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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十五章 女神降臨
321/374

◯月星暦一五八六年六月〜九月①〈調査① アシエラ伝〉

挿絵(By みてみん)


 アトラスは古文書の開示を、マイヤに要請した。

 マイヤは協力を申し出たものの、アトラスは直前手をつけることは避けた。


 『公式』ではない記録は、総じて国の『秘め事』に直結する場合があるからである。

 『竜護星』の者ではないアトラスが触れることは『相応しくない』と、マイヤが許可してもアトラスは辞退した。


「解読したい部分がどこに書かれているかは、開いてみるまで判らない。うっかり『余計なこと』まで目にしてしまうことは避けたい」とアトラスは言い、代わりに調査はサクヤ主導で行われた。


「『前王レイナ』が見る分には、今更であり、見たのが生前か没後かは大した問題ではない」とマイヤは言い切った。

 外部アトラスに漏らすのも問題ありそうなものだが、「閨で寝言を伴侶が聞いてしまうこと位ありましょう」とすまして言われれば、苦笑するしかない。


 以下、サクヤによる調査報告《寝言》である。


  ※※※


『アトラス、お疲れ様。

あなたの推測通りだった。

『アシエラ伝』は編纂された書物どころか、『アシエラ』は相当美化されて『聖女化』されてるわ!

当人が読んだら大笑いするんじゃないかしら?ってアシエラもわたしなんだっけ。

実感ないから判らないけど、少なくともわたしは大笑いしたわ。


ーー先ず、ブライトが樹海から『見目麗しく神々しい赤子を拾い、大事に育てた』みたいに書かれていたけど冗談じゃない。

『毛色の違う真っ白な貧弱な女の子』を薬草を採りに行った樹海で拾い、ブライトは奥さんに怒られてる。見るからにひ弱な子供。すぐ死んでしまうと思われていたけど、そこは薬師として邑で頼られていたブライトが頑張って彼女の命を繋いだ。

邑長だったブライトが結局引き取って育てる訳だけど、アシエラの白金髪に色白の肌、海青の瞳は当時のこの地の人には異質で『色無し』と蔑まれて、相当肩身が狭かった様よ。

子供の頃からやけに勘が良かったようで『魔女』呼ばわり。動物と話していたなどの記述もある。予見が当たって気味悪がられたり邑で悪いことがあれば彼女が疑われたりした。

予見ということは、未来視さきみの片鱗はもうあったってことかしら?


ともかく。アシエラは有り体にいえば虐められていたということね。


当時は、黄褐色の肌に黒や茶系の髪色の人間しか見たことが無かったようだから、彼女の容姿は相当異質に映ったのでしょう。


アシエラの幼馴染と言っていいのかな?アシエラを庇う男の子がいたわ。多分この子が始まりのタビスになるのだと思う。


鳶色の髪に苔色の瞳の少年ーーハイネみたいね。


当時のこの地では竜は捕獲対象だった。幼馴染の両親は、竜の狩人だったの。


竜の血や肉、爪や骨までもが薬になると当時の人間は知っていたみたい。秘匿文書になるわけね。


竜の狩人だったのは、少年の両親だけではなかった。邑そのものか狩人の集落だったの。チームを組んで竜を狩り、竜由来ということは伏せて、他の邑に良く効く薬として売って、収入にしていたようよ。


外からは『薬師たちの邑』と思われていたらしいわ。


ブライトの一族は、邑人が狩ってきた竜を薬に加工する仕事をしていたの。

皮肉な話よね。


当然竜は黙っていなかった。

同胞を殺されながら耐え、機会を伺っていたみたい。

じっくりと、狩人達に受けた痛みを、怒りを、恨みを育てて魔物を育くみ、狩人に憑かせたということみたい。


今の竜からはちょっと考えられないくらい、人間的な書き方をされているのがよくわからないのだけど。竜も長い年月で変わっていったのかしら?


