うばかりのサクヤに、ハールが涙を拭いながら説明してくれた。


「サクヤさま。アトラス様が前に散髪したのって、二年位前なのですよ」


 通常散髪は、維持目的なら二、三ヶ月に一度は行うものである。


「二年も前?」


 その異常さが、やっとサクヤも頭に入ってきた。


「その前は、ずっと三、四年に一度だったのです」

「そんな頻度?」

「爪切りは、年に一回位だったそうですよ」


 サンクも笑顔で補足する。


 アトラスたちが驚き、喜んでいる意味が、やっとサクヤにも理解できた。


「アトラス!」

「誤差はあったが、やっと人並みに生きていける」


 アトラスが、ユリウスと決別して、そろそろ五年が経とうとしている。


 体内の、ユリウスの残滓が消えたら、時を刻み始める。セレスにはそう告げられたと、アトラスから聞いていた。


「よかったね。やっと、本当に、一緒に歩めるんだね」

 

 サクヤは、万感の思いを込めて、アトラスを抱きしめた。目頭が熱くなる。


「ああ……」


 言葉少なに頷くアトラスは、心底安堵に満ちた顔をしていた。


キス一つ(?)で五年(^_^;)

まあ、サクヤとの年齢差も五歳位になって、丁度よかったのではないでしょうか 笑


次は、終章となる十六章「紡がれた想い」。

月星暦一五九九年から始まります。

(その前に、一話使って、ここ迄の年表『章と連携版』入れときました)

宜しくお願いします!

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