◯月星暦一五八六年十月④〈奉納舞〉
従者は語った。
「いつもに増して静謐でした」
大神官は涙ぐんだ。
「今回は特別に清淑に思えました」
兄は気づいた。
「女神への眼差しに覚悟を見た」
妹は首を傾げた。
「やけに典麗でしたわ」
義弟は不安気だった。
「痛いほどに張り詰めて見えたんだ」
甥は口角を上げた。
「なんだか、楽しそうでしたね?」
甥嫁は実感した。
「静粛でしたわ」
国王は表情を変えなかった。
「いつも通りだ」
王妃は呟いた。
「見事です」
又甥は興奮した。
「すごく研ぎ澄まされていた様に見えました」
又甥は感激した。
「もはや、芸術の域です」
娘は溜息をついた。
「実に父らしいです」
孫は息を呑んだ。
「お祖父様?まさか」
義息は頷いた。
「素晴らしいですね」
孫は目を伏せた。
「お祖父様……そういうことですか……」
女王侍女は感嘆した。
「美しかったです」
警備隊隊長は唸った。
「神懸ったというのは、あのような様子を言うのでしょうか」
姉は満足した。
「良いものを見せてもらいました」
又姪は驚いた。
「素晴らしかったです」
伴侶は破顔した。
「完璧だったわ」
タビスは微笑した。
「満足だ」
※※※
月星暦一五八六年度の月の大祭での奉納舞は格別だった。
タビスの舞があまりにも力強く美しく、神懸って見えたのだと参列者は口々に語った。
本当に女神をその身に降ろしたのではないかと囁く者すらいたという。
姿を記録する手段が無いことが惜しまれた。
それが、『タビス』による奉納舞が行われた、最後の年となった。




