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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
間章
339/374

◯月星暦一五八六年十二月〜〈観光情報誌〉


 アトラスが発案し、モネに作らせていた観光情報誌ガイドブック制作は、フィリアの案も取り入れられ、完成を見た。


 第一弾、月星第二の都市『テルメ版』は、大成功と言って良いだろう。


 街の外から来る客向けに作ったものだが、案外、人は自分の行動範囲のこと以外は知らないものである。テルメに住む人間からの需要もあり、すぐに増刷がかかった。

 そうかからずに初期費用等コストは回収され、第二弾『アンバル版』を作成する目処もついた。



 基本情報を盛り込んだ『本誌』に、季刊で最新情報や特集を組んだ『季刊誌』を刊行する形を取った。


 情報は生モノである。

 特に『季刊誌』は速さが物を言う。

 秋の新作スイーツ特集が、出た時には冬だったりしたら目も当てられない。


 アトラスは、一出版部門から観光情報専門の一出版社として独立させることで、手早く刊行できる形にした。

 この分野は、以降も需要があり、充分独立しても回せると踏んだ。

 代表兼編集長はモネである。


 フィリアの他にも、彼女の様に自由に動ける人材が集まったと言うのも、独立させられた理由の一つである。


 情報誌が発売されると、自分も携わってみたい、どこどこの街なら詳しいが作る予定は無いのかなど、想像を超える数の問い合わせがあった。



 フィリアはアンバルに居を構えた。

 治安がよく、女性が一人でも住める貸家を見つけるまでの極短い間だけ、ブライトの屋敷に厄介になっていた。

 ハルス商会の伝手もあり、案外簡単に住処は見つかったそうだ。


うち(屋敷)にいても構わないのに」と言うモネの言葉に、そこは商会の娘だけあって、フィリアがしっかりしていた。


「ブライトの御屋敷は大きいですし、とても居心地はが良いのですが、わたしがお言葉に甘えてしまったら、なぜ、フィリアだけ贔屓にと、周りは見ます。さすがに従業員全部を、と言うわけには行かないでしょう? それよりも、従業員用の寮か、アンバルは物価が高いので、住宅手当などを考えて頂けると助かります」


 

 この顛末を聞いたアトラスは、経理や雑務を回せる人間を手配した。


『代表』と言う肩書はそのままに、モネには『編集』に集中してもらう為、と説明した。


「些事に気を取られて、編集の仕事に障るのは、モネのしたいことじゃないだろう?」


 実質、モネの能力値の下降修正だが、アトラスはそれを悟らせない。

 自分を基準にして見誤った、アトラスの落ち度である。



 フィリアと言えば、街門の検問官に想いを寄せている、と言う話を、テルメでモネとサクヤにしていた。


 モネの父、ルネは城の高官である。

 その伝手で、くだんの男性と会うきっかけを作るとモネは請け負った。


 フィリアとしては、「ちょっと、話が出来るきっかけ作って欲しい」くらいの気軽さで、頼んだつもりだっただろう。

 モネにしても「知り合いのお嬢さん(フィリア)がちょっとお話してみたいんですって」くらいの気軽さで、ルネに取りはからって貰うよう、頼んだ筈だった。


 しかし、相手にしてみれば、()()()ブライト家からの『お声がけ』である。

 つまり、『ハルス商会のお嬢さんとのお見合い』と判断されてしまった。


 フィリアが約束をした場所に、()()()()()()()をして待っていたら、()()を纏った殿方(検問官)が、大きな薔薇の花束を持って現れるという事態になった。


 これには、フィリアも大層、面食らったという。


 多少の齟齬はあったものの、相手もフィリアのことを知っていた。


 フィリアは、イディール似であり、彼女程の圧は無くとも、なかなか目を引く女性である。

検問官の男の方も「あの可愛い娘は、次はいつ来るのかと、密かに心待ちにしていた」と言うこともあって、二人の仲は、すぐに『お付き合い』に発展した。


 

 アンバルの街で暮らすようになったフィリアは、食費の大部分を経費で浮かせた。


 お店に、情報誌への使用を交渉し、お店のおすすめ料理や拘りなどを聞き出す。

 お店の雰囲気や接客態度、料理の味(食レポ)等を報告書にまとめ、領収書と共に持ってくるのだから、ちゃっかりしている。


 さすがにフルコースなどは請求してこないが、常識の範囲内で、検問官の彼氏とのデートすら、時にはシェアして二人分の食事をレポートに纏めて、経費で楽しんでくる。


 出版社の従業員は、情報誌に載せるに値する、食事や店等があれば積極的に身を持って体験し、生の声を聞かせろと言ってあった。

 外で費やされる時間の、どこまでが休憩時間でどこまでが仕事(取材)と言えるのか。


 線引きが難しい為、ひと月あたりの上限はあるものの、経費という形で補っているようなものである。


 実際に掲載された場合は、上乗せがあるという仕組みを取った為、質の良い情報のみが、集まるようになった。


 フィリアは、このお店はこのお値段でこれだけのものが味わえる。このお店の何々だけは絶品。このお店は雰囲気が良く、料理も目の付け所はないが、従業員の質が微妙……等、赤裸々に報告してくる。


 どれも着眼点が良く、結果を残していた。


 特に、良いものを見つける嗅覚が、優れているようだった。

 フィリアが探し出してきたものには、外れがないと、内部でも評判であり、なかなか有能な人材となった。


   ※※※


 巻数を重ね、手に取る人間が増えると、月星だけでなく海外にも観光情報誌の存在は広まり、真似をする国や都市も現れ始めた。


 アトラスとしては、大歓迎である。

 各地で情報誌が出版される度に、手元に届けさせた


 アトラスの刻印消失(タビスが居なくなった)ということもあり、伴い、『タビスの〜』シリーズは廃刊になった。

 元々は、他国の食や技術の紹介をする冊子だったシリーズである。

 現場が自ら発信してくれるのであれば、越したことはない。



 情報誌編集のコツを教えてほしい等、研修に訪れたいという依頼には、積極的に応えるようにした。

「こんな事柄が書かれていると、喜ばれるかも知れませんね」

 などと、助言をしたりもする。


 その都市の情報を、行く前から把握出来るというのは、情報誌の醍醐味である。


 速さが勝負の『季刊誌』は、モネの裁量に一任したが、新たな『本誌』の出版には、必ずアトラスが目を通した。


 大半の人間には、文字通り観光を楽しむ為の情報として、活用する書物だろう。


 だが、記載情報に、字面以上の価値を見出す者もいるということだ。


 例えばアトラスの様に……。





お読みいただきありがとうございます

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