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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十四章 翡翠の残響
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■月星暦一五八六年二月㉔〈訪問着〉

 結局成り行きでアトラスの式典出席が決まってしまった。

 せめてもの抵抗に、紫の帯は付けないとアトラスは言った。


 白に紫の組み合わせはタビスにしか使われない。

 帯さえ着けなければ、記念の式典に偉そうな神官が来た位の印象ですむだろうという判断だ。


 しかし、ルネによって届けられた訪問用の神官服を見て、アトラスは渋い顔をした。


「大神官が仰るには、『アトラス様の体躯に合う寸法の訪問着が他にあるわけがないでしょう』とのことです」


 ルネが申し訳なさそうに伝えてきた。


 アトラスの身長は高い。

 代用できるものが無いためこれが届くのは想定内だった。


 白地に、縁取りのテープに紫を基調とした複雑な刺繍が入ったタビス専用の訪問着。

 縁取りのテープは細い為、目立つ帯さえ白を用いれば、遠目からならタビスであることを誤魔化せると思ったゆえに、帯の色を指定したわけだが、しっかり紫の帯が入れられていた。


「今の大神官……は、プロトかぁ」


 アトラスは深々と溜息を吐いた。


 短い期間だったが、プロトは少年時代にアトラスの側付きをしていた。タビスに強い憧れを持っていた人物である。

 彼を籠絡するのは難しい。


 街の神官長に白い帯を借りることも考えたが、この衣装に合う質の帯の備えは無い。


 王の衣装でなければ、婚礼衣装位にしか使い道が考えられない程の極上の絹で仕立ててある訪問用の神官服は、大神官とタビスにしかあつらえない。

 帯もそれ用に織ってある為、合わないのだ。


 ルネは神官を一人連れてきていた。着付け係りとしてプロトに派遣されたとのこと。


 服位自分で着られるとアトラスは言うが、「出来上がりが違うのです」と神官は譲らない。口調がプロトそっくりである。


「プロト猊下から伝言です。『タビス様がテルメの式典に出席するですって!?先に知っていましたら伺いましたのにぃ!どうして知らせてくれなかったのですか!』だそうです」

「大神官が大神殿《王立セレス神殿》の行事すっぽかしちゃダメだろ」


 アトラスは諦めて、届いた衣装に袖を通した。



   ※


 身支度を整えて客室を出ていくと、二階のラウンジに集まっていた者達から溜息が漏れ出た。

 警備隊員すらぽかんと口を開けている。


「ふわぁ……」という声はフィリア。目がまん丸になっている。


 サクヤすら驚いていた。


 そういえば、レイナの前で着たことはなかった。


 アリアンナの婚礼時に着たが、当時レイナは妊娠中で月星に来られなかった。

 アウルムの婚礼時も、レイナは竜護星を離れられなかったか。


 あまり着る衣装ではない。

 直近でもレクスの戴冠式ぶりである。


「それが神官としてのタビスの正装なのね。初めて見たわ」


 イディールが感慨深い声を出した。


「どの面下げてって感じだよな」


 自嘲するアトラス。


「大丈夫。アインみたいなのは例外だと思って良いわ。タビスは終わらせた人という認識の方が今は強いもの」


「そんなに気にするな。その衣装の意味を知っている者がどれだけ居る?」


 濃紺の礼服を纏ったアウルムが呆れた声を出した。



「圧巻ですよねぇ。プロト猊下も似たような神官服を御召になるのですが、大伯父様が着ると迫力が違います」


 モネが溜息混じりに両手を絡めた。


「アトラス、惚れ直したわ!」


 茶化すのはサクヤ。

 和ませてくれようとしているのだろう。よく解っている。

 正直、アトラスは緊張していた。



「皆様、おはようございます」


 階下から登ってきたのは、中央神殿神官長のメモリアだった。


「この度は、式典に出席して下さり心より感謝申し上げます」


 深々とアトラスにお辞儀をすると、アウルムにメモリアは微笑んだ。


「アウルム様、良かったですね」

「やっと念願が叶ったよ」

「お二人を、今日この記念の日にお招き出来ること、私も嬉しく思います」


 アウルムのこんな嬉しそうな顔は、いつぶりだろうか。

 ずっと、準備を整えて待っていてくれたのに随分かかってしまったことをアトラスは識る。


「兄上、ありがとう」

「あぁ!」


 アウルムはアトラスの背をぱしんと叩いた。

 アウルムなりの照れ隠し。アトラスの口許も綻ぶ。



「では、参りましょう」


 二人を見て、目を細めた神官長が先導した。



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