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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十四章 翡翠の残響
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■月星暦一五八六年二月㉓〈理由〉

 会議室のルネにサクヤ達のお茶をしている場所(女子会会場)を聞いたアトラスが『二一三号室』の扉を叩くと、すぐにサクヤが顔を出した。


「お話終わったの?」


 奥からはモネとフィリアの笑い声が聞こえてくる。

 短い間に随分と仲が良くなったらしい。 


「こちらは終わった。ちょっとフィリアと来てくれ」


 アイン・マールは再び『会議室』に連行され、『二一五号室』にはアウルムとイディールが残っていた。


「フィリア、君はタビスの言葉が何を意味するか知っているね?」


 アトラスはフィリアに目線を合わせて確認した。


「タビスの言葉は女神様の言葉です」

 

「その『私』が言うよ。今日この部屋で見聞きしたことは他言無用。墓まで持っていくこと。いいね?」


 神妙にこくこくとフィリアは頷く。


「便利なものね」

 呟くイディールに「正直助かる」とアウルムが笑っている。


「それそうと、アトラス。お前、明日の式典にでなさい」

「えっ?」


 唐突に言われ、アトラスは戸惑った。


「いやいや、服もないですし。神殿側も、急に言われたら進行上、困るでしょう?」

「服は、アンバルまで半刻もあれば竜でなら取ってこられるだろう。ルネが居る。後で行かせる」

「ですが……」

「それに神殿が『お前』の出席を歓迎しないわけが無かろう」


 渋るアトラスにアウルムは正論を説いた。


「しかし、この街で私は……」

「名乗らずとも良い。口を開かずとも良い。ただ、共に祈り、花を供えるだけで良い」


 その見てくれで当時のタビスと同一人物とはまず考えないとアウルムは言葉を重ねた。


「アトラス、お前は『タビス』の肩書きを使ってお二人を呼び出したのだろう。イディール殿の素性を明かせないのだから、タビスであるお前が理由を用意せねばなるまい」

「そうね。そうしてくれると私も家族への説明が助かるわ」


 アウルムがアトラスを毎年式典に連れ出したがっていたのを気付かないふりをしてきた。


 この時期にここ(テルメ)に居る以上、何を言っても悪足掻きでしかない。アトラスは観念した。


「分かりました」


 アウルムは満足気に頷くと、フィリアを見やった。


「そうだな。フィリアさんには、慰霊碑前に供える花を渡す係をやってもらいたい。タビスのーー女神の神託を受けて大任に選ばれたーーだから探していた。これで理由は通る」


 イディールは頷いた。


「孫さえよければ」

「わたしは構いません」


 フィリアの即答にイディールは微笑んだ。


「ありがとう。記念の式典であなたたちに祈ってもらえたら、お父様達は嬉しいと思う」


「だが、俺はあんたをサラ・ファイファーの名で探して貰った。それなのに出るのはフィリアの方じゃ疑問は残るだろう。そこはどう説明する?」


「昔恩を受けたとか……、あ、サラが竜護星の城にいた記録は残ってる。名前を耳にして、『私』の思い出話をしたくなったとかはどう?」


 サクヤが口を挟んだ。


「『私』?」


 耳聡くイディールが聞き返し、サクヤはしまったという顔をする。


「そう言えば、貴女とは自己紹介が未だだったわね」

「あぁ〜〜……」


 サクヤの目が泳ぐ。


「名前はサクヤ。俺の『連れ』だ」


 アトラスがそれで終わらせようとしたが、イディールは逃してはくれなかった。


「……わたしは竜護星フェルンの領主の妹、サクヤ・フェルターと申します」

「で?」


 先を促す視線に、サクヤは肩をすくめた。

「まあ、フィリアには言っちゃたし」と、サクヤはイディールに向き直った。


「レイナの記憶があるのでアトラスに囲ってもらっています」

「人聞きが悪い!」


 アトラスが拳骨が落とした。サクヤは大袈裟に痛がる素振りをするが、寸止めである。


「……匿ってもらっています」


 見極めるようとするイディールの視線に、サクヤは落ち着かずに言葉を重ねた。


「全部じゃないですけど。ただ、レイナの記憶でものを考えると、一人称が時々混ざってしまって。普段はサクヤです」

「そう。レイナさまの記憶……」


 イディールがふと、優しい目をした。


「蜂蜜のパイ⋯⋯」

「覚えてるの?あれ、まだあるのよ。店主も店構えも変わったけど、改良されて味も美味しくなってたわ!」

「!?」

「あっ……」


 うっかり『レイナ』が出てしまってサクヤは固まった。


「あはは⋯⋯!」


 イディールが吹き出した。


「はいっ!?」


 アトラスは唖然する。彼女がこんな大口を開けて笑う印象イメージはなかった。


「あなた、レイナさまだわ」


 眼尻に浮かんだ涙を拭いながら、イディールはまだ笑っている。


「えと⋯⋯、信じてくれるのですか?」

「信じたくもなるわ」


 イディールは笑いをなんとか収めると、アトラスをを見上げた。


「それが理由なのではないの?」

「理由とは?」

「あなたが歳を取らなかったのは、続きをなさいという女神様のご配慮なのではないの?という意味よ」


 はっとしてアトラスはサクヤと顔を見合わせた。


 女神ではないが、仕組んだ者には覚えがある。


「そういうことなのか?既に見えていた?だから、救わなかったというのか」


 サクヤはレイナの没後約七年で産まれている。


「なんのこと?何か余計なことを言ったかしら?」


 ぶつぶつと呟き、考える顔付きのアトラスにイディールが疑問を呈す。


「いや、見えた気がする」

「アトラス、後でゆっくり考えなさい」


 苦笑してアウルムが口を挟んだ。


「理由は無難に、遺族代表で良いと思うが」

「そうですね。それが一番しっくりきます」


 イディールも同意する。


「部屋はある。ご家族もお呼びしてゆっくりして下さい」


「ここに泊まれるの?嬉しい!」


 アウルムの発案に、フィリアが両手を上げて喜びをあらわした。


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