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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
間章
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間章■月星暦一五八六年四月〜五月〈夕方〉

 テルメでサクヤと別れたアトラスは、その足でアンバルに翔んだ。


 情報誌ガイドブックの作成を発案すると、レクスは面白いと二つ返事で承諾した。


 レクスは何をしてもアウルムと比べられ、アウルムを超えられないことに苛立ちを募らせている。

 アウルムがしていないことには、積極的に取り入れる傾向にあった。


 情報誌は役に立つ。

 いずれ話題になる確信がアトラスにはあった。


 実を言えば、わざわざ王の認可を取る程の事案でも無い。

 だが、アトラスが勝手に進めるよりは、王を絡めておいた方が後腐れがない。


「さすがは王様、便利な物を広めてくださった」と民の声が耳に届けばレクスの溜飲が下がる。


 レクスという王の扱いには、少々細やかな対応を必要とするのである。



  ※


 観光情報誌を作る発端は、テルメ観光におけるモネの持つ情報量と、的確な助言だった。


 モネは大抵のことは、ある程度こなしてしまう。


 王妃の居る白亜宮の総括をしている母親のフェルサに付いて城で働いたこともある。

 人当たりが良く気が回るので適していると思われたが、モネは周りが見えすぎて音を上げた。


 短期で手伝いに入る分には良いが、どこにでもある、後ろ暗い部分を目の当たりにすると被害に遭う側でなくともモネの方が潰れてしまう。


 モネは運動神経も良く、筋が良いので剣術や体術、護身術の類も一通り学ばせてみた。


 テルメの時のようにルネが経験を積ませるために連れ出してはいるが、こちらも手伝いに入る分には、という感じである。


 やれば出来てしまうだけで意欲はない。


 かと言って、モネは誰かに嫁いで女主人として収まっているだけの女性では無い。


 モネ自身も自分を持て余しているのをアトラスは知っていた。


 モネは基本的に、人の世話を焼くのが好きな娘である。


 情報誌の編集作業はモネに向いているとアトラスは踏んだ。

 

 アトラスの提案に、自分の持つ情報が役立つ形があると気づいたモネは天職が見つかったかのように、目を輝かせて喜んだ。


 アトラスは『タビスの〜』シリーズの編集部から人を回してもらい、モネを中心に打ち合わせを重ねた。


 内容の方向性が真逆の為、情報誌はシリーズとは別枠で立ち上げることになった。


 情報に歴史的背景等を組み合わせれば内容に重みが出るだろうと、図書館も巻き込むことが提案された。

 懇意にしている司書がいるというモネの要望で、レゲンス・クニーガーが図書館から企画に参加することになった。

 レゲンスはリベル・クニーガーの曾孫である。


 方向が固まると、印刷前に原稿の確認はさせるよう頼んで、アトラスは手を引いた。

 いつまでも『タビス』は関わっていない方が良い。


 当初の目的は果たした為、離島の館に戻ろうと考えていた矢先に王妃が産気づいた。


   ※※※


 悪癖持ちのレクスと神経質な王妃フィーネとの相性は最悪だったといい。

 候補者の中からフィーネを王妃を選んだのはレクスである。

 少し線が細く、王妃という重圧に耐えられるかとアトラスも周りも、当初から不安を覚えなかった訳では無い。

 しかし、レクス本人にフィーネが良いと言われてしまえば、黙るしか無かった。


「一番大人しそうで、とやかく言われなさそうだったから」というのが理由だと理解したのは、婚礼後だった。


 妻を持ってからの方がレクスの悪癖が酷くなったと言える。

 フィーネが神経質になったのは、レクスのせいと言って良いだろう。

 新婚早々、フィーネは居を白亜宮に移した。

 レクスが白亜宮に通うことは稀だった。このたびフィーネが身籠ったのは奇跡に近い。



 残念ながら、待ち望んた御子の誕生を手離しで喜んだ者は少なかった。


「なんだ王女か」


 それがレクスの第一声だった。


「母子ともに健康、先ずはそれを喜び、労いなさい」


 アウルムはが怒った。当然だ。当時の王妃——レクスの母親は出産時に亡くなった。


 王女かと、落胆の空気が城内、ひいては国内に広まるのも無理はない。

 月星には女王は歓迎されない風潮が残っている。


 レクスとフィーネの複雑な関係、フィーネの年齢を考えれば次の御子は望みにくい。


 王に王女しかいない場合、一代戻って等身を見直すという悪習は残っているものの、後継者は後継者だ。

 アトラスの継承権は消失した。


「王女殿下の誕生をタビスがお慶び申し上げる」 


 アトラスは、すぐさま言葉にした。

 『タビス』が『慶び』を口にした。そこには意味が『生まれる』。


 フィーネ王妃が起き上がれるようになるのを待って、大神殿にてアトラスは『タビス』として王女に祝福を祈り、乞われてセーラという名を授けた。


 意味は夕方。

 女神の時間が始まる刻を示す。


 タビスが女神に選ばれた者ではない事をアトラスはもう知っている。

 だからこそ、女神の声が聞こえないことを卑下することもなく、女神を否定することも無くなった。

 女神の有無、その真偽は関係ない。

 月星の民の心には、それぞれが女神と呼ぶ存在が根付いている。それで良い。


「女神の加護があらんことを」


 生まれ落ちた瞬間から波乱の道を歩むことを定められた王女のことを、アトラスはただ一月星人として、心から女神へ祈った。


お読みいただきありがとうございます

気軽にコメントやアクションなど頂けたら嬉しいです

————————————————

【小噺】

セーラ sera :夕方

月星人が夕方にまつわる名前をつけるのは、日本人が朝日にまつわる名前をつけるのに似ているかも知れません。


フィーネ:細い

フェルサ:力

レゲンス:読者


ルネの妻、モネの母親フェルサは白亜宮の総括をしています。月星の王城は規模が大きいので離宮毎、部署毎にまとめ役が居ます。

フィーネ王妃がナイーブな為、悪くなりがちの白亜宮の環境を保っている強者です。ただ、その為なかなか家には帰れず留守にしがちです。

二の郭の館はアリアンナさんが未だに切り盛りしています。

モネさん、ちゃっかり意中の男性をプロジェクトに引き入れちゃいました(*^^*)



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