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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十五章 女神降臨
322/374

■月星歴一五八六年六月〜九月②〈調査②黒塗り〉

挿絵(By みてみん)

 サクヤが竜護星にて『アシエラ伝』について調べている間に、アトラスは月星に向かった。


 大神殿にて、初代のタビスとユリウスについて調べたいと、古文書の閲覧を申し出た。


 タビスの要望を、神殿が阻むはずがない。当然、快諾された。


「タビス様が、歴代のタビスに興味を持って下さる日が来るなんて!」


 大神官プロトは、涙ぐんで喜んでいた。

     

「調べたいのは、ユリウスについてもだ」


 プロトには『タビス』という単語しか頭に入らなかったようなに見えた為、アトラスは念を押した。


「御伽噺のユリウスですか?」


 案の定だ。

 プロトは、きょとんとした顔をした。


「そうだ。初代タビスは、ユリウスに会ったことがあるからだ」

「そうなのですか?」


 初耳だと、プロトは首を傾げた。


「ユリウスから言質がとれている」


 アトラスが答えると、プロトはますます不思議そうな顔をした。


「まるで、ユリウスに会ったことがあるように聞こえますが?」

「さてな。すべてが判ったら話してやるよ」

 

 今はまだ、詳細を説明をする時期ではない。『女神の刻印』が実は『ユリウスの刻印』だったなどと言ったら、調査前にプロトは腰を抜かしてしまいそうである。


「約束ですよ」

「片が付いたらな」

「……?」


 怪訝な顔をしながらも、大神官プロトは早急に人員を手配してくれた。

 タビスの為ならばと、各神殿は当たり前のように、かなりの人数の神官を割いてくれる。

 

 古文書の類は、保存の観点から図書館の禁書庫内に、集められていた。


 資料は数代前の大神官が、『タビスがタビスたる条件』について調べた以来、触れられていない。(※1) 


