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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十五章 女神降臨
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□月星暦一五八六年六月②〈古文書〉

挿絵(By みてみん)

□サクヤ


「マイヤ、古文書を調べる許可が欲しい」


「古文書?」


 突然出てきた単語に、サクヤもマイヤも怪訝な顔でアトラスを見た。


「この国の創国の物語『アシエラ伝』は、編纂された書物だ。おそらく不要なこと、都合の悪いことは省かれている。元になった資料がある筈だ。それを識りたい」


「伺いましょう」 


 マイヤが居住まいを正した。


 サクヤがマイヤの隣に移動した為、二人にアトラスが向かい合う形に座っている。


「サクヤ、ユリウスはレイナに言ったのだろう?また俺に会わせると」

「ええ」

「サクヤさん、詳しく」

 マイヤの視線がサクヤに向いた。


レイナが死ぬ前の夜、ユリウスが枕元に来て言ったのよ。『私が必ず会わせる』と。そして、わたし(サクヤ)のところに現れ、約束通りアトラスに逢わせてくれた」


「多分、それがユリウス側の盟約だ」


「盟約……ユリウスがアトラスに思い出して成せと言ったというアレ?」

「そう。その盟約だ」


 盟約は一方だけでは成り立たない。ユリウス側も何かを果たしていたと考えなければ、辻褄が合わないとアトラスは語る。


「サクヤ、お前はアシエラだったのだと思う」

「はいぃ?」


 サクヤはぽかんとした。

 レイナだったことは受け入れられても、いきなり始祖もそうだったと言われて、頭がついていけない。


「話が見えないわ」


 戸惑うサクヤに対して、マイヤは納得という顔をした。


「推測だが、アシエラには恋人がいたんだ」

「恋人? ブライトの息子ではなく?」


 アシエラの伴侶はアシエラを拾い育てた、邑の長老ブライトの息子だったと伝えられている。


「別の歴史書にちらりと載っていた、禁を破ってアシエラを救い、追放された方のことですね」


 アトラスはマイヤに頷いてみせた。


「この国で禁忌と言えば?」

「竜血薬……」

「そうだ。つまりそいつは、無断で竜血薬を使ってアシエラを助けたんだろう。それで追放された」

「助けたのに?」

「だから追放で済んだのだろうよ」


 アシエラはこの国の始祖と呼ばれる人物である。

 まだ国と名乗る程の集団では無かった時代、原始的な裁きで処断といえば端的に『殺せ』だった筈だ。


「そして、そいつが初代タビスとなった、ユリウスと盟約を交わした男だ」

「初代タビスはこの国(竜護星)の人だったの?」


 驚くサクヤにアトラスは頷いた。


「この刻印しるしは女神ではなく、ユリウスか刻んだ盟約の証なんだそうだ」


 アトラスは自身の右腕を示した。

 やけに断定で語るが、サクヤの知らない二十五年の間に、判明したことなのだろう。

 サクヤは黙って先を促した。


「月星の始祖ネートルは、竜に乗った男を『タビス』だと思った。男には刻印しるしがあった。以来、刻印がある者がタビスとされた」

「それがタビスの真実……」


 とても月星の人には聞かせられない話だが、アトラスの顔は真剣だった。


「話を戻すぞ。初代タビスの男はアシエラと恋仲だったのだろう。追放された男は多分、ユリウスにこう願ったんだ。次の生でアシエラと番いたいと」


 意味がやっと繋がった。


「だから、わたしがアシエラだと?」

 

「お母様レイナがサクヤさんとして、ユリウスに導かれて刻印を持つお父様の前に現れた。それが証明していましょう」


 マイヤが捕捉する。


「じゃあ、歴代のタビスに対して、ユリウスは繰り返し、その約束を果たし続けてきたというの?」

「おそらく」


 アトラスは苦り切った顔で応えた。


「ユリウスが、俺にさせたいことの見当はついてる。だが、俺は納得出来ていない。せめてその理由を知りたい」


 アトラスがぎゅっと拳を握りしめた。


 一方的にユリウス側の、果たし続けられてきた盟約の対価を支払うのは、気づいてしまった以上、アトラスの役割。


 はっとしてサクヤはマイヤを見た。


 かつて、マイヤはサクヤに言った。

 アトラスは人として死ぬ為に、ユリウスを探していると。


 人としての刻をユリウスに止められてしまったアトラス。

 娘の年齢が四十歳を越えても、未だ三十歳頃のままの姿。

 そのお陰でサクヤは、共に歩める年齢差でアトラスに出会えた訳だが、ユリウスとの盟約を果たさなければ、アトラスの時間は動き出さない。


 二人アトラスとマイヤの姿は未来の自分達に置き換えられる。


 共に生きると言ってくれたアトラスの決意を知り、サクヤは目頭が熱くなった。


 真実を知ってしまえば、サクヤにとってはユリウスは恩人でしかない。


 ユリウス側の思惑は判らずとも、サクヤからしてみれば、自分サクヤが生まれる未来を視て、アトラスの刻を止めたとも言い換えられる。


 人は斬れない剣を持って、人ではないユリウスを追う意味には、さすがにサクヤも気づいていた。

 

「だから、初代タビスとなった男性のことを知りたいと。その為に古文書を調べたいと仰る訳ですね」


 アシエラ伝の編纂は、ブライト家の者の手によって行われた筈だ。アシエラに恋仲の男がいたなどという記述があるわけがない。


「解りました。勿論協力は惜しみません」


 力強く頷くマイヤに、アトラスは頼むと言葉少なげに頭を下げた。

挿絵(By みてみん)

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