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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十五章 女神降臨
331/374

□月星暦一五八六年十一月①〈白い砂漠〉


□サクヤ


 月星首都アンバルの東、砂と礫ばかりの赤い大地の先に、横たわる白い砂漠。


 『神が坐わす場所』『神が降り立つ場所』とされ、神域と呼ばれている。

 不用意に近付くと気が狂い、それは『神の祟り』と言われている。


 アトラスがユリウスと初めて遭った場所である。



 竜は砂の一粒にすら触れたくないかのように、この上空は避けて翔ぶ。


『祟り』の正体は神域を取り囲む禁域と呼ばれる領域を覆う、大量の『魔物』である。


 現在はアトラスの手にあるユリウス(カタルシス)の剣の、残滓に引き寄せられている魔物も、残滓が消えれば好物の負の感情を求めて人里を目指すだろう。


『残滓が消えるまでに事を成せ』と、ユリウスは、ここにも制限時間を設けていたということだ。


 砂漠の境界で竜を降りたアトラスとサクヤは、白い砂を噛んで中心部に向かって歩みを進めた。


 竜を降りた時には、茜色に染まっていた空も薄闇に覆われ、冴え冴えとした満月が顔をのぞかせていた。


 白い砂に、青白い光が二人の影を伸ばす。


 神秘的で美しいが、生き物の気配が乏しく恐ろしくもある。


 人がこの場所に『神への畏怖』を覚えるのも解る気がした。



 やがて、サクヤは足を止めた。


「アトラス」


 サクヤは、少し先を行く背中を呼び止めた。


「わたしはこれ以上、行けないみたい」

 

 アトラスとサクヤの間を、隔てるものは何も見えない。

 手を伸ばしても掴めるものは無い。

 だが、サクヤはどうしても足が動かなかった。


 たった数歩という僅かな間に、見えない壁のように二人を隔てる『何か』があった。


 もし、それが視認できるのであれば、半球ドーム状に無数に覆い尽くしている『モノ』を確認できるのだろう。


 振り返ったアトラスは、サクヤが越えられない数歩の距離を、易々と詰めて戻ってきた。

 サクヤの手を取り、更に数歩戻る。


「竜が呼べる場所迄戻って、待っていてくれ」

「でも……」

「この辺りでも、長居すると気分が悪くなるかも知れない。竜とともに居れば、野生動物も近寄っては来ない」


 入れないのは、サクヤも最初から解っていた。

 アトラスは街で待っていろと言ったが、少しでも側にいたくて、ついてきたのだ。

 アトラスの心配事を増やすのは本意ではない。

 サクヤは了承した。


 握る手の震えはどちらのものだろうか。


「なあ、サクヤ。もし俺が、年齢通りの爺さんになっても、一緒に居てくれるか?」

「当たり前でしょう。どんな姿でも、あなたはあなただわ」


 即答するサクヤに、アトラスは驚いた顔を向けて「凄いな」と呟いた。


「俺はその一言が言えなくて、随分悩んだのに」


 サクヤは返事の代わりに、アトラスをぎゅっと抱きしめた。アトラスの方からも背中に腕が回される。


「しっかりお別れをしてきなさい」

「ああ。行ってくる」


 アトラスは頷くと、背を向けて歩みだした。


 サクヤが足を止めた場所も、難なく通り過ぎていく。

 足取りに、躊躇いはない。


「必ず、帰って来てね」


 次第に小さくなっていく背中が視認できなくなるまで見送って、サクヤは踵を返した。


【禁域図解】

挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございます

※この世界ではクルムは飲酒可能年齢です

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