 誰もがそう思っていた。



「なんだこれは?」


 古文書を広げ、驚きを口にしたのはアトラスだけではない。


「貴重な資料になんてことを!」

「誰なのです? こんな、酷いことをしたのは!」

「古文書にこれは!? 書物への冒涜です」


 怒りと残念がる言葉が神官、司書双方から漏れるほどに、書物には黒塗りの箇所があった。


 都合の悪いことに、調べたい創国の物語に関わる部分に、際立って多い。


 執拗に塗りつぶされているのは、初代タビスの名前と地名らしかった。


 禁書庫に入れることが出来る人間は限られる。余程の例外でなければ、入館者は館長の許可と名前の記入等の手続きが義務である。 


 例外ーーすなわち王。

 アトラスも一度、王と勘違いされて無記名で入ったことがある身ではあるが、当時調べたのは禁域の場所だけである。


 一応現王レクスに問い合わせると、禁書庫に入ったことすら無いと返答してきた。

 館長からも裏付けがとれたので、間違い無い。



 アトラスがなにやら始めたと聞きつけたアウルムが、タイミング良く図書館に覗きに来ていた。


「何か、面白いことをしているらしいじゃないか?」


 黒塗りの資料の話を尋ねると、

「そんなことをするのは、アセルス陛下しかいないだろう」

 と、苦い答えが返ってきた。


「何故、あの人はこんなことを?」

「察するに、初代タビスの名前がアンブルを脅かす意味をもっていたのだろう」


 そんな話を聞けば、一体どんな名前なのか、ますます気になってくる。


「タビスについて調べ始めたと聞いたぞ。急にどうした?」


 アトラスは、図書館内の個室にアウルムを誘った。

 館内には大机の他に、誰でも使える個室ブースがいくつも設えてある。


「俺は、サクヤと生きることを決めた」

「それは喜ばしいな。何かきっかけはあったのか?」

「アウルム、サクヤはレイナだった」


 アウルムは今更という顔を浮かべたが、黙って先を促した。


「サクヤが最後の夢を見た。レイナが亡くなる前の夜、ユリウスが訪れて俺に会わせると約束したそうだ」


 ユリウスが盟約を果たさせるために、『タビス』という存在を生まれ変わらせているらしいことだけは、アウルムとハイネに話したことがある。



 良い機会だと、アトラスはユリウスの残した言葉から、マイヤと結論付けた説をアウルムに話した。



 ユリウスと盟約を結んだのが、初代タビスと呼ばれた男であること。


 その男は竜護星の始祖アエラの恋人だったが、禁を犯して追放されたらしいこと。


 男は次の生でアシエラと歩む道をユリウスに願うも、ユリウスの望みを果たさず死んでいったこと。


 ユリウスは一方的に約束を果たし続けるも、叶えられない対価を支払わせるべく、今代のタビスであるアトラスの刻を止めたこと。


『女神の刻印』は、ユリウスが目印として刻んだ『ユリウスの刻印』だということ。


 月星創始者ネートルが、『刻印』を持った男を『タビス』と信じたことから、『刻印』を持つ者が『タビス』とされたこと。


「初代の望みは、レイナがユリウスに導かれて、サクヤとして『刻印』を持つ俺のところに現れたことから、それが答えだろうということになった」


 黙って聞いていたアウルムは、深く息を吐き出した。


 月星人なら根底を覆えされる大暴露だが、アウルムはそこには触れなかった。


「お前は、サクヤ殿がレイナ殿だったから、彼女と生きる決心がついたのか?」

「違います。関係ないとは言わないが、とっくに俺はあの娘に惹かれていた」

「それにしては、随分待たせたようだが」


 サクヤと遭って、既に一年半近い。


「……御子が生まれるのを待とうと思ったんですよ」


 サクヤを月星に連れてきてから、フィーネ《王妃》が彼女を警戒していることには、気付いていた。

 

 フィーネは、今や『王妃』であることで自分を保っているような女性である。


 昨年の夏頃、珍しくレクスが王妃の住まう白亜宮に頻繁に通っていた。(※2)

 フィーネがかなり強く(しつこく)出たのだろう。

 レクスが辟易して付き合った印象ではあるが、フィーネは身籠り、難産だったとはいえ、無事に王女を出産した。


 王女であろうが、後継者を得てアトラスの王位継承権は消失した。

 フィーネの、サクヤに対する警戒も薄まるだろう。


 月星では王に後継者が王女しか居なかった場合、一代戻って親等を見直すという悪習が残っている。

 それに則ると、王女よりアトラスの方が継承権が上になってしまうのである。

 だからアトラスは資格を消失する必要があった。


 アトラスが継承権を失っても、王籍に残っている以上、子の継承権は残る。つまり、アウルムの()であるアトラスの直系の為、マイヤにも実は継承権はあるのだが、女性である為レクスの娘より上にはなり得ない。


 アウルムの妹であるアリアンナは、降嫁し王籍から抜けている為、継承権は無い。


 資格(アンブルの直系)はない筈のアトラスの継承権を、頑なに維持させ続けてきたアウルムが折れたのは、フィーネ王妃への、不誠実な息子レクスの行いの謝罪の意味もあっただろう。



「まあ、良い。とにかくお前は、ユリウスに対価を払う覚悟が決まったんだな?」


 対価が何かをアウルムは聞いてこない。察しの良いアウルムのことだから、気付いているのかも知れない。


「いつまでもこのなりじゃ、サクヤと共には歩めませんからね」

「それでこの大捜索か」

「ええ。ちゃんと納得した上で、御伽噺を終わらせます」


 アトラスはしっかりと言葉にして、決意をアウルムに伝えた。


お読みいただきありがとうございます

気軽にコメントやアクションなど頂けたら嬉しいです

————————————————————

※1第二章〈タビス〉参照

※2サクヤを初めて月星に連れて行った直後


家系図参照

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