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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十四章 翡翠の残響
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□月星暦一五八六年二月㉒〈女子会〉

□サクヤ ※息抜き回です


 場所は二一三号室(ルネとモネの部屋)

 階下から様々な菓子類スイーツが取り寄せれらて年頃の娘三人でテーブルを囲んでいた。



「アウルム様達のお話が終わるまで、甘いものでも食べて待っていたいのだけど」


 サクヤが会議室で声をかけると、顔を出していたモネが食い付いた。

 ルネは部屋から追い出され、現在に至る。


 モネには、フィリアはアトラスの昔の知り合いのお孫さんとしか言っていない。

 さすがイディールの孫と言うべきか、フィリアはそれで察し、部屋でのことには触れなかった。

 だが、モネがサクヤの事情に通じているはことを知ると、話題は自然にそちらに移行してしまった。


「あんなステキな方が彼氏さんなんて羨ましいです〜」


 レーズン入りスポンジケーキを食べ終えたフィリアが、ほわわんと目を細めてサクヤを見た。


「まだ、候補ですよ」


 サクヤは溜息と共にチーズケーキをー口押し込んだ。濃厚なベリーのソースの酸味がこれまた濃厚なチーズに良く合う。


「そう思っているのはご本人達だけですよ。既に周りは当てられっぱなしです」


 モネが澄まし顔で珈琲を啜った。彼女の前にあったプディングは跡形もない。


「優しそうな方ですよねぇ、アトラスさま」

「大伯父さまは実際優しいですよ。あんまり細かいことは言わないです。鬼教官ですけど」


 フィリアにモネのことはアウルムの姪孫てっそん(又甥)と説明した。

 つまりアトラスにとってもモネは姪孫(又甥)とういことになるわけだが、アトラスにとっての本当の意味で姪孫(又姪)はフィリアの方である。本人達は知らないがややこしい関係である。


 高祖父が同じ者達の孫はもはや他人であるが、その二人が自分サクヤの恋愛話で盛り上がっているのを、複雑な気分でサクヤは聞いていた。


「優しいと優柔不断は紙一重ですけどね」


 ぼそりと呟き、サクヤは珈琲を飲み干した。

 別のカップにティーコゼーで保温していた紅茶を自ら注ぐ。


「サクヤさん、気づいてないんですか?私、初めて見ましたよ。大伯父さまのあんな蕩けそうな顔」


 モネは無花果のタルトを自分の皿に取り分けた。


「サクヤさんは理想が高すぎるんですよ。《《あの》》大伯父さまですよ!かつての熱い(ラブラブの)温度を求めて物足りないとか言うなら、贅沢な悩みですよ?」

「お二人は昔恋仲だったんでしょう?わたし、歌劇観ましたけど、たしかにあれは憧れますねぇ」


 フィリアはクッキーを口に運びながら、楽しそうである。 


「その歌劇、月星ではそんなに有名なんですか?」

「「女子の嗜みです!」」


 異口同音に言われてサクヤは怯んだ。


 ただ、公衆の面前でアトラスの方からレイナに告白しただけの話を、どれだけ盛れば歌劇にできるだけの尺になるのか想像もつかない。


「かつての恋人を、歳を留めて待っている殿方だなんて素敵以外の言葉が見つかりません。女神様も粋な計らいをなさいますよねぇ」


 フィリアがまたクッキーに手を伸ばした。よっぽど気に入ったらしい。

 

「なるほど!見方を変えればそうなますね」


 フィリアの言葉にモネが目の色を変えた。


「サクヤさん、もうそれ、愛と言わずになんと言うんですか!?」

「はいぃっ……?」


 食い気味のモネに、サクヤは苦笑するしかない。


「二人とも、そもそもよく信じられちゃいますね、それ(『レイナ』の話)


 サクヤの両親はレイナのことを最後まで幻想の友人(イマジナリーフレンド)だと思いこんでいた。

 アトラスからですら、結局のところ信じきれずに結論は先延ばしにされているのだ。

 サクヤ自身もそうだとはっきり言い切れなくてもどかしいというのに、何故二人とも断定で盛り上がっていられるのかが疑問だった。


「「だって、その方が素敵じゃないですか!」」


 息ぴったりの反応に、サクヤは狼狽えた。もう二人が姉妹のように見えてくる。


(この二人、今日初めて会ったはずよね?)


 各祖母の顔がどことなく似ているのもあるのか、二人はどこか雰囲気も似ている気がする。



 サクヤの事情を知る者はまだそんなに多くはない。アトラスの『連れ』とまでしか認識されていない。


 知られたら歌劇第二弾が制作されることになりそうだ。


 サクヤもモネが最初に食べていたプディングに手を伸ばした。

 滑らかな食感の中に卵と牛乳の味がしっかりと感じられる。


「私のことばかりですけど、お二人はどうなんです?気になる方とかいないんですか?」


 サクヤが振ると、フィリアがはにかみながら口を開いた。


「……わたし、兄のお仕事に付いてアンバルに時々行くんですけど、検問所の所員さんに一人格好いい人がいるんですよね」


 街門の検問所を使う度にその人に会えないか、楽しみにしているのだという微笑ましい話がフィリアから出てきた。


「フィリアさん、私、アンバルに住んでるんですよ!今度来たら呼出して下さい。その所員さん、名前分かります?会えるように計らいますよ!父に言えば多分なんとかなります」

「ほんとですか?」 


 モネの声のトーンが上がった。基本的に人の世話を焼くのが好きなのだろう。

 フィリアも食いついている。面白い相乗効果が生まれそうだ。


 そう言うモネも、アンバルの図書館に気になる司書がいるらしい。その人目当てについつい図書館に通って、本を沢山読む羽目になったのだと苦笑する。


 サクヤもレイナも、同年代の女友達と楽しむという経験があまりなかった。

 なるほど。確かに恋愛話は、人のを聞いてる分には楽しい。


 サクヤはプディングを平らげて、盛り上がる二人を微笑しながら眺めていた。




 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【小噺】

モネさんの意中の方の姓はクニーガーと言います。覚えて居るひといますかね。


さっきアウルム様とブランチしてたはずのサクヤさん。スイーツは別腹らしいです 笑


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