狩人で無かった者たち、加工はしても直接手を下していないブライトの一族、アシエラや幼馴染は憑かれなかった。

幼馴染は狩人見習いだったはずなのだけど、まぬがれている。


『アシエラ伝』の通り、アシエラが事を起こしているのが竜だと見抜いて、竜と邑人との間に入って説得を試みた。

『アシエラ伝』では聖女のお言葉みたいに書かれているけど、実際は邑の厄介者扱いのアシエラの言葉なんて、当初は信じて貰えなかったみたい。

幼馴染も、アシエラ贔屓が過ぎて煙たがれていたみたいで、なかなか説得は上手くいかなかった様子。


ブライトの息子がこの頃から協力してるわ。

紅味の強い茶色の髪に萌葱色の瞳。名はセーロス。後にアシエラの伴侶となる男性。名前も『アシエラ伝』や『王家の家系図』と一致している。

そういえば、幼馴染の名前が出てこないのよ。追放されているから、意図的に残していないのかも知れない。


ここでやっと、ユリウスが登場して魔物のことを説き、人と竜は和解をすることになった。


憑かれて元に戻った人達や、家族が憑かれた人達は、アシエラをやっと信じ、彼女を巫覡と認めた。王として立てて行くことを決め、ブライトも全面協力で、邑の在り方自体をも変えていった。

竜との関わり方を改め、狩猟対象にしないことを約束し、竜側も受け入れたとある。


人間が竜を護る限り、竜も人を守護し力を貸そうとーーこれが、竜への騎乗許可を意味しているという見解なのだけど、この書き方だと、アシエラの子孫だから乗れる訳じゃ無いようにも受け取れる。


その時、憑かれなかった人が対象なのか、特定の誰かを示しているのかは判断つかないわ。

幼馴染が竜に乗れたーーのよね?竜で月星に現れているのだからーーことに繋がるのかも知れないね。


竜血薬についても記述があったわ。

曰く、アシエラの子孫に限り、求めに応じよう。提供量はその竜の裁量に一任する。決して命を脅かす量であってはならない。


ーー現代の竜も人の言葉をある程度理解するけれど、ホントに会話をしてたのかと思えるような記述が謎だわ。竜血薬もホントに特効薬の様な書き方がされているのよね。


竜との契約により、竜を傷つけ血を奪うことは禁忌となり、その効用についても秘匿されることになった。


幼馴染がアシエラの恋人だったのは、間違いないみたい。

でも、彼は禁を犯し追放されてしまった。

アシエラは事故に遭ったみたいね。

彼女を救うためでも、アシエラ自身が決めた掟を破っては示しがつかないと言うことなのでしょう。


アシエラを立てて盛り立てていこうという矢先に、アシエラが救えなければ本末転倒だと思うの。

ブライトの関係者が、邪魔だった幼馴染を追放する口実にしたというのは考え過ぎかしら?


幼馴染については、『例え親しい間柄でも、禁を破れば追放される。例外はない』という戒めに、記載が残されているだけみたい。


幼馴染がどの時点で、ユリウスと契約したのかは判らない。

追放を言い渡され去った、以降の記載は無さそう。


ユリウスに絞って、触れている文献についても調べてみた。この国では、ユリウスは竜の守護者とか樹海の精霊的な扱いがされたこともあるから、根拠になった文献があると思ったの。

今更な内容ばかりで、大した発見は無かったけど、ユリウスは竜に随分と慕われていたみたいよ。


そうそう。アシエラは二人、子供を産んでいるの。

年子なのか双子なのかは、判別出来なかったのだけど、兄がブライトを継いで、巫覡属性を受け継いだ妹がアシェレスタを名乗り、今の竜護星王家に繋がるわ。


どうも兄は幼馴染の子供っぽいのよね。苔色の瞳だった様よ?

まあ、ブライト家は長い年月の間に何度も王家の血を入れているから、ブライトの子孫であることは変わりないのだけど。

『アシエラ伝』を編纂した当時のブライト家の者が必死に隠したがったわけよね!』



  ※


 報告書の後に、マイヤからの追記があった。


『条件は揃ったようです。

満月の夜に、お父様の御心が向かう場所で、逢うことが出来るでしょう』


⦿家系図抜粋⦿

挿絵(By みてみん)

※みてみんの、画像最大化まですれば読めると思います

お読みいただきありがとうございます

挿絵(By みてみん)

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