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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十四章 翡翠の残響
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□月星暦一五八六年二月⑲〈秘密〉

□サクヤ


「なに?ボレアデス?イディール?」


 訳が解らないイディールの孫娘のフィリアは、困惑した表情で三人を見比べている。


 察したサクヤは、窓辺の空いているテーブルにフィリアを誘った。


「どういう状況ですか?」

「うーん、兄姉の感動のはじめまして?」


 サクヤの合ってるよいな合ってないような解説に、ますますフィリアは小首を傾げた。


「あなた、名前は?」

「フィリア・ハルスです」

「私はサクヤ・フェルター。あの中の『弟』の、今は恋人候補かな?」

「『弟』ってあの若い男性ですよね?」

「そう」


 フィリアはますます訳がわからない顔をした。


「あの人、何者なんですか?弟って無理あるでしょう。二十代にしか見えないじゃないですか」


 おばあちゃん、七十歳近いんですよとフィリアは呟く。


「見えないよねぇ」


 サクヤは頷き、『レイナ』が知っているイディールそっくりのフィリアを見やった。


「タビスって解るかしら?」

「そりゃあ、私も月星人ですから。女神様の特別な神官様ですよね」

「そ。あの人がタビス。女神の加護で歳を取っていないということになってる」

「なってるって違うんですか?」

「本人にも誰にも原理は解らないのだもの。そうじゃないかって言われてるわ」


 サクヤもユリウスの話はさすがに濁したが、アトラスですらユリウスに何をされてそういう状態にあるのか、解っていないのは事実だ。


「……お何歳なんですか?」

「六十五歳」

「……はい?」


 フィリアの目が見事に点になった。


「女神の奇跡を信じたくもなります」

 フィリアの顔が感激に染まる。


「あの彼、今代のタビスが何をした人か知ってる?」

「前王の弟で内戦を終わらせた方ですよね。名前は確か、アトラス様……」


 口にして、フィリアはやっと繋がったという顔でアウルムを見た。


「ということは、あの方が前の王様……」

「そう、アウルム様。そして、アトラスが討ったのが、あなたのお祖母様のお父上」

「え……?」

「彼女の本名はイディール・ジェイド・ボレアデス。広場の石碑にあるでしょう」

「イディール王女、さま……?」


 フィリアは和やかに話してる三人を孫は呆然と見つめた。


「元敵同士?」

「そうなるのかな。イディールは戦場に出てた訳じゃないけど」


 イディールが孫を連れてきて、その前で名乗ったのだから話して良いと理解したサクヤは説明した。

 生半可な知識よりはちゃんと理解して貰った方が良い。


「イディールは、終戦の際に死んだと思わせて逃げのびた。行き着いた国で女官をしていて、アトラスと会ったの。アトラスはイディールが誰だか判った上で見逃し、アウルム様も了承した」


 その後のことをサクヤは知らないが、なんでも器用にこなしたイディールのことだから、逞しく道を切り拓いたのは想像に難くない。


 フィリアの補足によると、塩の行商人をしている祖父と出会い家庭を築いた。岩塩の採掘権を買い取り、今は人を雇って採掘場を取り仕切る側だという。


 子供は娘が一人ーーフィリアの母親のみ。フィリアには二人の兄がおり、一家で経営しているとのこと。


「おじいちゃんーー亡くなった祖父が一度だけわたしに言ったことがあったんです。『おばあちゃんはきっと、ホントはオレなんかがおいそれと会える様な女性じゃなかったんだと思う』って。『女神様が気まぐれで会わせて下さったんだ』って。あながち間違いじゃなかったんですね。元王女さま……」


 はあっ……とフィリアは大きなため息をついた。


「びっくりです」

「内緒よ?」

「勿論です。おじいちゃんが生涯隠し通した秘密ですもの」


 言いながら、フィリアの視線はアトラスに移った。


「あのタビスさまの方は、どこかで会ったような?誰かに似ているような気がするんですよね」


 フィリアの言葉にサクヤは思わず吹き出した。

「……?」

「あなたにそっくりよ」


 正確には、当時のイディールにそっくりだとサクヤは見てきた様に言った。 


「何故、あなたは祖母のことをよくご存知なのですか?」

「……アトラスが、昔、異国の女王と結婚してたのは知ってる?」

「竜護星でしたっけ?その方はずいぶん早くに亡くなられたのでしたよね」

「そう。イディールが女官をしてたのがその国のお城で、私はその女王だったかも知れない人。記憶があるのよ」


 怪訝な顔をするフィリアに、信じられないわよね、とサクヤは笑った。


お読みいただきありがとうございます

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