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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十五章 女神降臨
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□月星暦一五八六年十月①〈元王女二人〉

□ハイネ

  

 月の大祭二日前。

 アンバルに一組の祖母と孫が到着した。

 検問の際に、大神殿での大祭への招待状を提示した二人は、手配された馬車に揺られて二ノ郭のブライトの屋敷に到着した。


 出迎えたモネ・アンバー・ブライトは、祖父のハイネに二人を引き合わせた。


「お祖父ちゃん、このがテルメで仲良くなったフィリアさん。こちらは、そのお祖母様」


「フィリア・ハルスです。宜しくお願いします!」


 元気よく挨拶するフィリアの顔に、ハイネは目を瞠った。

 青味がかった砂色の髪に、色は琥珀色だが切れ長の瞳。懐かしい顔の符号に、祖母と紹介された女性を見やる。


「君は……」

「お久しぶりでございます、ハイネさま。この度は、孫共々お世話になります」


 優雅にお辞儀をする女性は、記憶よりも穏やかな雰囲気を纏っていた。


「イ……サラ、まさか君だとは思わなかった」

「お知り合いですの?」


 割り込んだ声はアリアンナ。


「お初にお目にかかります、アリアンナさま。サラと申します」


 この状況で、『アリアンナ』に、にこやかに挨拶が出来るあたりが、さすがイディールだった。


「サラは昔、竜護星の城で女官をしていたことがあるんだ」

「短い間でしたけどね」

「だから、お兄様の昔の知り合い、ですのね」


 ハイネもアリアンナも、ルネからは式典の時に世話になったアトラスの知り合いに、礼として、月の大祭にアウルムが招待したとしか聞いていない。


 モネからは、アトラスの昔の知り合いのお孫さんと、友達になったとしか聞いていない。


 孫たちが仲が良いから丁度よい、滞在中の宿泊に協力してやってくれとアウルムから要請があった次第だ。


「アトラスと、連絡を取り合っていたのかい?」

「いいえ。先日のテルメで偶然。あのとき以来ですから四十年ぶり位ですね」


 五十年の記念式典となれば、ジェイドの生き残りの彼女が居てもおかしいことはないと、ハイネはそれで納得した。


「アウルム様が恩を受けたと聞いたよ。何があったか聞いても?」

「ただ、古い知人の身元確認をしただけですよ」


 イディールはハイネのを目を見てしっかりと微笑んだ。

 これ以上は踏み込むなという牽制だった。さすがにハイネも察せられる位には経験を積んでいる。


 聡いアリアンナは、このやり取りだけでサラがあらかた何者か気付いたようだ。

 その上で、踏み込まずに、

「ようこそ、ゆっくりお過ごし下さい」と微笑んだ。


 元王女二人の余裕の笑みが、空恐ろしくもある。



「今日は一緒に客間で寝て良いって言われてるの! いっぱいおしゃべりしましょう」

「ホント? 嬉しいです。モネさん、いっぱいお話したいことがあるんですよ!」

「先ずは客間、案内しますね。あと妹も紹介します! ダフネと言うんです。フィリアさん、きっと馬が合いますよ」


 年配組は場所を居間に移すも、モネはフィリアを連れて、早速屋敷の案内をし始めた。 


「短い間に、随分と仲良くなったようですわね」


 連れ立って出ていく二人の様子に、アリアンナが意外そうに呟いた。


「すぐに、あんなに打ち解けた友人は、サクヤ以来じゃないかな」


 モネは人当たりはよいが、警戒心は強い方だった。

 開放的フランクに見えて、なかなか敷居を跨がせないところがある。


「そうなのですか?宿では、割とすぐに親しくなったようで、サクヤさんも加わって始終楽しそうでしたけど」

 

「そうか。サラはサクヤには会っているのか……」


 レイナを知っている人物が、サクヤと会ったと聞けば、ハイネは問うてみずにはいられなかった。


「その、どう思った?」


 イディールは、用意された茶に伸ばしかけた手を戻した。


「どうもこうも、丸分かりじゃないですか」


 イディールは笑いをこらえていた。

 カップを手にしなかったのはこぼさない為だったらしい。


「君から見てもそうなんだ?」

「ええ。まさか、またお会い出来るとは思いませんでした」


 懐かしいと断定で語る顔は、ただの雇用主に対するものでは無かった。例えるなら古い友人にむける眼差し。

 アリアンナも少し意外そうな顔をする。


「親しかったのですね」

「そうですね。雇用主とはいえ、あの方は愛らしかったので、妹の様に思っていましたね」

「ぐふっ……!」


 ハイネはなんとか茶を吹き出すのを、こらえた。

 イディールにってレイナは義妹にあたる。際どい単語を使ってくる。

 非難を込めた目を向けると、イディールには茶目っ気のある笑みで濁された。


「サクヤさん、嘆いていましたよ。まだ自分は候補なのだと」

「アトラスは認められないみたいなんだよね……」


 ハイネの言葉に、アリアンナが驚いた顔をした。


「嫌ですわ。お兄様は認めましたよ」


 気付かなかったのかと、アリアンナから呆れた眼差しを向けられた。


「そうなのかい?」

「先程会った時、サクヤさん、レイナの首飾りをしてましたもの」

「首飾りと言えば、歌劇にも出てくる月長石(ムーンストーン)のですか?」 

「それです」


 なるほどとイディールは頷くが、ハイネには意味が解らない。


「だから受け入れたっていうのは、根拠にするには安直ではないかい?」


 とたん、ハイネは女性陣アリアンナとイディールから、一様に冷たい視線が向けられた。


「月長石は恋人に贈る石ですわ」

「月長石は恋人に贈る石ですよ」


 何年、月星に暮らしているのですかと、ハイネはアリアンナに叱られた。


 そうは言われても、宝石の区別など知識でしか知らない。石に意味を持たせる意図も、未だにハイネには理解できない。


 ハイネもアリアンナに、月長石を言われるままに贈ったが、当時は意味すら知らなかった。


「サクヤさんは、こちらにお泊りでは無いのですね」


 イディールは明日、サクヤと出かける約束しているのだという。


「彼女はマイヤ陛下と共に紫紺宮……城内にあるお兄様の離宮に宿泊です。お会いになるなら、お送りしましょうか?」


 離宮は城門の中にある。許可証を持つ者がが付き添っていないと、イディールは中には入れない。


「大丈夫でしょう。きっと、サクヤさんの方から来ますよ」


 その言葉を聞いて、ハイネはほっとした。

 マイヤとイディールを会わせてはいけない気がする。


「城は騒がしいから、今はやめたほうが良い」とハイネがつなげようとした時に、ルネが戻って来た。


「ああ、サラさん。もう到着していたのですね。いらっしゃい」


「ルネさま、お久しぶりでございます。お邪魔しております」

 

 立ち上がり、ルネ挨拶するイディールは、完璧に『事業に成功して招待されたものの、場違い感に気後れする女性』だった。


「どうぞ、気楽に過ごしてください。あ、叔父様が神殿入りされました。潔斎前なので、今なら会えますけど。案内しましょうか?」


「もう?早いですわね」


 アリアンナが驚いた声を漏らした。ハイネも同意見である。


 大抵アトラスは、前日の夕方に大神殿に入る。

 丸一日以上早い。


 午後に大神殿に向かうことになった二人に、気になったハイネは同行することにした。


 

ダフネ:月桂樹

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